2018.06.12
最近の新入社員は?
私は○○世代という呼び方が好きではない。何万人、何百万人という人間を、十把ひとからげにして論じるのは無謀以外の何物でもないと思っている。だから、「今年の新入社員は○○タイプ」などというアプローチにも全く共感できない。あれが当たっていると感じる人がいるとしたら、それは「血液型占いが当たっている」と感じるのと同じメカニズムだと思う。
そこを明確に示したうえで、最近、お客さまの現場でよくいただく相談に含まれる、あるいはネット上で頻繁に語られている、ある新入社員に対する『苦言』について、モノ申そうと思う。
「最近の新入社員は、目的や理由をはっきり理解してからでないと動かない。動いたとしても、納得していないから、前向きに取り組まない。こういう新入社員を動かすには、どうしたらよいか。」
このような苦言、または相談である。相談という形をとっているが、実態は「自分が正しくて、新入社員が悪い」という自分の認識に対する共感や同調を求めているケースが多い。しかし、この苦言を承認することはできない。なので、こうした相談や質問への答えはただ一つ。
「目的や理由を説明してあげればいいんじゃないでしょうか。」
すると、反論が返ってくる。
「なんでもかんでも、目的や理由がわかるとは限りませんよね。仕事なんだから、言われたことには黙って従うべきですよね。」
もし、管理職や指導的な立場の人がこれを言ったら、私は必ずこう返答するようにしている。
「それを調べて確認するのも、仕事ですよ。逆に、目的や理由がわからないのに黙って従うほうが、仕事のしかたとしては問題ですよ。」
と。
仕事の目的や理由がわかっていないということは、その仕事に求められている『成果』もわかっていないということである。ゴールが見えていないのだから、プロセスが正しいかどうかを評価できない。たいていの場合、目的や成果がわからないまま仕事をしていると、無駄が多く、成果が低い(ゼロやマイナスの場合も多い)。少なくとも、私が様々な企業で業務分析に取り組んできた経験の中ではそうだ。業務分析の過程で、我々も徹底的に目的や理由を確認する。
「なぜ、御社は9時に会社に来ないといけないんですか? 9時に来る目的は何ですか?」
「なぜ、朝礼が必要なんですか? 朝礼の目的は何ですか?」
「なぜ、日報を書かせるのですか? 日報の目的は何ですか?」
答えられない人が多い。または、その場でとってつけたように目的や理由を答えたとしても、その目的とやっている行動や方法論が一致しておらず、成果につながっていないことが多い。
また、動機づけという観点から言えば、人が動機づけを高めるために必要な要素の一つとして必ず挙げられるのが、「自己効力感」である。自己効力感とは、自分が何かをしたことで何かが変わるという『手ごたえ』とでも言おうか。目的や成果がわからないということは、この『手ごたえ』が確認できないということだ。逆に言えば、目的や理由がわかっていても、結果を確認できなければ動機づけにはつながりにくい。だから、動機づけが上手なマネージャーは、結果をきちっと調べて知らしめる。「きみの提案書のあのグラフを見て、先方の部長がなるほど!って感心してたよ」とか。たまたまそういう声が耳に入ったという場合だけでなく、わざわざ「この間、うちの佐藤がお出しした提案書、いかがでした?」と、確認をしたりもしている。人が行動に対して目的や理由を求めるのは自然なことであって、なにも昨今の新入社員にかぎったことではないのだ。
仕事の目的や理由を確認したり、明確に設定したりすることは、管理職にとっては、最も重要な役割の一つだ。普通、どこの企業でも、これができるということを管理職の評価要素の一つに組み込んでいる。言いかえれば、これができないとしたら、管理職失格と言われても仕方がないともいえよう。
大きな企業では、若手や中堅クラスの社員でもOJTトレーナー研修などで、「言われたことに、無条件に前向きに取り組む」ようにしつけられた人たちから同様の相談を受けることがある。年次や役職にかかわらず人を指導する立場になったら、すぐにでも考え方を切り替えたほうがいい。
目的や理由を聞いてくる新入社員が悪いのではない。目的も理由も知らなくても上の言いなりになって動くようにしつけられた、私たちが変わらなければいけないのである。