2019.07.10
(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ⑨自己スキーマの弊害
前回ご紹介したケーススタディについて、続きをご紹介しましょう。
前回ご紹介した、事例の節々に使われている単語、たとえば『問題』とか『提案』、それから『本質的』といった言葉。こういう言葉がなんとなく『論理的』というBさんの自己スキーマに合うわけですが、このようなとき、スキーマの第一の弊害が発生します。
つまり、このスキーマに合いそうな事象を、強く印象に残そうとする。
「ほら!私は今回の事例で、論理的思考力という自分の強みを発揮したぞ!」
こんな風に、少し脚色というか、強調して記憶に残すことになるのです。
強調して記憶に残したあまり、その記憶を呼び起こして誰かに話そうとすると、無意識に強調された表現になってしまいます。
「一例ですが、A社のコスト削減プロジェクトにおいて、私が社員インタビュー結果を論理的に分析して、仕入先が少ないというA社の本質的な問題を指摘したことが、社長の高い評価につながり、契約継続につながりました。」
きっと、こんな感じになるでしょう。
この回答のポイントは、事実関係を客観的に説明するのではなく、その事例に対して『自分が持っている印象やイメージ』、つまり主観的な説明になってしまうというところです。
そのとき、『事実』と『認識』の間にズレが生じます。上記の回答内容をよく見てください。
「私が、社員のインタビュー結果を論理的に分析して」
と、いうくだり。これは厳密に言えば「うそ」になります。論理的に分析したというプロセスはなく、社員から言われたことをそのまま伝えただけですから。
この人が嘘をつこうとしているとか、都合よくごまかそうとしているとか、意図的に脚色して高い評価をもらおうとしているとか、そういうことではありません。
コンピテンシー分析、コンピテンシーインタビューという場面で、この自己スキーマがもたらす最大の問題は、本人が本気で、
「自分が論理的に分析して、この問題を見つけ出したんだ」
と、そう信じているという点なのです。
さて、みなさんが上司としてこの件をよく覚えていて、
「事実と違うな。自己スキーマに陥っているな。Bさんはそれほど論理的思考力が強いわけじゃないんだよな。」
と、考えたとしましょう。そして、それが適正な評価だとします。そこで、これをフィードバックしようと考えます。
「でも、あの件は、顧客の社員からそういう指摘があって、それをそのまま社長につないだだけだから、論理的思考力を使った事例という内容ではないよね。」
または、上司として、他の案件でBさんが論理的に仕事をしなかったがために、失敗につながったという事例を知っていて、
「C社の件では、きちんと事実関係を根拠としておさえないまま、無理やりこちらの言い分を押し通そうとして、先方からの信頼を失ったよね。そうかんがえると、論理的思考力についてはまだまだ十分とは言えないレベルなんじゃないだろうか。今後、課題として、研修を受けたり、一つ一つの提案を論理的に作る訓練をするなど、論理的思考力の向上に取り組んでほしい。」
と、それこそ論理的に、根拠と対策を提案したとします。
このとき、Bさんが素直に、
「そうですね! 確かにそうだ。論理的思考力を鍛えます!」
なんて、自らの成長にむけてエンジンがかかる可能性は、実は低い。なぜかというと、そこでスキーマの二つ目のワナが発動するからです。つまり、「スキーマに合うように無理やり解釈する」というワナです。
Bさんのスキーマは、
「私は論理的思考力が強みだ。」
と、いうものです。一方、上司の指摘は、
「あなたは論理的思考力が弱い。」
と、いう内容。つまり、スキーマに合わない。
すると、Bさんは無意識に、上司に言われた内容を、「スキーマに合うように解釈しようとする」のです。
ややこしい話ですが、「論理的思考力が強みだ」というスキーマに合うように、「上司が私について論理的思考力が弱みだと言っている」という事実関係を解釈しようとすると、どのようになるでしょうか?
私が見てきた多くの事例では、
「この上司は自分のことをわかっていない。」
というように、
「上司が悪い」
と、いう結論になっています。
実際、社員意見調査で、評価について、
「上司が好き嫌いで評価をしている。」
というコメントが多く出てきて、問題意識を持った人事の依頼で調査をしたことがあります。調査の結果、上司たちが意外と客観的根拠に基づいて、論理的に適正な評価をしていることがわかりました。その時は、部下の方々に私がコンピテンシーインタビューをしてみたのですが、インタビューを受けた部下の方から、
「こうやって、話をしてみると、上司の評価の方が正しかったんですね。」
と、自己スキーマに気づき、自己開発の必要性に気づいていただくことができました。
「部下が自己スキーマで、上司の評価を素直に受け止めることができない。」
と、いうのが実態。つまり、自己スキーマは、部下の成長を阻むブレーキになるということです。部下だけではありません。もしあなたが、自己スキーマに囚われていて、強くもないのに強いと、自分について勘違いしていたら、すでにその部分について成長がストップしている可能性があります。
このように、相手が自己スキーマの弊害に陥っているという可能性を念頭に入れておかなければ、インタビューで客観的な情報を獲得し、適切に相手の強みや弱みを分析できません。
また、その後、相手のコンピテンシーを開発するためにも、この自己スキーマをきちんと解除しておくことが大切な要件となります。
この、自己スキーマの解除という視点が、コンピテンシーインタビューの技術を理解するうえで不可欠なのです。
これでようやく、コンピテンシーインタビューの技術を理解するために必要な基礎知識のご紹介が終わります。
これらの知識をもとに、次回から技術編を展開していきたいと思います。