2019.06.19
(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ⑥ハイコンテクストのワナ
ハイコンテクストとは、一言で言えば「抽象的」という意味合いになります。反意語はローコンテクスト、「具体的」です。
世界の言語圏や文化圏を比較すると、日常のやり取りの抽象度には固有の傾向があるという考え方があります。もちろん、それぞれの言語圏や文化圏の中でも、個人ごとに比較すれば、比較的抽象的にコミュニケーションをとる人もいれば、具体的にやり取りすることを好む、または無意識にそうなるという人もいるでしょう。
その中で、私たち日本という言語圏、文化圏では、かなりハイコンテクスト、つまり抽象的にやり取りをする傾向が強いと言われます。
やり取りをすると言うと、単なる表面的なコミュニケーションだけを捉えているように感じます。
しかし、私たち人間は『言葉で考える生物』です。言葉を使って考える。言い換えると、言葉を使わずに考えるなどということはできない。
たとえば、「自分ではわかっているけど説明できない」という発言をよく見かけますが、これは人として(人類として)あり得ません。わかるというのは、考えた結果ですから、わかったところまでの思考プロセスはその思考プロセス上で使った言葉で説明できるはずなのです。
なのに、「わかっているけど説明できない」という人は、いったい何が起きているのかというと、簡単に言えば、「うっかり考えるのを忘れてしまっている部分がある」「それにもかかわらず、考えていないということに、自分では気づいていない」ということになります。
つまり、考えていないところがあるのに、考えた気になっている。わかった気になっているだけ、という現象に陥っているのです。
この、言語化=思考というメカニズムから言えば、私たち日本のビジネスパーソンは、日々の言語化がハイコンテクスト(抽象的)になっている……と、いうことは、私たちの思考も抽象的になっている、ということになります。
抽象的に考えるのは得意。だけど、具体的に考えることは苦手。物事を抽象化するのは得意。だけど、具体化するのは苦手。
こんな風にまとめてみると、なんとなくみなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。
ビジネスの実際のシーンを思い浮かべてみてください。私たちは抽象的に仕事をします。
よく、業務改善の世界で使われる、『使いっぱなしにしてはいけない6大禁句』というものがあります。これらの言葉を壁にたくさん貼っているような職場では、成果が出ず、無駄がたくさん生み出されているケースが多い。そういう要注意語句の集まりです。
どんな言葉が要注意かというと、
『促進』『推進』
『強化』『向上』
『改善』『徹底』
こんな言葉です。要は、日本語の二字熟語というのは、かなり抽象的なわけです。ですから、ほかにも『拡大』や『遂行』、『撲滅』などなど、ビジネスの現場で威勢よく使われそうな二字熟語は、だいたい要注意と考えていいでしょう。
二字熟語以外でも、よく同類だということで注意を促されるのが、『~化』です。
『効率化』『マニュアル化』
『共有化』『標準化』
『見える化』『グローバル化』
などなど。
こんな言葉が、壁に貼ってあったり、上司との目標設定や、経営計画などにちりばめられているとき、コンサルタントはその『中身』を聞きます。
「マニュアル化というのは、たとえばどのような業務を、どのような形で、どんなレベルまでマニュアルに落とし込むつもりですか?」
「安全対策の強化と壁に貼ってありますが、この職場ではどんな安全対策を、どのような方法で、どこまで強化することを目指しているのですか?」
多くの場合、このように具体的な中身を聞かれて、即答できる人は少ないものです。
「あらゆる業務を、できるだけ具体的にマニュアル化するんです!」
「事故を防止するために必要な、あらゆる対策を打つんです!」
と、たいていの場合、答えに具体性はなく、共通する点としては「あらゆる」とか「できるだけ」、そして「全部やる!」と、気合だけは十分な、抽象的な答えになることが多い。
俗に「風呂敷を広げる」という表現がありますが、私たちが陥るハイコンテクスト思考の弊害とは、正にそれなのです。
抽象的にテーマを打ち出すのは得意。だけど、中身を具体的に考えることができない。
具体的に考えることができないのに、「漏れがあったら大変だ」などと、妙に几帳面な完ぺき主義を目指す人が多い。すると、中身についてはとりあえず「全部」と欲張る。
こうやって、無駄な作業や業務を打ち出すあまり、効率が下がり、成果が出ない。
私たちが業務改善や組織分析を行うと、必ずと言ってよいほど見かける日本企業における『典型的な生産性低下のメカニズム』の正体が、ハイコンテクストのワナなのです。
このように抽象的に考え、言語化する私たちにとって、コンピテンシーインタビューというのは、とても相性が悪い。なぜならば、「いつも」とか「常に」といった情報では、スキーマの罠に陥る可能性がありますから、具体的に、つまりローコンテクストで情報を収集し、ローコンテクストな情報を根拠として分析を進めなければならないからです。同時に、自分自身の振り返りや、強み弱みの分析など、自己分析という点でも、このハイコンテクストのワナが弊害をもたらします。
このコンピテンシー分析におけるハイコンテクストの弊害がどのようなものか。それから、このハイコンテクストの弊害とスキーマの弊害がハイブリッドで組み合わさると、どのようなことが起きるのか。そうしたコンピテンシー分析とこれらの弊害の関係について、次回以降、ご紹介したいと思います。