2018.11.21
(3)コンピテンシーの使い方 ③成功の原因分析
今回は、前回にひきつづき、私たちが自分や他人の『強み』を客観的に把握できない、2つ目のワナについてご紹介していきます。
その前に、まず前回の内容を簡単にまとめてみましょう。
1)強みを『その人の成果の再現性を支えている武器』と、定義する
2)その強みを客観的に把握するためには、その人の成果の出し方、成果に至る思考と行動を掘り下げて確認する
このように考えた時、コンピテンシーの世界における『強みの把握のしかた』を一言で言うと、
「成功の原因分析」
という、言葉でまとめられます。
成功したときに、そのプロセスを振り返り、その原因を究明する。そうすることで、その人の成果の再現性の源泉となる力(ちから)、武器が見えてくる。
このように表現したとき、なんとなく違和感を覚えませんか?
成功の原因分析。『成功』という言葉と、『原因分析』という言葉を、これまでの人生の中で合わせて使用したことって、あまりないのではないでしょうか?
これが、私たちが強みを客観的に把握できない、『2つ目のワナ』です。私たちは普通、失敗したときにしか振り返らない。原因を分析したり、次に生かすための教訓を得ようとしたりというような、次につなげるという発想を持ちません。
このワナを紹介するときに、よく例に出すのが、日常の報連相です。
業務分析の一環として職場の観察調査をしているとよくわかるのですが、日常の報連相というのは、「WhatとResultだけで成立している」と、言われます。
ちょっと想像してみてください。ある営業担当者がいて、上司に報告を求められます。
「坂本くん、PD社の件、あれ、どうなってる? 毎年実施している、新任管理職研修。」
これに対して、部下が答えます。
「はい。先週、先方の本社に伺って、担当の佐藤さんにお会いしてきました。」
ここで、部下の坂本さんが報告しているのは、何をしたか(What)です。つまり、進捗を事実として報告しています。
すると、上司はふつう、その結果(Result)をたずねます。
「おお、そうか。それで? どうなった?」
「おかげさまで、例年同様、2日間の研修を3開催、計6日間で実施することが決まりました。金額も例年と同じです。」
このように、うまくいったという報告がされると、これで会話が終了するはずです。
「おお、そうか。よかった。じゃあ、引き続き、よろしく頼むよ。」
「はい!がんばります!」
こんなベタな会話にはならないでしょうが(笑)。
一方で、この結果(Result)が成功ではなく、失敗という内容だと、普通はここで終わらないはずです。
先ほどの会話で、部下が進捗を報告し、上司が、
「おお、それで、どうなった?」
と聞いたときに、
「いや、じつは横からリクルートがエラく安い金額を差し込んできまして。今年は試しにリクルートを使ってみたいそうです。」
と、いう答えが部下から返ってきたとします。いかがですか? 「おお、そうか。」などと上司が頷いて、ここで会話は終わりますか?
普通は終わりません。
「なに? 坂本くん、君は今までどういうアプローチをしてきたんだ? 訪問履歴を見せてみろ。」
と、まずはその人がどのような行動をとったのかを確認するはずです。そして、少しでも思わしくない行動を見つけると、
「なんで、ここでこんなに間を空けてしまったんだ?」
「ここで、この金額を提案したのは、なぜだ?」
と、いうように、失敗につながった原因をキチンと洗い出し、
「今から、こんな風に攻めてみろ。」
とか、
「今回は仕方がないにしても、今後は・・・」
というように、確実に次につなげる対策を打つはずです。
これを、日々続けていると、どういうことが起こるでしょうか?
成功の原因を分析すれば、その人の強みがわかる。逆に、失敗の原因を分析していくと、その弱みがわかります。コンピテンシーの世界では、弱みは強みの逆ですから、
「問題や失敗の再現性につながる、その人の能力の不足」
とでも、定義されます。
私たちは、日々、自分についても、他人についても、成功したときは振り返らず、失敗したときだけ振り返りますから、情報の蓄積がどんどん偏っていきます。弱み情報だけがたくさんあって、強み情報が全くない。
人事のコンサルティングをしているときに、上司の評価結果をレビューして、その妥当性を検証するという仕事があります。それをやるとよくわかるのが、日本の企業の多くの上司が、部下の弱みだけをかなり正確に把握していて、強みについてはほとんどわかっていない、という実態です。
これが、期末に部下を適切に評価できず、部下の実力に合わせて、仕事を与えたり、任せたりすることができない原因でもあるのです。
日々の報連相でプラス3分。いい結果が出たときに、
「どうやって、成果を出せたのか?」
「なぜ、そういう行動をとったのか?」
と、HowとWhyを聞いてみる。
それを続けていくだけで、部下のマネジメントのあり方が劇的に変わるはずです。
管理職だけではありません。若手の方ならば、先輩が成果を出したときに、
「どうやったんですか?」
「どうして、そうしようと思ったんですか?」
と、興味を持って聞いてみましょう。それだけで、自分が成果を出すために何が足りないのか、何を課題にしていけば良いのかがわかるでしょう。又は、ついていくべき先輩か、そうでないかの見極めがハッキリするに違いありません。
小難しいインタビューのしかたなんてもっと後の話。まずは、日々のコミュニケーションを通じて、自分や他人の強みを発見してみること。それがコンピテンシーを実用するための近道です。