2019.12.17
実用編(1)業務分析 ②高業績者インタビューの進め方(つづき)
(4)高業績者にインタビューの準備を依頼する
高業績者の選抜が終われば、いよいよインタビューの実施です。
しかし、単にアポイントメントをとって、実施というわけにもいきません。
相手はコンピテンシーという概念をまったく知らないのが普通です。
それに、事前情報なしにインタビューを実施するのも、意外と難しいものです。インタビュアーが何千人ものインタビューをこなしたベテランでなければ、ゼロベースでのコンピテンシーインタビューはかなりハードルが高い。
なんらかの予備情報を基にインタビューを進めたほうが確実でしょう。
そこで、『事前準備シート』のフォーマットを作成して、それに記入してもらうというステップを踏むことになります。
この事前準備シートは、簡単に言えば、コンピテンシーインタビューで答えてもらうことを、あらかじめ文書化してもらうという、ただそれだけのものです。
具体的な内容としては、以下のような記載欄を設けます。
1)所属・指名・役職(等級)
2)主な担当業務と今期の目標
3)過去1-2年の中で、特に成果をあげることができた、具体的な取り組み
4)3の成果の具体的説明
5)3の取り組みの大まかなプロセスと、実施期間
6)5の各プロセスごとの、特に苦労した点、工夫した点
これを見ていただけばわかる通り、基本的には、コンピテンシーインタビューで質問することが、そのまま文書でのアンケート調査のようになっているのが、事前準備シートです。シートの作り方は状況によっても変わりますが、基本的には、各設問は、そのままコンピテンシーインタビューの質問と同じ内容になります。
たとえば、『3.過去1-2年の中で、特に成果をあげることができた、具体的な取り組み』については、設問の文言としては以下のようなイメージとなります。
「あなたが過去1-2年の中で、自らが中心となって取り組み、自分で考え、行動して成果を生み出すことのできた事例を一つ、具体的にあげてください。」
また、『5.3の取り組みの大まかなプロセスと、実施期間』ならば、以下のような文言になります。
「3に記載した取り組みを、3つから5つ程度のプロセスに分けるとしたら、どのようになりますか? また、その時期をそれぞれのプロセスの右欄にご記入ください。」
そして、『6.5の各プロセスごとの、特に苦労した点、工夫した点』については、
「上記のそれぞれのプロセスについて、あなた自身が特に工夫したこと苦労したことをご記入ください。」
と、いった形になるでしょう。まさに、コンピテンシーインタビューで質問することを、そのまま事前に答えておいてもらうのが、事前準備シートになります。
このように書くと、
「事前にそこまで書いてもらったら、インタビューをする意味がないじゃないか?」
と、思われる方も多いかもしれませんが、そんなことはありません。
コンピテンシーの基礎でもご紹介した通り、コンピテンシーインタビューの技術というのは、そのほとんどが『具体化の技術』です。
インタビューを受けていただく方が、事前準備シートにどんなにしっかり書き込んだとしても、せいぜいA4のコピー用紙で2枚程度。通常は1枚で済んでしまうレベルですから、「あらすじ」がわかる程度です。
本人にとっても、インタビュー前に『あらすじ』くらいは思い出しておかなければ、いきなりインタビューで質問されても、答えられないことも多くなるでしょう。
また、そもそもインタビュー当日になって、「過去1-2年の中で、力を入れて取り組み、成功した事例は?」などと質問されても、数ある業務の中から瞬時に選び出すというのも難しいものです。
インタビュアーにとっても、前述の通り、まったく手掛かりのないところから『質問力だけで引き出す』のはなかなか難しい。ある程度、全体のあらすじを理解しておいたうえで、『具体化』に全力を尽くしたほうが、効果的なインタビューができる可能性が高い。
こうした観点から、インタビューの事前シートが必要なのです。もちろん、インタビューを受けるほうは、こうしたことも知りませんから、
「すでに書いたのに、同じことを聴くのか?」
と、不審に思われるかもしれません。なので、インタビューの前に、必ずこう前置きするのです。
「今日は、事前にご提出いただいた事前準備シートの内容にそって、インタビューを行ってまいります。すでにご記入いただいた内容と重複する部分も出てくると思いますが、この内容をより具体的に掘り下げて、○○さんがどんな場面で、どのように考え、どのように判断して、どのように行動したことが、どんな結果につながったのか、ということを、順を追ってお聞きしていきます。おそらく、想像以上に具体的な内容をうかがうことになるかと思いますが、ぜひ、当時のことを思い出しながら、お答えください。」
こうして、事前準備シートを入手して、前置きを終えたら、いよいよインタビューのスタートです。