2019.12.04
実用編(1)業務分析 ②高業績者インタビューの進め方(つづき)
各組織、職種、階層別に成果を定義したら、あとはその成果をより高いレベルで生み出している『高業績者』を選抜していきます。
ここで留意すべきことが二つあります。
ひとつは、網羅性です。
組織、職種、階層ごとに、まんべんなく複数名を選抜します。高業績者インタビューというのは、高業績者をモデルとして、効果的な成果創出プロセスを解明して、それを後述の形で横展開しようという趣旨の『業務分析』です。
当然のことながら、
「その人にしかできない特殊なアプローチ」
を参考にすることはできません。
また、同じ成果だからと言って『唯一絶対の正解となるような方法論』というのもあり得ないでしょう。ですから、基本的には、それぞれの成果に対して、複数パターンの成果創出プロセスが想定されます。
職種だけでなく、階層という視点も気を付けなければなりません。同じ組織でも、当然のことながら役職者と一般社員では機能や成果が異なります。
そのため、一つの職種、階層について、『できるだけタイプの異なる高業績者』を複数名、選抜して分析する必要があるのです。
目安としては、各組織、階層ごとに最低でも2-3名ずつの『高業績者』を選抜して、インタビューを実施する必要があると考えてよいのではないでしょうか。
二つ目の留意点は、『比較対象の確保』です。
『高業績者』とは、そもそも相対的な概念です。
他者に比べて高い業績を生み出すことができている人材。
その成果創出プロセスをインタビューで聞きだして、それを何らかの形で横展開しようとするわけですが、後の作業で意外と難しいのは、
「いったい、この人の仕事のしかたのどこが、他者と差別化されるような高い成果に結びついているのか?」
と、いう分析です。
高業績者のインタビューを行い、それをモデル化して発表したときに、一般の社員から、
「そんなの、みんなやってるよ!」
と、言われてしまうような内容では、コンピテンシーを導入しても、あまり意味がないでしょう。
私たちコンサルタントと呼ばれる職業であれば、様々な企業で、高業績者以外にもインタビューをする経験をたくさん蓄積しています。また、業務改善のコンサルティング現場では、インタビュー以外にも観察調査、帳票調査など、様々な業務分析を行います。
そうした経験から、似たような職種、似たような業務で、一般的にどのような仕事のしかたをしているのか、というベンチマークを得ていれば、それとの比較で高業績者インタビューの内容を分析し、
「何が、他の人と異なる成果につながっているのか?」
を見つけ出すことができます。
しかし、そうした知見のない業務、職種については、やはり比較対象がなければ、『他社(者)と差別化されるプロセス』を見つけ出すことはできません。
このような目的から、それぞれの職種、階層について、平均的な業績を出している人、いわゆる平均的業績者も複数名選抜して、同様にインタビューを行います。
インタビュー後のアウトプットの仕方については後述しますが、まずは比較対象を準備しておく必要がある、という点をこの段階では強調しておきたいと思います。
こうして、高業績者と平均的業績者を選抜すると、いよいよインタビューということになるわけですが、インタビュー対象の選抜という点について、最後にその実施ボリュームのイメージをご紹介しておきたいと思います。
上述のように、職種ごと、階層ごとに高業績者を複数名、平均的業績者を複数名抽出します。
その際、たとえば、比較的単純に営業、製造、開発というように、シンプルに分かれるケースもありますが、必ずしもそうなるとは限りません。
大きな企業の場合、同じ営業でも、個人向けと法人向け、または商品特性が全く異なる営業など、業務プロセスや求められるコンピテンシーが異なる可能性が高い場合は、これを分割してインタビューを設定したほうがよいでしょう。
このように考えると、少し大きな会社であれば、営業だけでも商品別や顧客特性別に4-5職種、それぞれ一般社員と管理職に分けて、高業績者と平均的業績者を最低でも2-3名ずつ選抜します。それだけでも5×2×2×3として、60名が選抜されます。
次回以降のインタビューのところで詳しくご紹介しますが、一人当たりのインタビュー時間は、少なく見積もっても1時間半は必要ですから、60名なら90時間の延べ工数を必要とします。
この調子で製造や開発、サービスなど、それぞれの職種でも選抜していきますから、インタビューの規模は企業の規模や職種多様性によってもずいぶん大きく変動していきます。(実際、コンピテンシー設計にかかわるコンサルティングフィーの過半がインタビュー代だと言っても過言ではありません。)
また、それで十分なデータが採れなければ、追加インタビューという形で候補者を増やしていくケースもよくあるのです。
このように、高業績者インタビューというアプローチは、総じて負荷が高いものです。また、このあと紹介するように、インタビューのしかたにも技能が求められ、相応の訓練を必要とします。それゆえに、後日ご紹介する『その他』のコンピテンシー導入手法が発生しているわけです。
そして、単に評価制度や採用手法を設計するだけなら、『その他の手法』のうち、かなり負荷の低い方法でも十分に事足りるのが実情です。
しかし、単に制度を設計するだけでなく、たとえば、
「自社の本当の強みを見つけ出したい」
「自社の成長が鈍化した原因(問題)を見つけ出したい」
「自社の人財育成、登用、配置の問題や課題を抽出したい」
と、いうように、コンピテンシーの視点から自社の組織分析を行おうとする場合には、やはり高業績者インタビューは有効なアプローチです。
俗に三現主義とも言われるように、現場、現物、現実を知るためには、生の一次情報が欠かせません。高業績者インタビューというのは、大変ではありますが、その『生の一次情報』を取得するという点では、実は最も負荷の低い、効率的な手法なのです。
ただ、繰り返しお伝えしているように、そのインタビューには技能が必要となり、誰でもできるというものでもありません。なので、十分なインタビュアーを得られない場合は、後述する別の手法(観察調査や帳票調査)を用いて代替します。それを読んでいただければ、高業績者インタビューがいかに効率的かを、ご理解いただけると思います。
まずは、高業績者インタビューとは、どのくらいのボリュームを覚悟しなければいけないのか、そしてそれでも有効な手法ではあるのだ、という点だけをあたまの片隅において、この後の続きをお読みいただければと思います。