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コンピテンシー実用講座

コンピテンシー の予備知識①等級制度について

1 コンピテンシーを用いた人事制度の設計

 

これから、コンピテンシーを用いた人事制度の基本的な設計プロセスについてご紹介していきます。

通常、コンピテンシーというと『評価制度』だけだと考えてしまいがちですが、そもそも評価制度というのは、『等級(資格)制度』と『報酬制度』と密接に関連するものなので、従来の能力評価制度や行動評価制度を、コンピテンシー評価に変えるだけでは、前後の理屈が合わなくなってしまいます。

ですから、評価制度をコンピテンシーに変えようとする場合、等級制度と報酬制度もそれに合わせて変えていく必要が出てきます。

したがって、ここでは評価制度を主軸に起きつつも、等級制度と報酬制度との関係性や、それぞれの合わせ方、調整のしかたをご紹介していくことになります。

 

なお、等級、評価、報酬という3つの制度に加えて、人事の仕組みには『異動・配置』や『育成』という運用面が構想に入ってこないと、制度と運用の間でギャップが生じ、それが問題につながることもよくあります。したがって、制度設計面だけでなく、運用面についても必要な内容を含めていきます。

 

一方で、本来人事制度に含まれる、『手当』や『福利厚生』、『労務管理』といった、社員のサポートシステム、管理システムに関する部分は、あまりコンピテンシーの導入に直結して修正しなければならないケースが多くないので、本文の中で部分的に触れることはあっても、独立した章、項として取り上げることはありません。予めご了承ください。

 

それではさっそく、人事制度の基本部分から確認していきましょう。

 

◆人事制度の全体像(骨格)の基礎知識

 

日本企業における、一般的な人事制度の基幹システムは、等級制度、評価制度、報酬制度の三つの制度から成り立っています。それぞれ、この後の説明に必要な用語解説の範囲で、簡単に確認しておきましょう。

 

① 等級制度

 

資格制度、または資格等級制度など、呼び方は様々ですが、簡単に言えば『人財の格付け』を決定する基準、定義です。その人の会社の中における位置づけをレベル分けしたもの。

柔道や剣道、または茶道や書道の級や段のように、技術レベルを保有することを証明、表示するものが等級。会計士や弁護士、税理士など、特定の機能を担う認定を与えるものが資格。そもそもの定義はこんな感じですが、現在ではあまりこの資格と等級という言葉を厳密に使い分けて設定している企業のほうが少ないように思いますので、あまり厳密に区別する必要はないように思います。

一般的には、管理職までは1級、2級、3級のような等級数字、管理職以上は、主事、参事、理事といった資格名称になっている会社が、昔からの日本の資格等級制度によくあるパターンです。

最近は、制度設計をするときに外資系のコンサルティング会社の影響もあって、『バンド』や『グレード』と呼ぶ企業も増えてきましたが、本質的にはあまり変わりません。

 

よく似たものに『役職』があるので、注意が必要です。『等級(資格)』と『役職』は全く違うものです。

役職とは、部長や課長のように、人ではなく『仕事につけられた名称』です。よくある組織の長だけでなく、たとえば『主席調査官』とか『研究員』というのも、仕事の名前=役職です。

あとで、等級制度の設計のところで詳しく述べますが、日本の等級制度のほとんどは、これまでに延べてきた通り、『人の格付け』を定義します。「Aさんは1級」、「Bさんは主任」のように「この人はこの等級(資格)」という決め方をします。このような等級の作り方のことを、職能給(人の能力、レベルで給与額に差をつける)と言います。

職能給を使用する場合、等級と役職は完全に別物になるので、たとえば、

「Aさんは、資格は副主事で、役職は課長。」

と、いうように、その人の属性を表現するために、二つの呼称が必要になります。

 

どうでもいいように聞こえますが、人事制度設計という点では、ここは意外と大事なのです。

等級は、『何に対して報酬を支払うか』というときの、いちばん根幹となる基本給(Base Salary)の基準になるものです。なので、職能給を導入する場合は、『課長か平社員か』よりも『副主事(管理職資格)か1級(一般社員等級)か』のほうが、年収に大きな影響を与えることになります。

具体的には、日本の企業では『職能資格に対して基本給』を支払い、『役職に対して役職手当』を払うという形になることが多くなります。企業によっては、『資格がメインで役職はあくまで補助的についているので、役職手当は払わない』として、部下の有無や役職についているかいないかに関係なく、同じ資格なら報酬が変わらないというケースもよくあります。この場合、評価によっては、部下をたくさん抱えている主事の課長よりも、部下もいない平社員(非役職者)の主事のほうが報酬が高いというケースも出てきます。

 

なお、日本以外の、外国、特に欧米企業の大半は職務給という仕組みを取り入れています。そういう意味では、日本というのは世界においてはかなり特殊な人事制度になっています。

海外の企業では、一般的には等級制度は人ではなく、『仕事の格付け』を行うのです。

「この仕事は1級の仕事、この仕事は2級の仕事、この仕事は3級の仕事」

と、いうように、仕事をレベル分けします。そうやって、人の能力の違いで報酬を決定するのではなく、仕事のレベルの違いで報酬を決定するのです。

そうすると、役職も等級に組み込まれていきますが、同じ課長という役職でも、

「A課とB課は部下の数も少ないし、仕事の複雑性も低いので、その課長という役職(仕事)は3級に格付けよう。」

「C課は、部下の数が多いし、仕事の多様性、複雑性も高いので、その課長は1級に格付けよう。」

と、いう形で、その役職(仕事)の内容によって、等級が変わります。そうすると、同じ課長でも、等級が異なれば給与額が異なる。こんな形で、等級と役職が一本化されるようになります。

 

なお、この10数年くらい、日本企業において『役割給』という名称の等級制度が増えています。一見、従来の職能給を『ゆるやかな職務給』にしようという内容になっていることが多いのですが、運用実態としては、結果的に職能給になっているケースが圧倒的に多いと言える仕組みです。ですので、実態としては、結局のところ、等級制度には職務給と職能給の二通りしかない。そう言っても過言ではないですし、そう割り切ったほうが、人事制度設計の議論は整理しやすいと思います。

 

細かい設計のしかたはあとでお伝えするとして、この段階では、等級制度に関しては以下の二点を押さえておいてください。

1) 等級制度は、基本給の水準決定に大きく影響する

2) 等級制度には、職務給と職能給があり、日本企業の大半は職能給になっている。