2019.02.13
(5)コンピテンシー分析の基礎 ⑥コンピテンシーレベル4
<レベル4>
レベル3に到達すると、日々発生する波風、問題や異常、特殊な条件など、その場その場の状況に合わせて、自ら対応方法を考えて乗り越えていくことができますから、高い成果の再現性が期待できます。
部下がレベル3に達すると、その上司は安心して仕事を任せることができますし、たいていのことは相談ではなく、報告または提案の承認という形で進んでいきます。
そういう意味では、レベル3というのはビジネスパーソンの一応の完成形。いわゆる一人前、というレベルと言えるでしょう。
そのレベル3のさらに上、レベル4とレベル5は、明確に差別化された人材、ハイパフォーマーと呼ばれるレベルになります。
まず、これまでと同様に、行動発生過程に沿ってレベル4の定義をご紹介しましょう。
レベル3は行動発生過程の『思考』から、自分の力でできているレベルです。その上流に位置する『状況認識』や『意図形成』については、自らやっているというよりは、与えられたものを正確に理解、把握できているというイメージです。
レベル4は、『意図形成』のところが理解把握ではなく、
「自らの意思で、自らの発想で、独自の意図を形成している。」
と、いうレベルです。
つまり、目指すゴールが違う。
コンピテンシーの本を読み、その定義文言を忠実に運用しようとすると、よく誤解を生じるのが、『独自の工夫で』といった文言にとらわれて、
「プロセスがユニーク」
「ほかの人とは違う工夫」
と、いうように、プロセスのユニークさでレベル4と判断してしまうケースを見かけます。ここに注意する必要があります。
レベル4は、プロセスのユニークさではなく、目指すゴールの違いなのです。
もちろん、単に高いゴールを目指すだけではレベル4とは言いません。高い意図を形成したら、当然、それを実現するのは難しいものです。その難しいゴールを達成する方法を考えだす『思考』も必要ですし、その難しかったり、面倒くさかったりする方法を実行する『行動』も必要です。高いゴールを目指せば、当然普通の方法では無理でしょうし、いわゆる『独自の工夫』が必要になるでしょう。
あくまで、『高いゴール』が先にあって、それを実現するために『独自の工夫』が付いてくる。これがレベル4のイメージです。
さて、では普通よりもちょっとでも高いゴールを目指し、それを実現できたらレベル4かというと、実はそうでもありません。
『高いゴール』には、一定の定義があります。それを紹介しておかなければなりません。
レベル3までが目指すゴール(成果)と、レベル4以上が目指す成果には大きな違いがあります。
レベル3が目指す成果は、『成果基準』と言われるレベルの成果です。スタンダード。
どんな業務、どんな取り組みでも、仕事であれば必ずOKラインというものがあります。
「この仕事で、この状況なら、このくらいの成果を出せば、誰もがOKと言ってくれるだろう。」
と、想定されるような成果水準です。このOKラインは、何から決まってくるかというと、過去の経緯から決まってきます。
「この仕事で、この状況なら、今までもこのくらいの成果でOKと言われてきた。」
と、いうように。
デファクトスタンダードという言葉がありますが、まさにそれがレベル3が目指す成果なのです。レベル3は自らの意思で、自らの成果イメージを意図として持つのではなく、あくまで、このOKラインをしっかり理解している、把握しているということなのです。
この成果基準に対して、『成果限界』というラインがあります。
簡単に言えば、「これ以上は、ぜったいムリ!」と、誰もが諦めるし、実際に誰も実現できたことがない。そういう成果水準。
そういう成果の限界というのは、あらゆる仕事について回ります。
その『成果限界』は、何によって規定されるかというと、その仕事を進めるときの、環境(状況)に組み込まれた『制約条件』によります。
「権限がないから無理。」
「人が足りないから無理。」
「予算がないから無理。」
「技術的に不可能だから無理。」
「会社の仕組み、ルール上、無理」
制約条件とは、こういうものです。環境に組み込まれた条件。
ふつうは、こうした制約条件があるから、「不可能」と判断するわけです。
レベル4は、単なる『高い成果』を目指すのではなく、このような『成果限界を超えた成果』を創出しようという意図を持ちます。よく、テレビドラマで、
「できるかどうかじゃない! やるんだ!」
なんていうセリフがありますが、誰もができないと思っていることでも、それを何とか実現しようとする。思考力の高さ以前に、意図の持ち方で差別化される。それがレベル4なのです。
ただし、繰り返しになりますが、高い意図を持っただけではレベル4ではありません。その高い意図を実現しなければなりません。
成果限界を超える成果を生み出すためには、『制約条件』を克服しなければなりません。レベル3はプロセス上の問題を解決するレベルの思考力、行動力で何とかなります。ですが、制約条件を克服するということは、仕事の環境そのものを変えていくというレベルで思考力と行動力が求められます。
予算がないというのが制約条件なら、どこからか資金調達をするか、または予算がなくても実現する方法を考え出す。
権限がないなら、権限を獲得するか、権限がなくても実現できる方法を作り出す。
ルール上できないなら、ルールを変えるか、ルールの中でできる新たな方法を考える、
法律上できないなら、法律を変えるか、法律の範囲でできる方法を考え出す。
こんな風に並べていったときに、
「そんなこと、できるわけないじゃないか!」
と、言うのが、レベル3です。レベル3は、あくまで既存の環境の範囲内で、「できる範囲」で問題を解決し、成果を出す人です。そして、レベル3がめざす『成果標準』というのは、
「その環境下では、その成果が出せればOKだよね。」
と、いうように、あくまでその環境ありきで認知される成果なのです。
レベル4は、できる範囲ではなく、
「いままで出せなかった成果を出せるように、環境そのものを変えていく。」
と、いうアプローチなのです。
このような考え方なので、レベル3とレベル4の違いを明確にするために、レベル3のことを『状況従属的アプローチ』と呼び、レベル4を『状況変容的アプローチ』と呼ぶことがあります。
状況に従属して、その範囲内で成果を出すのか、成果を出せるように状況そのものを変えていくか。こう考えると、レベル3とレベル4の間にも、大きな差があるということがご理解いただけるのではないでしょうか。
次回はレベル5について、ご紹介します。