トップへ戻る

コンピテンシー実用講座

(2)コンピテンシーとは ③成果の再現性

 

前回、コンピテンシーとは『未来』の評価だとお伝えしました。

『未来』を評価するといっても、別に予知能力を鍛えようとか、そんな非現実的な話ではありません。未来を評価するときの着眼点が、タイトルにも挙げた『成果の再現性』です。

成果の再現性とは、「同じような成果を、今後も繰り返し出すことができる可能性」のことです。

たとえば、私が今期、新規の研修を20件受注したとします。業績評価ならば、この20件という数字を評価します。あくまで、「今期、それだけの成果が出た」という過去の評価です。成果の再現性という、未来の視点で評価する場合は、出たかどうかだけではなく、

「同様の成果を、来期も、再来期も、繰り返し出すことができるだろうか?」

という可能性を評価する。つまり、予測による評価です。

 

このように説明すると、

「予測なんて、当たるかもしれないし、当たらないかもしれないじゃないか。そんなあやふやな評価では、適切な評価とは言えないではないか。」

と、多くの方が、おっしゃいます。

その通り。コンピテンシー評価は、可能な限り客観的、論理的に人を評価できるように組み立てられた理論ではありますが、デジタルに、確実に、人の力を評価できるというわけではないのです。

それでも、その予測の精度を高めることは可能ですし、その精度を高めるためのアプローチを身につけると、人の力をかなり正確に把握できる。だから、これだけ普及したとも言えるのです。

では、その予測とは、どのように行うのか。どうやって、精度を高めるのか?

成果の再現性の予測は、意外と簡単です。

 

先ほどの、『新規の研修を20件獲得した』という例を思い出してください。その成果の再現性が高い場合と、成果の再現性が低い場合を、両方考えてみましょう。

まずは、成果の再現性が低い場合。

「今期はたまたまで、来期以降もこんな成果を出せるとは思えないな。」

と、感じるとしたら、どんな場合でしょうか?

 

「たまたま留守番をしている時に、かかってきた電話を取ったら、“とにかくなんでもいいいから1日研修を20回やってくれ!”という電話で、わかりました、と答えたら受注できた。」

 

「最近やめてしまった先輩が昨年実施した研修があった。そのお客さんから問い合わせがあって、先輩が辞めてしまったことを伝えたら、じゃあ、坂本さんでいいからやってくれということで、年間シリーズになっている20回の研修を一括で受注した。」

 

こんな感じでしょうか?

前者のように、その人の実力でとった契約ではなく、たまたまラッキーで“とれちゃった“契約。”出した“のではなく”でちゃった“成果。それを、来期繰り返せと言われても、祈るしかない。そんな成果は、当然のことながら成果の再現性は低いと、誰もが思うでしょう。

一方、後者のように、自分ではなく、他人の力で出た成果を“おすそ分け“してもらったような成果。これも、成果の再現性があるのは、先輩であって坂本ではない。来期もその成果を繰り返せと言われたって、できるかどうかは未知数と言うしかないでしょう。成果の再現性は低い。仮に坂本がきちんとその研修をお客さんに評価されるレベルでこなし、来期も坂本さんでよろしく!と言われたとしても、それは「リピートをとるという成果の再現性」であって、「新規を獲得するという成果の再現性」ではありません。

 

こうやって、成果の再現性の低い例から先に考えてみると、逆のケース、つまり成果の再現性が高い場合というのが、見えてきます。

ちょっと長いですが、『こんな経緯で新規の契約を20件とった』というストーリーを作ってみました。

 

「既存の研修やコンサルティングで忙しくて、なかなか新規のお客さんにアプローチする時間が無くなっていた。問い合わせがあっても、ニーズを聞いたり、研修の内容を説明したりといった目的で、何度か訪問しなければならない。だけど、その時間すら、なかなかとれない。

そこで、多くのお客さまが検索している“タイムマネジメント研修”というキーワードを、そのままタイトルにした本を電子書籍で出版した。その際には、どんな研修で、どんな演習をどのように進め、どんな質疑応答や反応があるのかまで、読めば研修のすべてがリアルにわかるように、受講者視点の一人称で、一日の研修の流れを小説風に再現した。

