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コンピテンシー実用講座

実用編(1)業務分析 ②高業績者インタビューの進め方(つづき)

ずいぶん長くなっていますが、いまはコンピテンシー導入に伴う業務分析手法の一つ、高業績者インタビューの進め方について、ご紹介しています。

今回は、基礎編でご紹介したコンピテンシーインタビューの『基本形』と、業務分析のために行う高業績者インタビューの”違い”について、続きを進めていきます。”違い”の二つ目、『具体性』について。

 

コンピテンシーの基礎編では、『固有名詞』『日付』『場所』を特定できる具体性を、スキーマ対策の最低条件としてお伝えしました。その上で、その場面の行動について『単語』でわかった気にならず、「それをどのようにやったのか(How)」と、「なぜ、そのような行動をとろうと考えたのか(Why)」を、しっかりと押さえてレベルや種類の分析につなげるのだという趣旨のご紹介をしています。

高業績者インタビューの場合、目的が評価や人財分析ではなく、「その業務では、どのような思考や行動が、どのようにして成果に結びつくのか」という、業務理解、業務分析にあります。そうすると、単にHow、Whyレベルの具体性ではなく、そのHowやWhyの具体的な動作や手順まで押さえなければなりません。

 

そこで、もう一段、具体性を高める必要が出てきます。

取り組みを、プロセス(中間成果)単位に分解し、そのプロセスを場面(日付・場所)単位に落とし込んだところから、その場面の行動を『動作』レベルに分解します。

 

どんな感じになるのかを具体例で紹介してみましょう。

たとえば、ある場面の行動について、こんな内容のヒアリングができたとしましょう。

 

「7月の第一週の火曜日だったと思うのですが、大学の研究室で過去の膨大な実験データを使用して、α基準値という値を正確に算出しました。このα基準値というのは、研究室で進めていたAという物質の動態を検証するうえで、計算の肝になってくる数値です。この数値が正確でないと、その後の研究結果が全部ずれていってしまいます。なので、小数点以下20桁まであっていないといけないのですが、それを私が算出しました。」

 

日付(7月第一週の火曜日)と場所(大学の研究室)が特定されていて、場面レベルの具体性に落とし込むという条件は満たされています。α基準値というのは固有名詞ではありませんが、『その研究で使用するα基準値』だと考えれば、取り組みが具体的に特定できているので良しとしましょう。

成果は小数点以下20桁まであっている正確さだということになります。

 

そこで、以前ご紹介したHowとWhyを確認するという方法なら、こんなやり取りになります。

 

「その、α基準値を正確に算出するうえで、一番難しかったこと、工夫したことは何ですか?」

「そもそも、大学のシステムはただのデータベースで、演算機能が付いていなかったんです。なので、それをエクセルに取り込んで計算したのですが、その時に異常値を除外したり、桁をそろえたりというように、データをクリーニングするところが一番大変でしたし、気を使ったところでした。」

 

さて、このケースについて、以前コンピテンシーの基礎のところでご紹介したインタビュー手法であれば、

「そこで、特に工夫したことは、どんなことでしたか(How)?」

と、いう形での質問につながっていきます。それでたとえば、

 

「Lookup関数を使って、データの条件を一覧表にして、その条件から外れるデータを除外できるようにしました。それと並行して、そのデータを散布図でグラフ化して、データの条件範囲を視覚化することで、異常値を目で見て確認できるようにしました。この二つの方法を組み合わせることで、異常値を確実に排除できたことが、正確なα基準値の算出につながりました。」

 

と、いった回答が得られれば良しとしていました。

 

さらに、

「なぜ(Why)、そういう二つの方法を組み合わせようと思ったのですか?」

と、いう質問につなげていきます。

 

「α基準値の算出方法は教科書に載っていて、その中に、使用データの条件が書いてあるのですが、その条件の記載内容を見て、これはLookup関数を使って条件設定できるな、と思ったんです。実際、それほど難しいことではありませんでした。だけど、4万件以上のデータなので、その結果を上からざっと眺めても、本当にこれで異常値が排除されているのかどうか、私が作ったLookup式が正しい結果を導いているのかが、いま一つ確信が持てませんでした。それで、どうしようかと思ってもう一度教科書を見たら、使用データの条件がグラフの範囲で示されているのを見て、これを再現してみれば、データが正しく条件設定されているかどうかわかるじゃないかと考えました。それで、散布図を作ってみたら、すべてのデータが正しく条件範囲の中に納まっていたので、これで大丈夫だ、と。」

 

このレベルの情報が採れればよし、としていたのが以前紹介したインタビュー手法です。実際、日常のマネジメントや人事の年度考課でコンピテンシーを評価分析するのなら、このような情報を蓄積していけば十分でしょう。

 

しかし、業務やそのKSF(主要成功要因:キーサクセスファクター)を理解するための高業績者インタビューという目的を考えると、これだけでは不十分です。

 

理由は二つあります。

 

一つ目は、業務というのはプロセスですから、一連の流れを理解しなければなりません。コンピテンシーを単体として分析するなら、要所要所の工夫、レベル3以上の行動がわかればいい、ということで済みますが、このような『つまみ食い』のインタビューでは業務が理解できたという状態にはたどり着けません。

 

二つ目は、業務を理解できたといえるのは、「やってみろ」と言われたらできる、という状態を指します。これを『再現可能な具体性』と言います。

むろん実際に行動するには、専門的な技術や知識を習得しなければできないこともあるでしょう。しかし、少なくとも理解できたというためには、まず何をして、次に何をして、というように、動作レベルで再現、言語化できなければなりません。

 

たとえば、上記のインタビュー内容で、「Lookup関数を使ってデータの条件を設定する」という言葉が出てきていますが、これは具体的にどんな動作をしたことを指すのか。それを再現してみろと言われたら、できるのか?と、いうことです。

自分自身がEXCELの関数に詳しくて、このLookup関数というのを知っていれば、やり方自体は説明できるかもしれません。しかし、このとき相手がそのLookup関数をどのように使ったのかはわからないでしょう。

このレベルの具体性では、『再現可能な具体性』には到達していない。

 

そこで、『動作レベルに分解する』というアプローチが必要になってくるのです。

 

では、上記のインタビューを、その動作レベルに分解するインタビューに変換すると、どのようなやり取りになるのか。同じ事例で、例示してみましょう。(次回に続きます)