2018.12.18
(4)コンピテンシーの注意点 ③成果の捉え方
コンピテンシー活用の注意点の最後、3つ目は成果の捉え方についてです。
コンピテンシーは『成果の再現性』を予測する評価の視点です。よく、お客さまから、
「目標管理は結果を定量的に評価する仕組みで、コンピテンシーはプロセスを定性的に評価する仕組みですよね?」
と、いう確認をされることがあります。
しかし、実際にはそういうものではなく、基本的には目標管理もコンピテンシーも、成果評価であり、そのプロセスにも着目します。
二つの違いを簡単に説明しておきましょう。
目標管理は事前に成果を定義して、その達成に向けて、いかに部下を指導し、育成していくかという『現在形』の情報処理であり、それを評価制度に適用する場合には、
「目標を達成したか、しなかったか。」
という、『過去形』の視点で評価を行います。
時制で考えれば、目標管理は『現在形』と『過去形』の視点です。
コンピテンシーは、
「こんな思考、行動を経て、こんな結果を生み出した。」
と、いう『過去形』の事実関係を根拠として、
「今後、同じような成果を、どのくらいの再現性で期待できるか。」
と、いう『未来形』の視点で評価を行います。
時制で考えれば、『過去形』と『未来形』の評価の視点。
目標管理にしろ、コンピテンシーにしろ、いずれについても『結果』『成果』をしっかりとらえることが大切です。
この、『結果』『成果』について、人事のコンサルティングで評価制度のレビューや運用支援を行っていると、よくいただく質問があります。それは、
「私の仕事は、成果がはっきりわかるようなものではない。」
「私の仕事は、成果を問われるようなものではない。」
といった前提のもと、
「私の仕事には、目標管理は使えませんよね?」
と、いったご質問です。
質問というよりも、むしろ自分ではすでに結論が出ていて、外部のコンサルタントに追認を求めている。そんなご相談と言ってよいでしょう。
多くの方は成果評価=目標管理だと思っているので、主に業績評価についてこうした質問をいただくのですが、上述の通り、コンピテンシー評価も『(未来形の)成果評価』ですので、目標管理についてこういう考え方をしてしまうと、コンピテンシー評価もできないということになってしまいます。
こうしたご相談をいただいた時、ご本人には大変申し訳ないのですが、私のこたえは常に、
「いいえ、そんなことはありません。」
と、いう内容になります。
むしろ、私の研修の中では常に、より積極的に、
「成果が出ない、又は求められていないとしたら、それは仕事ではない。」
とまで、申し上げているので、
「私の仕事には成果がない。」
と、いう趣旨の質問やご相談には、どうしても同意できないのです。
「私の仕事には成果がない。」
と、思ってしまう方は、多くの場合、『成果』という言葉のイメージを誤解しています。
売上を上げるとか、新しいものを作り出すとか、そういった、
「上に向かって伸ばす」
と、いうイメージで成果をとらえてしまうと、
「私の仕事には成果がない。」
と、いう誤解につながります。
生産性の指標を類型化するときによく使うフレームワークに、QCDVというものがあります。
Quality(Q)= マイナス(ミス、エラー、事故、不良など)がない
Cost(C)= 投入資源(ヒト、モノ、カネ、時間など)が少ない
Delivery(D)= 納期がぴったり(または短い)
Value(V)= プラス(売上、出来栄え、生産量、品質)が多い、高い
仕事は、これらのバランスで生産性や利益が決まります。もちろん、これはあくまで生産性指標の類型ですから、世の中の成果にはほかにも、
Green(G)= 環境負荷が低い
Compliance(Cm)= 法的適合性が高い
Social Responsibility(SR)= 社会的貢献度が高い
など、新たな成果指標も加わり続けています。どんな指標であれ、あらゆる成果はすべて、
「組織の存続」
という目的につながっているはずです。それらの成果が不足すると、どこかで組織の存続が危うくなる。民間企業であれば倒産するという結果にもつながりかねない。それが成果です。
このように成果にも様々な類型があるのに、なぜか、
「Value(プラスが多い、高い)」
だけを、成果だと認識している方が多いようです。だから、
「私の仕事には成果がない。」
と、いった誤解が生じるのです。
たとえば前述のようなご質問は、よく経理の方から頂きますが、確かに経理は売り上げや契約などの“Value”はないでしょう。(企業によりますが。)
しかし、経理が無くてもよいなどという組織も少ないはずです。企業が存続するためには、会計や税務は経営の根幹ですから。
では、経理の成果とは何かといえば、
「ミスがないこと(Quality)。」
「期限内に決算を終えること(Delivery)。」
の、二つは欠かせないでしょう。それから、
「それを行う工数(人数・時間)が少ないこと(Cost)。」
も、追加要件になることが多い。こう考えれば、Value以外の成果はすべて求められます。
また、もう一つの誤解は、成果創出というと、
「のばす」
「あげる」
と、いうように向上させることだという思い込みです。
成果創出というときには、
「維持」
と、いうのも立派に成果なのだと認識する必要があります。先ほどの経理の例で言えば、
「ミスがない」
と、いう状態を維持し続けるのは、立派に成果なのです。
このように、しっかり成果と認めてあげなければならないのに、
「できていて当たり前で、できないと問題だ。」
などという扱いをしてしまうケースも多いものです。これが、
「人財の強みを見過ごす。」
と、いう組織としては損失と言ってもよいような現象につながります。
たとえば、経理のスタッフにAさんとBさんという二人の担当者がいたとしましょう。
Aさんは機械部門の決算を、Bさんは繊維部門の決算を担当しているとします。
この二人の仕事の結果を見てみると、
「ミスがない。」
「締め切り日ぴったりに決算を終えている。」
「無駄な残業はなく、二人とも同じ時間数を残業している。」
と、いうように、すべての指標で同じ結果を出していたとします。
業績評価であれば、この二人の評価は全く同じものになるでしょう。
しかし、この二人をコンピテンシーの視点で分析する、つまり、
「成果の出し方」
に、着目してみると、どうなるでしょうか?
