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コンピテンシー実用講座

(3)コンピテンシーの使い方 ①コンピテンシーの用途

おそらく、このコラムに興味を持っていただく方の多くは、人事、人材開発に携わる企業の方々ではないかと思います。
コンピテンシーの活用方法としては、一般的には人事評価、採用など、人事の世界での話です。ですから、きっとこのコラムにお付き合いいただいているみなさんは、そういう採用や評価、または昇格審査などの実務で、コンピテンシーをどうやって使えばよいのか、という内容を、早く早くと期待されていることでしょう。
けっして焦らすわけではありませんが、こうした、

「人事での使い方」

の、前に、日常的なビジネスシーンでのコンピテンシーの活用方法をご紹介します。

 

「コンピテンシーは難しい。」
と、言っている方々の多くが、実はコンピテンシーという概念ではなく、
「面談のしかたが難しい。」
と、いうワナに陥っているのです。いろんなことをごちゃごちゃと詰め込まれて、本当は面談のしかた、もう少し言うとインタビューのしかたが難しいだけなのに、
「コンピテンシーは難しい。」
と、言っている。
この、面談の難しさがどこから来るのかというのは、インタビュー手法のところでご紹介します。まずは、日常のビジネスシーンでの活用方法をご理解いただけば、
「コンピテンシーは難しい。」
と、いう印象が随分と変わってくるはずです。

 

さて、日常的な活用方法とは言っても、コンピテンシーは、
「人の力(ちから)を客観的、論理的に評価する。」
ものであるという点に、変わりはありません。ですから、たとえば用途としては、

 

1) 他者の強み、弱みを見極める
2) 自分の強み、弱みを見極める

 

と、いうことになります。なお、他者、自分という表現のしかたを用いましたが、これは個人だけでなく、法人、つまり企業や組織も含みます。
具体的には、日常的なビジネスシーンでは、コンピテンシーは以下のような用途で活用されています。

 

まず、他者の強み、弱みを見極めるという用途について、思いつくままにざっと挙げてみましょう。

 

・部下の強み、弱みを客観的に把握して、それに合わせて仕事の与え方や上司としての関与のしかたを検討する(いわゆる適材適所の人材活用)

 

・発注者として、発注先が任命した責任者の力量を見極める(たとえば、御社がコンサルティング会社を雇った。そこから送られてきたコンサルタントの力量は様々。下手なコンサルタントに当たると、同じお金を取られるのに、クォリティーが低いということになりかねない。)

 

・営業担当者による、キーパーソンの見極め(顧客を訪問したときに、先方から3人出てきた。部長、副部長、専任部長。この3人の誰を攻略すべきか? 組織や仕事を動かしているのは、結局は実力を持った人。肩書きが偉くても、御輿に乗っただけの人も多い。)

 

・金融機関の投資や融資の担当者が、与信先の経営者の力量を見極める。(無能な経営者にお金を投下すると、返ってこない。)

 

・株式投資をしている投資家が、企業の「成果の再現性」を評価して、株式購入、売却の意思決定を行う。

 

一方、自分の強み、弱みを把握するという点については、以下のような用途があります。

 

・新卒にしろ、中途にしろ、就職活動中の人が自分の強み、弱みを客観的に把握することで、どんな仕事に向いているかを考える(キャリア形成、キャリアプラン)

 

・営業担当者が、自社の強み弱みと、競合他社の強み弱みを、客観的に把握することで、営業戦略や魅力的なセールストークにつなげる

 

コンピテンシーは、人や組織の強み弱みを客観的に把握し、「成果の再現性」を予測するわけですから、人や組織の活かし方、付き合い方を判断するためには、不可欠なアプローチです。
逆に言えば、コンピテンシーの視点を取り入れずに、発注先を決めたり、部下に仕事を与えたり、さらには自分のポケットマネーで株を買うなんて、よくよく考えたら、なんて危険なことをしているのだろう、と空恐ろしくなります。なんの情報も根拠もなく、
「この人なら、期待に応えてくれるだろう!」
と、仕事を与えたり、お金を払っているわけですから、賭けをしているようなものです。
就職もそうでしょう。自分の強みや弱みをきちんと把握もせずに、
「自分はこういう仕事が向いている!」
なんて、思い込みに過ぎません。

 

こんな風にいうと、多くの方が、
「他人のことはともかく、自分の強みや弱みはきちんとわかってるよ!」
と、憤慨する人もいます。就職活動についても、最近の学生は、かなり早くからしっかりと活動していますから、自己分析も十分にやっているという自負もある。
ですが、そこに盲点があります。わたしたちは、他人の強みも、自分の強みも、ほとんどわかっていないのです。わからない理由とメカニズムがある。私はよく、
「無意識のワナ」
と、いう言葉を使いますが、これもその一つ。本人はわかった気になっているけど、実はわかっていない。そんなことが現実に起きているのです。
実際、採用面接のエントリーシートには、受験者に「強み」を書かせる欄がありますが、それをコンピテンシーのインタビュー手法で検証すると、ほとんどの場合、
「ぜんぜん強くない。むしろ弱い。」
と、いう結論になることも多いです。
かなり一生懸命、準備をしている就活生ですらそんな状態です。一般の会社員だと、
「あなたの強みはなんですか?」
と、質問されて、即答できる人すらほとんどいない。
あとは、管理職研修では必ず聞くのですが、どこの企業でも、管理職ですらこの質問に答えられません。
「あなたの会社の強みはなんですか?」
いかがですか? こたえられますか?

 

自分や自分の会社の強みがわからないまま、仕事をしているから、成果が出たり出なかったり。

成果が出たとしても、自分の力で出したという実感も持てず、来期やその次に向けて、自信を持って取り組めない。
コンピテンシーは、人事のためのものではないのです。日々のビジネスシーンでこそ、活用する意味がある。日々のビジネスシーンで使っていて、それを期末にほんのちょっと振り返る。人事でのコンピテンシーの役割なんて、そんなもの。そういう視点を取り入れると、みなさんが難しいと言うコンピテンシーのインタビューも、それほど難しいものではなくなってきます。

では、私たちが他人の強みも、自分の強みも把握できない、
「無意識のワナ」
とは、どのようなものでしょうか? それを次回、ご紹介したいと思います。このワナを自覚できると、きっと、他人の見え方も、自分の見え方も変わってくるでしょう。
同時に、この無意識のワナに気づき、対策をご理解いただくと、今まで難しいと思っていたコンピテンシーのインタビューや面談が、驚くほど理解しやすくなると思います。

と、いうわけで、次回からいよいよコンピテンシーの実務に少しずつ入ってきたいと思います。

引き続き、よろしくお願い申し上げます!