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コンピテンシー実用講座

実用編(1)業務分析 ②高業績者インタビューの進め方(つづき)

高業績者インタビューの最初のステップ、『成果を定義する』方法について、一つずつご紹介していきます。

まずは、『論理的に定義する』アプローチについて、話を進めていきましょう。

 

【成果定義の方法 ①論理的に定義する】

業務改善や組織設計のコンサルティングメニューの一つに、「業績指標の体系化」というものがあります。

組織の機能や役割がつぎはぎになっていて、全体としてうまくつながっていないと、会社全体の成果を出せません。コンピテンシーと同様、業務改善も結局のところ『成果を出すため』に行いますから、成果がはっきりしなかったり、そもそも成果の定義が間違っていたりしたら、業務プロセス全体をどこに合わせて最適化してよいのかわかりません。

そこで、業務改善のまえに、ばらばらになった『成果のつながり』、言い換えれば組織のつながりを整理しなおそう、というのが、この業績指標の体系化というアプローチです。

コンピテンシーを導入するときにも、これが必要になります。

 

前述のように、会計からアプローチする方法と、機能からアプローチする方法のふたつがありますが、いずれも作業としては、まずロジックツリーを作るというところからスタートします。

 

会計からアプローチするというのは、具体的には、単純に会社の最終損益を要素別に分解していくツリーを作るという作業になります。

 

現実的には、まず、最終損益の定義を行います。

目指す成果をを営業利益にするのか、経常利益にするのか、税引き後の最終損益にするのか。はたまた会計損益ではなく、フリーキャッシュフロー、つまり最後に残った現預金とするのか、という議論です。

これは、どの範囲を対象にコンピテンシーを導入するのかで、決定します。

 

たとえば、営業部門の成果を高めたいというのであれば、営業利益でしょう。

営業だけでなく、本業以外の、資金調達や投融資など事業外のあらゆる仕事を対象にしたいなら経常利益といった具合です。

この後のコンピテンシー導入プロセスを説明するうえで、あまり細かくするとかえって分かりにくくなるので、この後の説明は、とりあえず『利益』と表現します。

 

『利益』を定義したら、この『利益』を会計的に分解したロジックツリーを作成します。

 

利益をまず大きく分解すると、収入と支出に分かれます。

収入を大きく分けると、たとえば継続的な収入と一時的な収入に分かれる。

継続的な収入を国内からの収入と海外からの収入に分ける。

一時的な収入を新規顧客からの収入と既存顧客からの収入に分ける……これを徹底的に行うわけです。

 

当然のことながら、どんな分け方でもいいというわけではありません。

組織が機能別組織なのか、事業別組織なのか、または地域別組織なのかによっても変わってきます。

それから、経営目標が量的拡大を目指しているのか、質的向上を目指しているのかによっても変わってくるでしょう。あとでその組織や個人に割り振ることを考えて、うまく割り振れることを意識しながら、ロジックツリーを作ります。

 

こうして会計的に分解した指標を、漏れがないように各組織、各個人に割り振っていくのです。

言い換えれば、個人に割り振れるところまで徹底的に分解していきます。

 

たとえば、『消耗品費』という一般的な勘定科目では、大きすぎて個人に落とし込みにくい。そこで、それをさらに分解していって、『文房具代』レベルまで分解して、個人に落とし込む。

その、割り振りの過程で議論が起こり、各組織の『成果』が具体化されていきます。

 

たとえば、同じ営業であっても、

「第一営業部には、法人向けの売上高があてはまるよな。」

「いやいや、うちはあくまで既存顧客のフォロー営業だけだから、法人向けのうち、既存顧客売上高だけだよ。法人でも、新規顧客売上高に関しては、第四営業部だよ。」

「いやいや、ちょっと待って。第四営業部は、新規の商材についての営業を担当しているのであって、新規顧客なら何でも、というわけではないよ?」

「あれ?じゃあ、既存商材の、新規顧客開拓って、どこがやってんの?」

「それは、それぞれの営業で、適宜ってことなんじゃないの?」

「え、だけど、誰もそこに力入れてないよ?」

と、こんな議論が行われるわけです。

(ちなみに、この会話、複数の企業で見かけた、実際にあったコワイ話です。)

 

階層のどこに割り振るか、という議論も当然出てきます。

たとえば、人件費。

「人件費は、当然、各課に割り振ったらいいよね。」

「え、だけど、採用も、配置も、課長に権限なんてないじゃないか。人が足りないからって、勝手に補充できないし。」

「じゃあ、派遣社員、契約社員は課長権限で採用できるから、3年以上の長期雇用社員の人件費は部に、3年未満の短期社員の人件費は部につければいいか。」

「おいおい、ちょっとまて。長期雇用社員だって、残業については課長がしっかり管理すべきなんだから、基本給、手当、法定福利費なんかは部でいいけど、超過勤務手当については課に割り振るべきじゃないか?‘」

「っていうかさ、そもそも採用って部長にだって何の権限もなくね?」

「たしかに。結局、業績見込みを立てて、人を増やすか減らすかっていう話をしてんのは、本部長だもんな。部長以下は、与えられた人員で何とかしろって言われてるだけだし。」

「そうだ。じゃあ、人件費の基本部分は本部で、短期雇用社員と超過勤務については、部全体のものが部、それを課にブレイクダウンしたものを課に割り振るってことにしよう。」

 

このように、業績指標の分解を行い、それをどこに割り振るかという話をしていると、

「どの組織、どの階層が、どの指標を担うのか?」

「そもそも、それぞれの階層の責任と権限は、どのように分配されているのか?」

と、いう話から、徐々に、

「そもそも、成果をあげるためには、どんな機能が必要で、その機能をどこが担うのか?」

と、いう話が始まっていきます。

 

そうすると、今度は、

「何か、大事な機能を見落としていないか?」

と、いう点が気になってきます。

 

そこで、二つ目の『機能からのアプローチ』が必要になってくるわけです。

 

(つづく)