まず、二人に成果の出し方について、質問します。
「あなたは今期、ミスなく、納期内に、無駄な残業をすることなく、決算を終えることができましたね。このような結果を出すために、特に工夫したこと、意図して行ったことは何かありましたか?」
この時、二人の回答が、以下のように全然異なる内容になったと想像してみてください。
まず、Aさん。
「ミスを防ぐために工夫したことはありますか?」
「特に工夫というわけではないのですが、数字をインプットし終えたら、きちんと見直して、間違いがないように気を付けました。」
「では、納期に間に合わせるためには?」
「そこも特には……。私が担当する機械部門は一つ一つの案件が大きいので、決算のアイテム数が少ないですし。ふつうに日々の作業をしっかりやっていれば、それほどの作業量はないので。」
「残業については?」
「そこはむしろ課題で、今期も一度決算を締めてから、営業から追加の契約があるということを聞かされて、あわててやり直したので、残業になってしまいました。あれさえなければ、ノー残業で済ませることができたのに……。」
次に、Bさん。
「ミスを防ぐために工夫したことはありますか?」
「繊維は小さい金額の案件が膨大にあるので、これを手作業で入力していると、どこかでミスをしそうな気がしたので、システムの方に相談してデータを直接ダウンロードして決算フォーマットに落とし込めるようにしました。それから、VBA(エクセルの自動化機能)をつかって簡単なプログラムを作成して、通期の決算を自動で行えるようにしました。」
「納期を守るために、何か工夫したことは?」
「売上と経費の紐つけのところで、営業の方が契約番号を入力し間違えて、契約ごとの損益が間違ってしまうことが多いのですが、これを決算の時に見つけようとすると、すごく時間がかかってしまいますし、営業のほうで修正するにも時間がかかり、結果的に納期に間に合わないという原因につながっていきます。
なので、これを決算の時にまとめてやるのではなく、毎日、始業時に前日の契約入力内容をダウンロードして、一件ごとの紐付けをチェックして、間違っていたら、その日の夕方までに修正していただくように、営業の方にお願いしました。
その結果、決算の時にアンマッチエラー(紐付けミスのシステムアラーム)が出ることなく、スムーズに決算処理を進めることができました。」
「残業を減らすために工夫したことは?」
「その点は特に何も。ミスを減らすためにエクセルで決算を自動化しましたし、納期に収めるために、売上と経費の紐つけを毎日の積み重ねで処理しましたから、それでほとんど決算月に私がやらなければならないことは無くなってしまいました。なので、決算の月も、いつもの月と同じように日々の業務を処理するだけなので、そもそも残業の必要はありませんでした。」
いかがですか?