狙い通り、タイムマネジメント研修を探しているお客さまが、ウェブサイトで検索をかけて私の本と出会い、その内容を読んで、“この研修をこのまま自社でやってくれないか”というお問い合わせが入るようになった。内容についてすり合わせをする必要がなく、一度訪問するかしないかで、多くの契約を獲得することができた。

こうした問い合わせが半期で30件ほど入り、そのうち15社が実施に結びついて、そのリピートも含めて合計20件の契約になった。」

 

いかがでしょうか? 宣伝も兼ねたほぼ実話です(笑)。

私の成果の再現性はいかがでしょうか? 私は今後も新規の研修を獲得し続けることができそうですか?

これは2015年の話ですが、味を占めた私は、ロジカルシンキング研修、チームマネジメント研修など、似たような本を出版し、おかげさまで成果を繰り返し出すことができています。

成果の再現性を予測するためには、成果だけでなく、そのプロセス、特にその人自身が具体的にどのように考え、どのように判断し、どのような工夫をしたのかという根拠を押さえます。同時に、そのプロセスがどのように結果に結びついたのかという、『プロセスと結果の因果関係』に着目します。

「なるほど、この人がこんな風に考えて、それをこのような行動に移したことが、こんな風に成果に結びついたのか。」

という情報があると、

「このような仕事のしかたで、このような成果を生み出した人ならば、同じように仕事をしてくれれば、同じような成果が期待できるぞ。」

というように、成果の再現性を判断できるのです。

ただし、同じような行動を繰り返すという「行動の再現性」ではないという点には、注意が必要です。あくまで、このように考えて、判断し、行動できる人ならば、です。

先ほどの例で言えば、私の成果の再現性は「同じような本を出し、同じように研修を獲得できる」ということではなく、本を書くというアプローチに至った、思考、判断、行動のプロセスによって、成果の再現性が期待できる、という読み方をしてほしいのです。

たとえば、今期は今までに出した4冊の本のおかげで、さらに時間が無くなり本を書くことすらできなくなってきました。かと言って、数年後の売上を考えれば、何か新規のお客さまにアプローチは続けないといけない。そこで、本と並行して行っていた、このブログコーナーを使って、「コンピテンシーの連載」にしてしまおう、と考えました。今までの4冊がどちらかというと業務系コンサルティングのほうで書いてましたから、コンピテンシーという人事系のキーワードで書けば、また違った方面のお客さまに訴求できるぞ、と。

同じ行動の再現性ではなく、何か起きたときに、同じように思考、判断、行動といった様々な力(ちから)を組み合わせて、解決策を編み出し、実行してくれるだろう。そうすれば、環境が変わっても同様の成果を出してくれるだろう。

行動の再現性ではなく、成果の再現性。この点は誤解が多いポイントなので、ぜひ覚えておいてください。

 

最後に、前回もそうしたように、評価尺度の考え方について、能力評価や行動評価と、コンピテンシー評価の違いをまとめておきます。

 

能力評価はあくまでその能力を、現在持っているかどうかという視点で評価します。ですから、その評価尺度は保有能力の高さです。基本的にはテストをして、そのテストの点数の高さが評価尺度になります。

 

行動評価は、今期、そのような行動をどれだけとったかという、過去の行動実績を評価します。ですから普通は、その評価尺度は頻度になります。全くとっていなかった、おおむねとっていた、常にとっていた、といった形です。

 

コンピテンシー評価は、過去の事実(プロセス+成果)を根拠にして、「今後も同じような成果を期待できるかどうか」という未来の成果の再現性を評価します。ですから、その尺度は、どのくらいの確度(精度)で成果の再現性が期待できるか、ということになります。全く成果の再現性が期待できない。ある程度は成果の再現性が期待できる。かなり成果の再現性が期待できる、といった形です。

評価制度や採用面接でコンピテンシーを活用する場合は、この成果の再現性を評価する指標をきちんと定義して、5段階または7段階のレベル水準を設定します。その具体的な内容はいずれご紹介したいと思います。

 

次回は、そうした人事の細かい制度化の話の前に、まずは日常のマネジメントにおけるコンピテンシーの活用方法について紹介したいと思います。