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コンピテンシー実用講座

(4)コンピテンシーの注意点 ②強みと場面の関係性

コンピテンシーの注意点の二つ目は、簡単に言えば、
「万能な強みなどない。」
と、いう点です。こう言ってしまうと、言いすぎだと叱られるかもしれません。もう少し柔らかい言い方をするなら、
「万能な強みなど、そうそう無い。」
あまり変わりませんね。

 

コンピテンシーの概念上、強みとは、
「成果につながる」
という点が、最も重要な要素になります。どんなにたくさん知識を持っていても、どんなにすばらしいスキルを身につけていても、それが成果につながらなければ、意味がありません。
このように考えた時、「強み」はそれが活用される「場面」とセットで考えなければなりません。ある場面では強みと考えられる能力が、別の場面では何の強みにもならない。そんなケースがあり得るわけです。
もっと言えば、ある場面では強みだった能力が、ある場面では弱みになってしまう。そんな諸刃の刃となるような能力だってあります。

 

わかりやすい例で言えば、英語力。英語力が強みとして発揮される場面は、当たり前ですが、英語を使う場面です。

外国人とコミュニケーションをとらなければ、成果を出せない場面。または、英語で契約書や見積書を、自ら作らなければならないような場面。
逆に言えば、外国人と関わる機会が全くない、英語を必要とする場面が全くないという、そういう仕事をしている限り、どんなに高い英語力を保有していたところで、「強み」とはなりません。ただの、宝の持ち腐れ。

 

では、「強み」が「弱み」になってしまうケースとは、どのようなケースでしょうか?
みなさんも聞いたことがありませんか? エースプレイヤーがグッドマネージャーになるとは限らないという話。
現場で様々なハイパフォーマーのコンピテンシーアセスメントを継続的に行っていくと、優秀なプレイヤーがマネジメントで失敗するケースというのが、本当によくあります。その多くが、まさに「場面の違い」によって、強みが弱みになってしまっているケースだったりします。
たとえば、営業担当者として、長年かけて身につけてきた『商品知識』が『多様な提案力』につながり、大きな成果を上げてきた。そんな人がいたとします。
普通の人が客単価1万円くらいのところを、様々な提案をすることで、客単価1万5千円から1万8千円をコンスタントにたたき出す。そんな人をイメージしてください。
この人が、その優秀さを評価されて、管理職に抜擢されました。部下は新入社員を含めた若手ばかり。当然、提案力などありません。商品知識も浅い。そこで、この管理職が持ち前の強みである『商品知識』をフルに活用します。部下が相談にくると、
「こんな商品がある。この商品はこんな使い方ができるから、そのお客さんのニーズに合うはずだ。」
と、こんな調子でアドバイスをする。いつしか部下は、上司を生き字引のように使い始め、上司もそれが自分の役割だと勘違いしてしまう。
営業成績を上げるだけなら、それでもいいかもしれません。しかし、部下は上司を便利なインターネット代わりに使うので、いつまでたっても自分で覚えない。自ら提案を組み立てることができない。結果、その部下が異動した先々で
「あいつのところで育った部下は、だいたい使えない。」
なんていう、評判が立つ。
この場合、この人の『豊富な商品知識』『多様な提案力』という強みは、

「営業成績を上げる」

と、いう場面、状況では強みとして認識されますが、

「部下を育てる」

と、いう場面では弱みになってしまう。
場面と言うと抽象的ですが、与えられた状況と、そこで期待される成果。そこで成果を出すために、その人の力がうまく活用されるかどうか。

力と場面のマッチングで「強み」か否かが決まるのです。

これが、
「万能な強みなどない」
という、注意点の意味合いです。

 

「そんなこと、注意されなくてもわかってるよ!」
と、多くの方が思うかもしれませんが、頭でわかっているのと、それが実践できるというのは、別問題です。

 

たとえば、最近、多くの会社で、
「管理職への登用条件として、TOEIC730点以上」
と、いう条件を設定している会社をよく見かけます。
では、その会社において、管理職が英語を必要とする場面がどれだけあるかを確認すると、ほとんどの管理職が英語を使う機会が一度もない。そんな会社が驚くほど多いのです。
すると、どうなるか。みんなが、
「管理職登用試験のため」

だけに、頑張って英語を勉強して、

「一時的に730点」
と、いう状態になる。だけど、その後、使う場面がまったくないから、実際にはほとんどしゃべれない。
「能力」に対して、「場面」がない。
こんなことを、そういう条件を設定した人事担当者に言うと、
「グローバル化という、世の中の流れを否定するんですか!」
の、ように反論されることも多い。

もちろん、そんなことを言いたいわけではありません。
TOEIC730点という能力を条件とするのであれば、そして、それがほんとうに必要ならば、それに合致した「場面」を与えなければ意味がない。言いたいことは、

「場面も作れ」

と、いうことなのです。

でなければ、結局、TOEIC730点をとっても、しゃべれないし、成果にもつながらないのだから、

「グローバル化という世の中の流れに乗れていないではないか。」

と、いうことです。
たとえば、各課にかならず、日本語を話せない外国人の部下を採用して配置するとか、管理職になったら、最初の配属先は外国の拠点にするとか、または、外資系で、日本語を話せない外国人しか出てこないような会社ばかりを担当させるとか。
実際に、ある会社でそんな提案をしたら、
「そんなポストはほとんどない! 非現実的な提案をするな!」
と、言われたことがありました。

