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コンピテンシー実用講座

(3)コンピテンシーの使い方 ②強みの定義

さて、前回、私たちは自分の強みすら正確に把握できていないと、書きました。

そして、それができない原因は、私たちが「無意識のワナ」にはまっているからだと、予告しています。

今回は、それを、順を追ってご紹介していきます。

私たちが、強みを客観的に把握できない無意識のワナは2つあります。

今回は、その一つ目。『強みの定義』についてご紹介していきます。

 

私たちが、自分の強みを正確に把握できないのは、

「そもそも、強みという言葉が定義されていない、ということに気づいていない。」

と、いうワナにはまっているからです。ちょっと回りくどくて、わかりにくいですね。

簡単に言えば、

「強みとは何か」

が、わかっていないということです。

強みとは何かをわかっていないのだから、自分の強みも、他人の強みも、言い当てることができるわけがありません。

「そんなことはない! 強みの意味ぐらい、わかっている!」

という方は、この質問にきちんと答えてみてください。(頭の中で考えるだけだと、脳みそがごまかしを図りますから、キチンと書いた方が良いでしょう。)

 

いかがですか? きちんと書けましたか?

その内容を、よく検証してみてください。

多くの場合、こんな言葉になるのではないでしょうか。

 

「他者よりも優れている能力」

「自分の能力の中で、特に優れているもの」

 

対象が自分であれ、他人であれ、能力を『相対比較』することが前提になっているのではないでしょうか?

 

強みという言葉を、このように定義している限り、強みを客観的に把握することは、絶対にできないと言っていいでしょう。

なぜならば、比較のしようがないからです。

そもそも、前回までにご紹介したように、能力を評価するためにはテストが必要です。さらにそれを、他人との相対評価で強いか、弱いか判定するためには、それなりの母集団が必要です。つまり、かなり多くの人が同じテストを受けていなければなりません。

 

このように考えると、だんだんみなさんも、私が伝えたい『ワナ』の正体がわかってきたのではないでしょうか?

そう。私たちが無意識に「強み」という言葉を使うとき、学生時代の偏差値競争のイメージをそのまま引きずっているのです。偏差阿智50なら、ふつう。偏差値60なら強い。70なら非常に強い。

自分の中での相対評価もそうでしょう。総合偏差値が55の人が、国語だけ65をとる。そうすると、

「私の強みは国語」

と、いう認識になります。

ですが、ビジネスの現場で求められる能力は、こんな風に点数化もできないし、偏差値を出すこともできません。

コンピテンシーは、この『強み』の定義を評価可能な形で再設定したものだ、という捉え方もできます。

 

前回ご説明したように、コンピテンシーは、二つの尺度から評価されます。

(1)成果の再現性の高さ(より再現できる可能性が高い)

(2)再現される成果の高さ(より高い成果を再現できる可能性が高い)

組み合わせれば、より高い成果を、より高い再現性で出すことができている。そういう人が、コンピテンシーレベルが「高い」ということになります。

 

例えば、1人の研修講師がいるとします。仮に坂本さんとしましょう。

坂本さんは、毎年、右肩上がりに安定した売上をあげているとします。

この坂本さんの「強み」は何かを知るためには、先週も書いたように坂本さんの、

「成果の出し方」

を、検証します。

たとえば、坂本は、電子書籍を出したり、ブログを使ったりして、新規のお客さんの目をうまく惹きつけて、それで新しい案件を獲得している。それが、毎年コンスタントな売上につながっているとしましょう。

成果の再現性を支えている原因は、「新規の顧客を惹きつける(呼び込む)力」だと考えられます。

 

この、新規のお客さんを惹きつける力を、さらに掘り下げて(分解して)分析してみると、

まず、電子書籍を出すとか、ブログで訴求するという「方法を思いついた」という点が上げられます。そこで、坂本さんに聞いてみます。

「なんで、そういう方法を考えついたんですか?」

これに対して、坂本さんがこう答えたとしましょう。

「研修の相談に来た多くのお客さんが、うちの会社はそんなに人数がいないから、集合研修ができない。本は出してないのか?と、口をそろえて言うので、そういうニーズがあるのかなって思ったんですよ。

