2018.08.21
時間の感覚
研修講師をやっていると、終了後に受講者の方から質問をいただくことがよくある。それらの質問の一つに、研修の内容ではなく、研修運営のしかたに関するものがある。たとえば、終了時間のチャイムと同時に研修を終えることができると、
「時間ぴったりに終えるのが、すごいですね。自分はプレゼンの時間調整が苦手なのですが、何かコツを教えてもらえませんか?」
と、時間の使い方について聞かれる。この時間にかかわる質問は、最近とみに増えてきているテーマの一つだ。
時間の感覚というのは、仕事をする上ではとても大事だ。誰もが頭ではわかっていても、意外とこの感覚と実態がずれていることが多い。たとえば、事前打ち合わせ。コンサルティングの仕事で、経営会議で報告を行うとする。事務局の方が事前に打ち合わせをしたいとおっしゃる。たいていの場合、「経営会議の30分前におこしください」と言われる。研修会社の営業の方と、お客様のところに同行するときもそうだ。だいたい事前打ち合わせというと、30分確保しようとする人が多い。
しかし、私の過去のデータでは、事前打ち合わせが30分でちょうどよいというケースは、ほとんどないのである。長すぎるか、短すぎるか。一方的に情報伝達をするのであれば、たいてい10分もあれば事足りる。逆に、それ以上の時間を要するような情報を直前の『事前打ち合わせ』で伝えられても、普通は消化しきれないくらいの膨大さとなる。それなら事前打ち合わせでなく、メールで資料を送付すべきだが、そこまでの内容ではないから、事前打ち合わせなのである。
情報提供ではなく、何か決めたいことがあって、議論を要する場合もある。そもそも直前になって議論しなければならないということは、そうとうイレギュラーな事態だ。このケースでは、30分では足りないのがふつうだ。なぜなら、十分な情報がなく、かつ、直前に話し合って決めなければならないということは、今まで時間をかけて積み上げてきたことがひっくり返されるような事態になっているはずだからだ。いままで長い時間をかけて議論してきたことを、30分で片づけられることは普通はない(もし、片付くとしたら、逆に、選択肢も話し合う余地もほとんどないということが多い。この場合、30分もいらず、10分で終わる。)
ほかにもいろいろある。一度中断した資料作成を再開するには、見直したり思い出したりするのに2,30分かかると思って、そういう時間を確保しようとする。来客の前にも、事前準備のための時間を30分確保する。
ところが、実際その場になってみると、それほどやるべきことはないので、30分とっておいたのに5分、10分しか使わない。余った時間は、ほかに使いようもないので、結局、適当につぶしてしまうことになる。上記の事前打ち合わせの例で言えば、結局30分のうちの大半を雑談に使うことになる。(雑談が悪いという意味ではない。それはそれで、仕事上の人間関係を維持する上では有意義だ。あくまで、事前打ち合わせのために30分必要だと思い込んでしまう時間感覚のズレがテーマ。)
こうやって、時間感覚がずれたままで仕事の計画を立てると、全体の時間の使い方が間延びする。本当は10分でできることに30分を割り当ててしまうと、その30分を他の仕事につかえなくなる。余った時間を暇つぶしに使うか、または必要もないレベルまで無駄に凝ってしまい、過剰品質となる。
こうした時間感覚のズレを無くし、最適な仕事と時間の組み合わせを実現するためにはどうしたらよいか。単純な話だが、仕事をするときに時間を計測し、その実績を記録するのが一番だ。研修講師をしていてもそうだが、時間内に用意したコンテンツをしゃべり切れなかったり、逆に時間を余らせてしまう講師がいる。通常のプレゼンテーションでもそうだが、実際にしゃべってみて時間を計測し、記録してみれば、こんな現象は生じない。どのパートに何分かかる。実績で客観的にデータ化したものは、大きくずれない。だから、私も毎回どこに何分使ったかをメモに残している。その記録の蓄積から、このネタを挟むと何分必要になるというのがわかっているので、受講者の方からの質問や反応をみなががら、このネタを入れようとか、このネタを削ろうとか、そういう調整で時間ぴったりに納めることができるのだ。(実際には、そこまで厳密にぴったり終えてほしいという要望も少ないので、5分ほどオーバーすることがよくある。ぴったり終えてくれと、厳密に言われた時には、秒単位で終えることもできる、)
昨今、働き方改革の流れもあって、タイムマネジメントに対する意識が高まっている。時間を有効に使えるようになりたいという方には、まず、日々の仕事の所要時間を計測し、記録してみることをおすすめしている。