「じゃあ、やっぱりTOEIC730点という条件が、現実に合っていない。つまりは非現実的ですね。」

と、いうことになります。

 

こんな風に、私たちは、「能力」にばかり目を向けがちです。

それがどのような場面で、どのような成果につながるのかという「成果との関連性」を具体的に考えるのが非常に苦手。
だから、抽象的に「適材適所」などという言葉を使いますが、ほとんどそれができていないのです。
なお、「適材適所」という言葉の使い方自体も、「適所」の条件を設定し、それに合致した人を「適材」と定義して配置するという考え方になっているケースがほとんどです。
ですが、コンピテンシーを運用していくうえでは、むしろ、人財の強みの在り方に合わせて、成果を生み出すプロセスを作り替える、つまり、「場面」を「人の強み」に合わせて作り変えることで、結果的に「適材適所」を実現するというアプローチのほうが王道といえるでしょう。
言い方が回りくどいので、少し簡単に言い直すと、
「成果の出し方をあまり縛らず、その人の強みを活かしたやりかたで成果を出せれば、それでいい。」
と、いうように、成果の出し方の多様性を認めていこうという考え方です。

 

たとえば、コンサルティングで成果を出すというと、『思考力を鍛え』『自分で考え、脳みそを振り絞り』、『顧客が思いもつかないような提案をすること』を求める人がいます。いまでも、
「MBA(経営学修士)は最低限必要だ」
などというコンサルタントもいます。
考え方はそれぞれですから、それを否定するつもりはありませんが、少なくともコンピテンシーの世界では、
「別に、そういう方法じゃなくてもいいだろう。」
と、考えます。

実際、私はそういう『強み』を持っていないし、むしろ、
「そういう、精神論や形式論に偏った考え方が嫌い」
と、いうタイプでもあります。

だけど、曲がりなりにもコンサルタントとして独立し、生計を立てることができていて、客観的には、コンサルティングという仕事と、私という人財は適材適所だと認識しています。

では、坂本という人財とコンサルティングという仕事は、どのように適材適所になっているのでしょうか。

 

昔、師匠の川上さんから、
「坂本さんのコンピテンシーは、器用貧乏だね。」
と、言われたことがあります。
「深い専門性が一つもないのに、小器用に何でもそこそここなすし、早いよね。」
たぶん、本人は褒めたつもりはかけらもないでしょう(笑)。
ですが、それを言われたときに、
「この人、さすがだな。伊達にコンピテンシーで稼いでないな。」
と、思いました。おそらく、私がはじめて川上さんを尊敬した瞬間だったのではないでしょうか。

 

私の強みは、
商社で根本さんという上司に教わった「顧客との関係構築力」
同じく商社で池田さんという師匠に教わった、「会計視点で数字を読む力」
業務コンサル会社で小野さんという師匠から教わった「業務プロセスの分析力」
それから、人事コンサル会社で川上さんから教わった「人財分析に必要な技能」
言語化してみると、せいぜいこんなところでしょうか。

ただ、これらを他の人よりもほんの少し、早くできているようです。

それが、川上さんの言うところの器用貧乏という私の強み。
なお、オリジナリティとか、創造力とか、何か新しいものを生み出す力、顧客が思いもつかないような独創的な解決策を生み出す力は、まったくと言ってよいほどありません。

 

だから、私がコンサルティングに取り組むときは、『頭を振り絞る』のではなく、
「コンピテンシーアセスメントスキルと関係構築力を使って、現場のキーパーソンを見つけて仲良くなる」
「会計と業務分析のスキルを用いて、お客さんの仕事の流れをスピーディーに把握する」
「お客さんのキーパーソン(ハイパフォーマー)と議論しながら、主にその人の知恵を基に、解決策を立案する」
というプロセスで取り組みます。
それで期待される成果が出ますし、再現性もあります(でなければ、独立して10年も続かないでしょう)。
私は私なりに、コンサルティングという業務を、自分の強みに合う形で遂行し、「適材適所」を実現している。これでいいじゃないか、という話です。

 

今回も長くなりましたので、整理してまとめておきましょう。
コンピテンシーを実用する上での注意点の二つ目は、『力(ちから)と場面(仕事、成果)をセットで捉えること』です。

まず、万能な強みなどない。ある場面では強みとなる力も、別の場面では役に立たなかったり、弱みになってしまうこともある。
次に、強みと場面を組み合わせるときに、「強み」と「場面」を単純に結びつけるとか、「場面」に求められる「強み」を身につけるなど、「場面」を中心に考えるだけでは、コンピテンシーの使い方を間違える。
強みが成果につながるように、仕事のしかたそのものをつくりかえるという、「強み」中心の発想を取り入れることで、コンピテンシーの開発や活用の幅が広がります。

 

以上が、コンピテンシーの注意点の二つ目、『強みと場面の関係性』でした。

次回は、コンピテンシー活用にかかわる注意点の最後、三つ目をご紹介します。