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今日の一言

マネジメントは人と金

マネージャーに必要な能力とは何だろうか?
コンサルティングの現場では、よく出てくる議論のテーマだ。このテーマが出てくるたびに、私は「人と金を管理する力だ」と答えている。あくまで前線の管理職、一般的に言うところの『課長』を想定したこたえだが、経営者やリーダーの要件とも大して変わらないのではないかと思う。
 「それだけではないだろう。」という反論もある。たしかに、人と金の管理力というのは最低限必要な力にすぎないかもしれない。しかし、この二つをキチンと極めたマネージャーは、ほかの力、たとえば専門性や技術力、ビジネスの構想力が大したことの無いレベルだったとしても、意外ときちんと成果を出すのである。なぜなら、人と金を管理できる人は、その他については人ないし金を使って調達可能だからだ。買ってくるか、借りてくるか。
 逆に、この二つのどちらかがかけていると、マネージャーとしては機能不全に陥る。金を管理できなければ、収支が合わず、損失を垂れ流す。人を管理できなければ、仕事が回らず、損を垂れ流す。いずれにしても損を垂れ流すのである。
 ところが最近、どうも様々な企業において現場の課長の「人と金を管理する力」が両方弱くなってきているような気がするのである。
 たとえば、もし、あなたが課長ならば、この質問に答えられるだろうか。
 「今月はいくら儲かってますか?」
 今日は9月5日だ。この5日間でいくら儲かりましたか? 損失でもいい。この5日間でいくらの損失を生み出しましたか?
 こんな風に問うと、多くの管理職が、
 「うちの会社のシステムは、そんな風にリアルタイムで収支が出るようになっていない。」
 と、答えるだろう。
 人についても同様だ、あなたはこんなリクエストにこたえられるだろうか。
 「あなたの部下について、今日までのところで実力と成果を客観的に評価したレポートを、いますぐに提出してください。」
 多くの管理職が、主観と推測でしか評価できず、「部下と面談をしなければ無理だ」というだろう。
 単純に言えば、人についても、金についても、情報量が圧倒的に足りていない。世の中のシステム化が進んだせいだろうか? 自ら興味や必要性を感じ、情報を取りに行くことが少なくなっている。だから、期末や月末になって、システムから数字が出てきて初めて、
 「えっ、うちってこんなに儲かってなかったのか。」
 「えっ、あいつって、こんなに残業してたの?」
と、自分の組織の人と金について、驚いたりしている。その数字とあやふやな記憶だけを頼りに原因を分析したって、まともな対策につながるわけがないのに、終わってからの振り返りに時間をかける。
 うちは、管理部門だから関係ない。そんな風に他人事のような顔をするマネージャーもいるだろう。大いなる勘違いだ。むしろ、逆だろう。『管理』部門なんだから。
 たとえば、経理課。確かに経理は稼ぐ部署ではない。しかし、経理は会社全体の金を管理する部署なのだから、「あなたの会社は、この5日間でいくら儲かりましたか?」という質問に即座に答えられないといけない。人事なら、一人一人の社員のことを、直属の上司以上によく知っているくらいが望ましい。むろん、暗記しろとは言わない。聞かれたときに、とっさに何を見ればそれがわかるか。もしくは、見ればわかるように情報を整理してあるか。それがきちんとあればいい。
 そういう意味では、期末になってから面談をしないと、部下を評価できないという管理職は考えものだ。評価に必要な情報を、期末になってから部下に問わなければならない時点で、部下から信頼されることをあきらめたほうがいい。人と金をきちんと管理できているマネージャーは、通年で部下を評価し、リアルタイムでフィードバックしているから、期末に面談など必要としない。(極端な話、人事制度すら必要としない。)
 会計システムや人事制度など、仕組みが精緻化され、ブラッシュアップされるほど、マネージャーの器量が下がっていく。マネージャーの器量が下がっていくと、経営者や管理部門が不安になり、それを仕組みで補おうとずる。悪循環だ。システムを、能力不足を補うために使うとこうなる。システムはあくまで、十分な能力を用いて駆使するべきものだ。
 管理職にもっと器量を求めていかなければいけない。それができる管理職には、過分ともいえる報酬を与えていくべきだ。システムに依存する管理職と、システムに依存しない管理職を同列に扱ってはいけない。
 人の管理能力が、組織の成長規模の限界を定めるという考え方もある。5人までなら素晴らしく運営できる管理職が、6人を超えた瞬間から行き詰まったり、1000人まではとんとん拍子で成長させた創業経営者が、1000人を超えたとたんにぎくしゃくし始めたりする。そんな例はいくらでもある。たった一人の、極端にキャパシティーの大きな経営者が何万人もの会社を築きあげ、そのたった一人がいなくなった瞬間から下降線をたどって消滅した企業というのも一つや二つではない。
 管理職がどれだけの人と金を管理できるか。そのキャパシティーをいかに増やしていけるかが、企業の成長曲線を定義するのである。
 マネジメントは人と金。徹底的に把握しつくし、把握できる規模を大きくしていかなければならない。組織能力を測定する、わかりやすい指標ともいえるだろう。