2018.09.12
よそはよそ、うちはうち
最近、ふとした時に幼いころに何度も母に言われたセリフを思い出す。
「よそはよそ、うちはうち」
どんな時に出てくるかというと、たいてい私が何かをねだった時に出てくる。
例えば、小学校低学年の時、我が家ではマンガ本というものを一切許されていなかった。友達はみんな、同じ話題で盛り上がっている。どうしても欲しい。そこで、母に訴えるのである。
「マンガを買って。みんなも持ってるよ。」
と。そこで、このセリフの登場だ。
「よそはよそ。うちはうち。」
なぜ、このセリフを思い出すのかというと、お客さまからご相談をいただいた時に、同じセリフを言いたくなるケースが多いからだ。
「他社は他社。御社は御社ですよね?」
と。
いま、産業界では「働き方改革」ブームだ。政府が音頭を取る動きだから、とにかくみんな、働き方改革を進めようとする。だけど、自発的、内発的な動き出しではないから、何をしていいかわからない。すると、
「他社では、どんなことをやっている?」
と、情報収集を始めるのである。で、他社がやっていることの中から、つまみ食いで、施策を立案する。
「我が社もテレワークを導入しよう!」
人事や組織の改革でも一緒だ。新聞記事などで他社事例が目に留まり、お、いいなと思ったら、
「我が社も地域限定社員制度を導入しよう!」
「我が社も役職定年制を導入しよう!」
と、なる。
何も、他社事例を参考にするなと、言いたいわけではない。「他社がやっている」という事実は、「我が社もやる」という意思決定において、何の根拠にもならないし、論理的にはむしろ関係がないということを言いたいだけだ。だから、何かをやるかどうか悩んだ時に、
「他社はどうしてる?」
と、部下に調査を命じる経営者もよく見かけるが、この調査は無駄である。他社がやっているかどうかは、自社の意思決定に関係ないのだから。
では、他社事例を調査する意義とは、どんなところにあるのか。他者事例から学ぶべきことは、二つある。
一つ目は、その施策の効果、結果だ。PDCAの最初の一歩は、本来はDo。やってみることで、やってみなければわからないさまざまな事象やその結果について情報を収集するプロセスだ。前例のない取り組みなら、兎にも角にもやってみるしかない。だが、すでに前例があるならば、その施策にどんな効果がどのくらいあるのか、実施する価値や費用対効果などは知っておくに越したことはない。もし教えてもらえるならば、当然、教えてもらった方が早い。
二つ目はやりかた、やってみた時に生じる障害、そしてその対策と解決効果である。PDCAを二回転目から始められるというのは、効率という点では計り知れないメリットがある。まずはそのままやってみてもいいし、教えてもらった半歩先くらいから始めてもいい。
いずれにしても、こういう情報は新聞や雑誌の記事程度では絶対に手に入らない。学ぶなら、ちゃんと中身まで見せてもらいに行って、しっかり教えてもらわないと意味がないし、中途半端な情報はむしろ毒になりかねない。
その施策をやるかどうかという、意思決定については、
「よそはよそ。うちはうち。」
と、他社動向に左右されず、自分たちの現場の問題やその原因をきちんと把握して、論理的に結論を導かなければならない。
そして、やるとなったら、使えるものは他社でも何でも使って、全力で成果を上げればいいのだ。
経団連が採用協定の廃止に言及した。こういう時こそ、
「他社は他社。うちはうち。」
と、自分に言い聞かせて、無駄に外に足を向けず、中に向かってしっかり頭を使わなければならない。