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コンピテンシー実用講座

(6)コンピテンシーレベルに関わるよくある質問 ②機会がなかった場合

コンピテンシーレベルについて、よくある質問の二つ目は、コンピテンシーを人事制度の評価の仕組みに取り入れているときによく出てくる質問です。

 

まずは、前回までの復習を兼ねて、こんなケースを想定してみましょう。

「今期、レベル3.0以上に該当するような実績、事実関係が何も確認できない部下がいた。確認できたのはレベル2.5がマックスで、特に問題となるようなケースはなかった。」

 

このケースでは、前回までにお伝えした、

「コンピテンシーレベルはマックスをとる」

と、いう原則に当てはめれば、普通にレベル2.5という判定になります。

 

そこで、出てくるのがこのような質問です。

「だけど、この部下は、昨年も一昨年も、問題や異常が起きたときにきちんと対応して、成果を出すことができていて、そうした事実を根拠にしてレベル3.0をつけることができていた。

今期は、たまたまそのような問題や異常がまったく発生しなかった。だから、レベル3.0の必要性がなかったので、発揮されなかっただけなんだ。

このように、必要がなかった、機会がなかったというケースでも、やはり事実根拠がなければ、評価をレベル2.5に落とさなければならないのか?」

これが今回のテーマです。

 

この質問にお答えするときに注意しなければならないのは、コンピテンシーの本来の考え方に基づく回答と、人事制度(評価制度)の運用という観点からの回答とでは、答えが変わる可能性があるという点です。

順を追って、ご紹介していきましょう。

 

まず、コンピテンシーの本来の考え方に基づく答えから。

結論から申し上げれば、この部下はレベル3.0と判断すべきです。

成果の再現性という、コンピテンシーの根本を考えたとき、この人の成果の再現性はいかがでしょうか?

昨年、一昨年とレベル3.0で問題を解決してきた。今期は特に実績はないけど、それは機会がなかったからです。この人が、来年、同じように問題や異常が起きたときに、

「解決できなくなっていて、そのせいで成果を出せなくなった。」

と、なる可能性は、どの程度あるでしょうか?

あまり考えられないのではないかと思います。

たまたま今期は問題が起きなかったけど、来期以降、また同じように問題が発生したら、同じように問題解決に取り組んで、成果を出せる可能性が高い。で、あれば、この人の成果の再現性、コンピテンシーレベルはレベル3.0と考えてよいでしょう。

 

さて、人事制度(評価制度)の運用という観点から、この「機会がなかった場合」という質問にこたえようとすると、必ずしもこのコンピテンシーの原理原則にのっとった回答になるとは限りません。

なぜなら、コンピテンシーという概念はあくまで『人財の客観的な目利き』にフォーカスしています。その人財の、その時点でのあるがままの姿を見極める。それだけです。

しかし、コンピテンシーを用いて人事制度や評価制度を設計する場合、目的は単に客観的に評価するだけではなく、その後の『育成』や、会社が期待する方向への『方向付け』といった様々な目的を持たせていくのが普通です。

その、個々の制度の目的によって、評価のしかたやルールが異なるので、典型的な人事制度(評価制度)の設計思想をご紹介しながら、いくつかの場合分けをして回答する必要があるのです。

 

次回は、このつづきとして、人事制度(評価制度)の運用における「機会がなかった場合」の評価をどうすべきか、という質問への回答につなげていきたいと思います。