2019.02.27
(5)コンピテンシー分析の基礎 ⑧コンピテンシーレベル2.5
<レベル2.5>
ここまでにご紹介してきたコンピテンシーレベルの5段階を簡単に整理してみましょう。
<レベル1>
誰(何)かの作業レベルの明確な指示があれば、行動して成果を出すことができるレベル。
自身の成果の再現性はないレベル。
<レベル2>
標準的、定型的な作業プロセスを知識として理解しており、それをそのまま実施して成果を出すことができるレベル。
平常時ならばという限定条件付きで、成果の再現性が期待できるレベル。
<レベル3>
その場の状況に応じたアプローチを自ら考え、判断し、それを実行して成果を出すことができるレベル。
問題や異常があっても、成果の再現性が期待できるレベル。
<レベル4>
その場の状況に組み込まれた制約条件を克服して、従来出すことのできなかった成果を出すことができるレベル。
従来よりも高い成果を、再現性を伴って創出できる状況を作り出すレベル。
<レベル5>
従来とは異なる全く新しい状況を構想し、実現することで、市場の価値観や評価尺度を作り変えることができるレベル。
新たな成果定義を作り出し、新たな市場を作り出すレベル。
このようにレベル定義を概観してみたときによくわかるのは、仕事を始めたばかりの人たちがレベル1,2のところにいて、一人前になるとレベル3。
レベル4になるといわゆるハイパフォーマーで、出現率が限られてくる。
レベル5になると、もう、ほとんど出てこないレベル。
こんなイメージを持っていただけるのではないかと思いますし、そのイメージは、それほど現実と変わらないと思います。
さて、このレベル尺度を人事制度や部下育成に活用しようとして、実在者に当てはめてみてください。
すると、すぐに多くの方がある悩みに直面します。
その悩みは、世の中には意外とこんな人が多い、という事実に起因します。
『完全に杓子定規で、知識を適用してばかりいるわけではない。それなりに柔軟に対応してくれる。だけど、じゃあ自らアプローチを考え、判断して問題解決ができている、というレベルでもない。』
つまり、レベル2は超えているんだけど、レベル3には到達していないという状態です。レベル2以上、レベル3未満。
実際、私がいままでにアセスメントをしてきた経験から見ても、そういうレベルの人がたくさんいます。
むしろ、すっきりレベル3という人よりも、このレベル2以上レベル3未満という人の方が多いのではないかと思います。
ですから、レベル2とレベル3という尺度では、あてはまらない、こうした人たちをどのように評価するかを定義しないと、採用にしろ、評価にしろ、育成にしろ、コンピテンシーを実用化することが難しくなります。
そこで、運用上、当然のように設定されるのが、レベル2.5という中間点です。
ただし、単純に、
「レベル2は超えてるけど、レベル3には物足りないから、レベル2.5にしよう!」
などという感覚的な運用をすると、結局のところ、コンピテンシーの導入目的である、客観性や論理性が失われ、みんなが安易にレベル2.5を使うという本末転倒な結果となってしまいます。
従って、レベル2.5をきちんと定義する必要があります。
レベル2.5とは、行動発生過程で言えば、『思考』で施策やアプローチを立案できない。一方で、知識をそのまま適用するのではなく、柔軟に対応することはできているという状態です。
この時、この人は何を用いて『柔軟に対応できている』のでしょうか?
『知識』と『思考』の間。柔軟性を担保するものとは?
それは、『経験』です。
型通りの知識ではなく、過去の蓄積から得られる知識。それが経験です。
十分な思考力、問題解決力には達していないんだけど、きちんと眼前の状況に合わせて柔軟に対応できている。
その時、その人に、
「なぜ、いま、あのような対応をしようと思ったのですか?」
と、その対応方法を思いついた思考プロセスをたずねると、
「以前、同じようなことがあって、その時に今のような対応をしてうまくいったから。」
「ああいうことは、よくあるんですよ。」
のように、過去の経験がヒントになり、それを少し応用して適用していることがわかります。
これがレベル2.5の正体です。
自分自身の『経験』でなくても、他者の経験、つまり『事例』を適用するのもレベル2.5と考えてよいでしょう。いわゆる前例主義。
マニュアルや指示など、定型的な知識をそのまま適用するのがレベル2.0。
経験の蓄積を活用し、それを適用しながら柔軟に対応できるのがレベル2.5。
なお、レベル2.5の成果の再現性は、レベル2.0と同様、限定条件付きで成果の再現性がある、という評価になります。
レベル2.0の限定条件は、『平常時なら』というものでした。
レベル2.5の限定条件は、『過去に経験のある状況においてなら』成果の再現性がある。
こういうレベルですので、やはりどんなに経験が豊富でも、未経験の問題をゼロベースで考えて解決できる、真の問題解決力を有するレベル3.0よりは下位に位置付けられます。
知識で仕事をする、レベル2.0。
経験で仕事をする、レベル2.5。
思考で仕事をする、レベル3.0。
このように位置付けていただくと、客観性、論理性を保ちながら、中間点であるレベル2.5を運用していけるでしょう。
次回は、もう一つの中間点であるレベル3.5についてご紹介したいと思います。