「ミスなく、納期内に、残業せずにできていて当たり前だ。そんなのは成果じゃない。」
と、考えていると、そもそもそのプロセスに興味を持つことなどありません。しかし、
「普通に、うまくできました。」
と、いうときでも、それを成果としてとらえて、
「そのために、何か工夫したことはありましたか?」
と、聴いてみると、隠れたその人の思考、行動が明らかになります。先ほどのAさんとBさんのケースでも、結果だけを見れば同じかもしれませんが、Aさんは、
「基本動作はしっかりしていて、それほど難易度の高い仕事でなければ、成果の再現性がある。」
と、いうことがわかりますし、Bさんは、
「難易度の高い仕事、困難な状況でも、自分で様々な対応方法を考えて成果を出せる。」
と、いうレベルの成果の再現性であることがわかります。
それがわかれば、おのずと仕事の与え方も、育成方針もそれぞれに合わせて変えていくことができるでしょう。
ところで、冒頭でもちらっと触れましたが、よく成果というと、
「定量的でなければならぬ。」
と、いう思い込みを持つ人もいます。
業績評価でもコンピテンシー評価でも、基本的に成果が定量的でなければならないということはありません。
たとえば、部下の育成に取り組んでいて、
「いままでできなかった作業が、できるようになった。」
というのは、育成の立派な成果です。
成果の捉え方について、最後にお伝えしなければいけない注意点は、定量的か定性的かを問わず、
「確認できない成果は、成果ではない。」
と、いう点です。
たとえば、業績評価でもよくあるのが、こんな目標設定。
「顧客満足度を80%以上にする。」
これ自体はいいのですが、問題は、
「この顧客満足度というのは、何かそういう調査をやっているという理解でよいのですか?」
と、聴いた時に、
「いや、そういうのは特にありません。」
「じゃあ、どうやって80%になったことを確認するのですか?」
「そこは、感覚で。」
と、まあこんな会話になってしまうケースです。
これでは、期末にまともな評価ができるわけがありません。
「そんなこと、あるわけないだろう!」
と、思いますか?
いえいえ。多くの企業で人事のコンサルティングをやっていると、意外とよく出てくるケースです。本当にしょっちゅうあります。
成果は定量的である必要はありませんが、客観的に確認可能でなければなりません。確認できない成果は、出ていないのと一緒です。少なくともビジネスの世界では、そう考えなければなりません。
これは、コンピテンシーの世界でも一緒です。たとえば、住宅営業の例で、
「お客さまにご満足いただけるように、最初の提案では必ずさまざまなバリエーションで、5種類のプランを準備して、お持ちしました。」
と、いう工夫が語られた時に、
「それで、お客さまの満足度は上がりましたか?」
と、聴くと、
「たぶん、ご満足いただけたのではないでしょうか?」
と、推測でしか自分がやったことの効果を語ることができない。これでは、そもそもそのアプローチが効果的だったのか否かが検証できません。当然のことながら、
「この人が、こんな感じで働いていれば、今後も同じような成果が期待できるか?」
という、成果の再現性も判断することができません。
成果の確認をするということは、評価のためというよりも、仕事のしかたとしてとても重要です。特に、営業など、社外の関係者を相手にしていると、ハイパフォーマーとローパフォーマーを分ける一つの要素が、この、
「成果の確認」
だったりします。社内なら、何らかの形で結果が耳に入るかもしれませんが、社外が相手の場合、意識的に確認しないと、相手の反応が手に入らないからです。
ハイパフォーマーは、必ず何か自分なりに仕事の工夫をしたら、その効果、成果を確認します。たとえば、先ほどのような例であれば、
「お客さま、今回は5通りのプランをお持ちしてみましたが、ご満足いただけましたか?」
と、その場で質問してみたり、またはすべての手続きが終わってから、自分なりに、
「満足度アンケート」
のようなものを作り、その中で、
「5通りのプランを提案した点について」
といった設問を作って、それが顧客の満足度に影響したのかしなかったのかを確認します。
それでもし、
「いくつも提案しなくてよいので、こちらのニーズに合った、自身のある提案を作りこんでほしかった。」
といった、ネガティブな評価をされたら、当然次回のアプローチは変えていくことになります。
つまり、自分の思考や行動、工夫の結果や効果を確認するというのは、PDCAを回すために欠かせないのです。自分のアプローチの結果を確認しようとしないということは、仕事がやりっぱなしで、自己満足に陥っているだけだということになります。だから、
「確認できない成果は、成果じゃない。」
と、断言しなければならないのです。
今回は、コンピテンシー活用の注意点の3回目。テーマは「成果の捉え方」でした。簡単にまとめて終えたいと思います。
まず、1点目は成果の類型。上方向に向かう成果ばかりが成果ではない。ミスがない、コストが少ない、納期が早いなど、様々な視点から成果を捕らえる必要があるんだ、という点。
2点目は、向上ばかりが成果創出ではない。維持というのも立派に成果として認めるべきなんだ、ということ。ふつうにうまくいったときでも、当たり前と考えず、「そのために何か工夫したことは?」と、プロセスに興味を持ってみると、思わぬ発見がある。
最後に3点目は、確認できない成果は、出ていないのと一緒なんだということ。何か工夫したら、必ずその効果に興味をもって確認する。それがコンピテンシー発揮、開発の第一歩とも言えるでしょう。仕事のしかたの基本でもあります。
ここまでで、概念的な『コンピテンシーとは何か』については、おおむねご紹介しきったかんじです。
なので、次回から、コンピテンシー分析の実務に入っていきたいと思います。
引き続き、よろしくお願いします!