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コンピテンシー実用講座

(4)コンピテンシーの注意点 ①上手≠強み

さて、ここまででコンピテンシーという言葉の定義と、コンピテンシーの日常的な活用方法をご紹介してきました。

特に、『強み』という言葉の定義と、その客観的な特定方法を前回ご紹介したわけですが、この『強み』という言葉をコンピテンシーの世界で使用するときに、私たちが気を付けなければいけない点が三つあります。

私たちが従来の能力評価や行動評価の世界で使用してきた『強み』と、コンピテンシーの世界での『強み』はこれまでに延べてきたような違いがあるのに、うっかり陥りがちなワナが、三つほどあるのです。

そこをきちんと押さえないで、形だけコンピテンシーを導入すると、人財の活用方法も、育成方法も何も変わらず、

「仏を作って魂を入れず」

と、いった結果に陥ってしまいます。

今回はその三つの大きな注意点のうち、一つ目について、ご紹介したいと思います。

 

注意点の一つ目は、

『上手≠強み』

と、いう点です。上手、下手とか、得意、不得意という話と、強い、弱いは別問題だということです。

能力評価や行動評価は、結果との因果関係に関係なく、どれだけ保有しているか、できるかというように、プロセスだけで完結した評価の仕組みです。

ですから、上手にできるかどうか、たくさん知っているかどうかというように、単体で評価されます。自ずと、『高い点数をとることができる教科が強み』とか、『上手にできる項目が強み』というように、プロセスの品質と評価結果が一致します。

ところが、コンピテンシーは結果との因果関係でその人の力(ちから)を評価します。そうすると、必ずしもプロセスの品質と評価結果が一致するとは限りません。

たとえば、よくあるのがお客様の会社で、技術者の方が、

「私はコミュニケーションとか、人間関係構築というのが苦手で…」

と、対人関係に苦手意識を持つ方がいます。その中でも、実際に他部門との折衝や交渉を行う場面に立ち会ってみると、説明もたどたどしいし、語彙も決して豊富とは言えない。論理的にもやや破たんしている部分もあったりと……確かに、

「コミュニケーションが上手とは言えないな。」

と、言わざるを得ない人がいます。能力評価や行動評価なら、コミュニケーション力という項目で高い点数をとれそうにありません。

ですが、その人がそうやってコミュニケーションをとると、不思議と相手が納得して、こちらの言い分を受け容れてくれる。そういう人もいるのです。

そういう時に、

「なんで、この人のこの説明で、相手が同意してくれるんだろう?」

と、コンピテンシーの視点で、その成功の原因を相手に確認してみると、

「確かに、あの人の説明は拙いかもしれないけど、こちらが理解するまで嫌な顔一つせず、何度でも粘り強く説明してくれるから。」

「あの人は、ぜったいに嘘をつかないし、一度言ったことは必ず最後までやり遂げてくれるから。」

「あの人は、そもそも現実的に無理なことは要求してこないから。断る理由がないんだよ。」

などなど、こんな風な評価が相手から出てくることもあるわけです。

 

これまでにご紹介したように、コンピテンシーは個々の力(ちから)を単体で評価するものではありません。人の力(ちから)は組み合わせて発揮されます。その組み合わせ方で、どのような結果の再現性があるのかを見るのがコンピテンシー。

ですから、このような人をコンピテンシーで評価するならば、

「あなたは確かに、説明は下手かもしれないけど、相手を説得して納得を得るという成果の再現性についてはピカイチですよ。だから、あなたはコミュニケーションは下手かもしれないけど、強みだと考えたほうがいいです。」

と、このようなフィードバックを行うべきだということになります。

人は無意識に弱みだと自覚すれば、そういうシーンから逃れようとしますが、このように『下手だけど強い』という人が、意外とせっかくのコンピテンシーを発揮できる場面から逃げてしまっているというケースも多いものです。こういう人が、自分のコミュニケーション力を強みと自覚し、積極的にこうした折衝や交渉の場面で活躍しはじめると、飛躍的に成果が高まるというケースもよくあるのです。

 

逆もあります。上手だけど、弱い人。

コミュニケーション力で言えば、たとえば私たち研修講師の世界で、たまにこんな評価を受けている人を見かけます。

「あの先生は、話はすごく面白いし、あっという間に時間が過ぎていくんだけど、終わったあとに何にも頭に残らないんだよねぇ。」

話すのはすごく上手で、相手を飽きさせない。しかし、終わった後に何も残らない。研修の成果はあくまで『学び』であり、それによって得られる『仕事の成果』ですから、何も残らないということは、成果が生まれていないということになります。

この場合、コンピテンシーの視点でこの講師のコミュニケーション力を評価するならば、

「話すのは上手。だけど、研修講師としてはコミュニケーション力が弱い。」

と、いう評価になるでしょう。

 

このように、能力評価や行動評価と、コンピテンシー評価では『強み』『弱み』の定義が変わりますから、プロセスの品質と、それが成果につながっているかどうかというのは、切り離して考えたうえで、優先すべきは成果につながっているかどうかだ、という点に注意が必要です。

私たちは学生時代までは完全なる能力評価で育てられ、その後、新入社員~若手クラスの仕事を覚えるまでは、行動評価的な見方で育てられます(上手にできるかどうか)。

だから、明確な意思をもって、自覚的に切り替えないと、ついつい、

「上手にできるかどうか」

で、自分や他人を評価してしまいそうになります。

 

と、いうわけで、まずは三つの違いの一つ目、

「上手≠強み」

と、いう点についてご紹介しました。

次回、次々回で、残りの二つをご紹介していきます。