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今日の一言

手段の目的化

私たちが業務改善に取り組むとき、様々な帳票やツールを用いて業務分析を行う。
そのツールの一つに、「業務評価表」というものがある。普通の表計算ソフトで作ることのできる簡単なものだ。
表計算ソフトで言えば、左から順に以下のような項目が並ぶ。

1)作業名称(資料、会議、動作などの名称や概要)
2)目的(その作業によって生み出される最終成果)
3)重要性(省略した場合の目的未達幅の大きさ)
4)所要時間(作業完了に要した実績)
5)所要コスト(実施した人の時給単価に所要時間を乗じたものを含む)

これを、対象となる社員の方に配布して、どんな作業でも取り掛かる前にこの帳票の1)から3)まで記入してから始めてもらう。作業の際には、必ずスマホや時計についているストップウォッチを使って、作業時間を計測するようにお願いする。作業が完了したら、4)と5)を記入してもらうのである。
この帳票に書き込む時間はせいぜい1,2分、長くても3分くらいだ。1か月も続けると、日常業務の大半が書き出されることになる。
この業務評価表を記入してもらうと、いろいろなことがわかる。上司や同僚と見せ合うと、「えっ、あの資料ってこんなに時間がかかってたの?」とか、そもそも上司が知らない仕事を部下が意外とたくさん持っていて、「なんでAさんが毎晩残業しているのか、初めてわかった。」などという発言が出てくることも多い。
このツールを使うと、本当にいろいろわかるので、書き始めるとキリがない。そこで、今日のテーマはこのうちの2)目的の欄に絞って書こうと考えた。
この帳票から改善対象となる業務を洗い出していくときに、まず着目するのがこの「目的」である。書けない時は空欄にしてもらうのだが、その空欄が多い。私たちはかなり多くの作業を、目的もわからず(言い換えれば、目的ももたずに)惰性で繰り返しているということだ。新入社員の話ではない。管理職や経営者ですら、そういうケースが頻繁にある。
そんなわけはないと思う方はちょっと考えてみてほしい、あなたの会社で毎朝朝礼をやっているとする。その朝礼は「なんのために」やっているのか。それを全員に紙に書かせて、同時に見せあった時、果たして同じ答えがそろうだろうか? 毎週課員が集まって実施している会議は? 意外と書けない人が多い。朝礼なんて何十年も前からやっているから、いまさらその目的なんて誰も確認していないのである。
書ければいいかというと、そういうわけでもない。たとえば、会議や朝礼など、顔を合わせるイベントについて、こうした問いかけをするとなんとかひねり出してくる回答が「情報共有」という目的だ。じつは、これがクセ者。本日のタイトルにもなっている『手段の目的化』という罠に陥っているケースが多い。
手段の目的化とは、どういうことか。たとえば、情報共有と答えた人に「その情報共有は、何のために必要なんですか?」と、さらに踏みこんで質問すると、答えられなくなる。中には答えることができた人がいたとしよう。その答えについても、同じように「それは何のために必要なんですか?」と聞く。どこかで答えられなくなる。
そんなこと言っていたら、キリがないじゃないかと言われそうだが、そんなこともない。ちゃんとキリはある。どこか。それが、『その作業によって生み出される最終成果』なのである。
「朝礼の目的は?」→「情報共有だ。」
「その目的は?」 →「特にミスが起こりやすい作業について注意を促すためだ」
「その目的は?」 →「ミスによって発生する労災事故を防ぐためだ」
最終成果は労災事故ゼロ。これが本来の目的であって、情報共有というのはその手段に過ぎない。こうやって、本来の目的をしっかり押さえている組織では、ピンポイントで本当に必要な情報だけを共有する。たいていの場合、朝礼が短い。さらに言えば、不定期であるケースが多い。労災事故につながるような注意すべき作業がない日は、開催する必要がないからである。また、朝礼で共有した内容を、きちんと実施しているかどうかを管理職が作業中にしっかり監督している。けっして、朝礼をやりっぱなしにしない。さらに言えば、たとえばテレワークやフレックスタイムを導入しようという話になった時、手段を目的化してしまった人たちは「朝礼ができなくなる」ということを理由に反対する。だが、本来の目的をしっかり理解している人は、朝礼にこだわらず、別のやり方で労災事故防止という目的の達成を目指す。柔軟性が高い。無駄なく、確実に成果を生み出す。目的を見失わなければ、仕事の生産性は確実にあがっていく。
私たちが仕事をするとき、ついつい手段を目的化しがちだ。目の前の作業を完了することが目的になってしまう。その結果、本来の目的や成果を見失い、無駄に時間と労力を費やしてしまう。働いたほどには成果が出ない。
日々の作業に取り組む前に、その作業の目的を書いてみよう。それを自分で読んみて、その目的が「手段」なのか「成果」なのかを自問してみる。手段だと思ったら、「それは何のために必要なのか?」と、掘り下げてみよう。目指す「成果」を理解しながら仕事をすると、それだけで無駄が減り、成果が上がる。