2019.10.02
(9)コンピテンシーインタビュー の基礎 ⑨行動の結果を聴く(その1)
行動と思考を動作レベルでしっかり聴けると、最後はその行動の結果を聴くというプロセスになります。この、結果を聴くというプロセスが、コンピテンシーを運用するときに、意外とおろそかにされがちです。
多くの方が、
「コンピテンシー評価は業績評価とは違うものだ!」
と、いう先入観にとらわれ、プロセス(行動)と結果(成果)という2軸で考えてしまいがちです。すると、コンピテンシーは、結果評価じゃないのだから、プロセス情報が大事だ、というかたよりが生じ、結果を聴かない。
これが、結果を聴くという動作をおろそかにする原因です。
再三にわたってご紹介してきたように、コンピテンシーという考え方においては、思考や行動の価値は『成果との因果関係』で決まります。ですから、この『行動の結果を聴く』というのは、とても重要なプロセスとなります。
結果を聴くときに気を付けなければいけないのは、結果(成果)にもいろいろあるという点です。
取り組みの成果、いわゆる最終成果があります。
それから、プロセスの成果や、さらにそれを分解した場面の成果、つまり中間成果がある。
そして、その場面においてとった行動レベルに分解すると、その行動の直接的な結果もある。
コンピテンシーインタビューは、最初に取り組みを聴き、その成果を聴いたうえで、分解に分解を重ねています。しかし、思考と行動を聴いた後、
「その結果、どうなりましたか?」
と、聴くと、インタビューを受けている人は、たいていの場合『取り組みの最終成果』に立ち戻ってしまいます。
分解に分解を重ねた『思考と行動の直接の結果』は、一つ一つをとればとても小さいものであり、「たいした話ではない。」と、普通は軽視してしまうのです。その結果、どうしても最終成果(=大きい成果)の話をしたくなってしまう。
たとえば、前回までの講師養成の話を例にとるとこんな感じになってしまいます。
「ビデオカメラを設置して、それから受講者の様子を撮影した映像をスクリーンに映して、まずはやらせてみた。」
という話でした。そこで、結果を聴きます。
「そうやってやらせてみて、どのような結果になりましたか?」
と、いう質問になるでしょう。すると、多くの場合、次のようなこたえが返ってきます。
「それを何度か繰り返した結果、講師として一つのコンテンツをきちんと話すことができるようになり、お客さまからも問題ないという評価をもらえるようになりました。」
ここで気を付けなければいけないのは、このインタビューはまだ始まったばかりだということです。連載形式だと、ずいぶん長いことこの部分をあつかっているので、読んでいるみなさんにとっては、「そうだったっけ?」と、思われる方も多いでしょう。なので、簡単にこの事例を振り返ってみると、ここまでの流れはこんな感じです。
・講師養成に取り組んだ
・3つのコンテンツについて、お客様から問題のない評価をもらえるようになった。
・取り組んだ期間は6月上旬から9月にかけて。
・まず、いちばん、最初に、模擬実演会を実施した。
・6月上旬、場所は会社の会議室で。
・時間は9時の始業開始直後。
・ビデオを設置し、自分は別室でモニターできる環境を作った。
・映像で受講者を映し出し、受講者に向かって話しかけている環境を作った。
・(なぜ?)本番に近い環境でやらせないと、本来の相手の実力がわからないという、過去の経験を生かして。
・まずは、最初の30分の導入部分だけをやらせてみた。
こんな内容です。つまり、いま、インタビューは6月から9月に至る3か月の取り組みの、最初の場面の、最初の行動を聴いただけなのです。3か月のうちの『はじめの30分』の話。
なのに、結果は?と聞くと、3か月の取り組みが終わった最後の部分、つまり、
「お客さまから問題ない評価をいただけるようになった。」
が、出てきてしまう。
一歩間違えば、そこでインタビューが終わってしまいます。このあと3か月間で、この人がすごい強みを発揮しているかもしれないのに。それが把握できていないまま、この人のことをわかった気になってしまう。
これが結果を聴くときに気を付けなければならない、一番の罠です。
かといって、相手はコンピテンシーのことを理解している人ではない可能性が高いから、どんな聴き方をしても、最初はこのような最終成果の回答になってしまいます。なので、それはそれとして、一度受けとめたうえで、再度、聞き直すというステップを踏みます。
「それは、9月以降の話ですよね? いちばんはじめの模擬実演会で、本番に近い環境を作り出し、初めの30分のところだけを一人でやらせてみたわけですが、その最初の30分間の模擬実演の結果はいかがでしたか?」
このように、最初の行動を要約して、「その結果はいかがでしたか?」という形で質問すると、相手にこちらの意図がわかりやすくなります。
なお、きわめて実務的な話ですが、相手がこたえたことに対して、そのこたえを否定して質問しなおすというのは、相手の心に負担をかける結果となりますので、注意が必要です。
「自分が悪かったのかな?」
と、委縮させてしまったり、逆に、
「それならそうと、そういう質問をしろよ!」
みたいに、抵抗感を持たせてしまうと、そのあと、相手がいちいち考え込むようになり、自然なこたえが出てこなくなることが懸念されます。
とかく、コンピテンシーインタビューというのは、採用面接や昇格審査、年度の考課など、相手の人生や処遇、モチベーションを左右する場面で実施されることが多いので、なおさらそのような傾向が出てきやすいものです。
ですから、質問のし直しによって、相手の心に余計な負担をかけないためにも、
「私の質問の仕方が悪かったですね。失礼しました。」
と、一言お詫びを申し上げて、相手のこたえが悪いのではなく、こちらが悪いのだ、ということを前置きしたほうがスムーズにインタビューが進むでしょう。
さて、本題に戻します。このように、具体的な行動の結果を聴きなおすと、相手もこちらの質問の意図が理解できるので、『行動の直接的な結果』をこたえてくれます。
「話し方としては、最初から自然な形で話せたと思います。特に修正が必要な違和感はなく、内容面でいくつかアドバイスすれば、最初の30分は完成といっていいくらいの出来栄えでした。」
こんな感じです。
このように、『行動の直接的な結果』を取り出すことができたら、ここまでのすべてのプロセスと同様、結果についても『いろいろあるけれど、があてはまらなくなるところまで具体化する』という作業に取り組みます。
少し長くなりましたので、次回に続けたいと思います。