ただ、紙の本を出そうとすると、かなりのコストがかかる。それで二の足を踏んでいたのだけど、たまたま愛用しているアマゾンの電子書籍のウェブサイトを見ていたら、無料で手軽に本が出せる!という広告が載っていたので調べてみたんです。

そうしたら、電子書籍ならノーコストで本が出せることがわかった。これなら、お客さんのニーズに、ノーリスクで答えられると思ったので、出してみたんです。」

 

さらに、そのあとの工程も掘り下げてみます。

本を読んだり、実際に研修を受けたりした方が、

「この研修はよい!」

と、思ってくれたから、契約につながり、売上に結びついている。そこで、お客さまにも聞いてみます。

「なんで、今回、坂本さんに、この研修をやらせてみようと思ったのですか?」

すると、お客さまがこう答えたとします。

「内容が、現場の実務というか、実際のシーンにすごくあっていて、あるあるってうなずきながら読めたんです。現場感がすごくあって、うちの社員にも伝わるんじゃないかと思った。」

そこで、これも坂本さんに聞いてみます。

「お客さんがこんなこと言ってますけど、お客さんにそう思わせるような工夫とか、意識してやったことって、何かあったんですか?」

坂本さんがこう答えます。

「意識とか、工夫というのとちょっと違うと思うのだけど、そもそも現場で業務改善のコンサルティングをやってきましたから、現場で何が起きているのかもよくわかってるし、それをどうしたら成果が上がるかっていうのを提案して、結果を出す商売ですから、当然、机上の理屈じゃありません。すべて現場の現実です。

お客さまが、現場感があると感じていただけているのだとしたら、私が現場の経験をそのまま伝えているからじゃないですかね。」

 

このように、なぜ、どのような思考や行動が、成果の再現性につながっているのかを、掘り下げて分析すると、その人が成果を上げる決め手となっているような、

『武器』

が、見つかります。それが「強み」の定義になります。

 

きちんと、整理して表現すると、

「その人の、成果の再現性を担保する力(ちから)」

たとえば、先ほどの坂本さんの例で言えば、坂本さんの強みは、

「ニーズや要望を無視、軽視しない(機会を逃さない)」

「リスクやコストに敏感(ケチ)」

「豊富な現場経験、現場ノウハウ」

といった内容になります。

 

こうやって、「強み」を事実関係から特定し、自覚できると、その強みを意図的に生かそうとします。たとえば、私がこの坂本さんの上司だったら、

「坂本にいろんなお客さんに会わせていけば、ビジネスチャンスや新しいサービスを生み出すのではないか。(機会を逃さない強みを活かそう)」

「坂本には、経営とかそういう大所高所の案件ではなく、管理職クラスか、その下の実務者クラスの案件を重点的にやらせよう。(現場経験が生きる仕事を与えよう)」

と、考えて、仕事の与え方を調節するでしょう。また、坂本さん本人も、

「もっとお客様のニーズを引き出していこう」

「もっと現場の知恵を積極的に開示していこう」

と、考えて、自分の強みを全面的に活用すれば、無自覚に強みが発揮されていた時よりも、格段に成果の再現性が上がります。

 

強みとは、持っているかどうかではなく、成果につながる形でつかわれている能力。

もう少し簡単に言えば、成果を生み出すために役になっている能力。その人がビジネスというフィールドで戦う上で、意識的、自覚的に活用できる『武器』、『得意技』、『勝ちパターン』。

 

私たちが、『強み』を正しく自覚し、使うことができない一つ目の罠は、『強みの定義』をきちんと整理できていない、という点でした。コンピテンシーとは、そもそもこの『強み』を評価可能な形に定義しなおした概念だ、ということでもあります。

 

これでまずは、一つ目のワナである『私たちは、強みをきちんと定義できていない』という点がクリアされました。

ですが、実は強みをこのように定義できても、それだけでは私たちは自分の『強み』をきちんと把握することができません。

次回は、その原因となる二つ目のワナについてご紹介していきます。