2020.06.15
コンピテンシーの予備知識 ②評価制度
② 評価制度
評価制度は通常、年度考課と業績評価の二本立てとなっています。
年度考課は、人財の能力や働きなど『人財価値』を評価するもので、一般的には基本給の昇給、降給に反映されます。
職能給の場合は『人の能力』で等級が決まり、基本給が決まるので、能力の度合いで基本給が上下動します。能力は変動しますから、その能力を定期的に評価して、基本給に反映しないと、等級と給与の妥当性が維持できません。これが年度考課の位置づけです。
なお、ここに日本企業が年功序列となる原因が隠されています。過去の能力評価は『保有能力』を前提にしています。普通に考えれば、人財が保有する能力は、増える(高まる)ことはあっても、減る(低くなる)ことはあり得ないという前提条件となります。
職能給の場合、能力と基本給は比例させなければなりませんから、能力評価を導入している限り、基本給が減るということはあり得ないということになります。同じ会社で働き続ける限り、基本給は多かれ少なかれ、増え続けなければならない。
また日本の組織は特に、経験という能力を重視する傾向が高いという特徴があります。これが、職能給の年功序列化に拍車をかけます。
業務改善の仕事をしているとよくわかりますが、日本企業の仕事のしかたの傾向として、仕組み化したり、標準化したりして、仕事を簡素化することが苦手です。定型化された仕事よりも、暗黙知化された仕事のほうが神聖視される(=価値が高いと考える)職人気質という傾向もあります。
当然のことながら、なんでも経験値でしのごうとする傾向があり、経験量を重視する傾向が強くなる。経験という能力は、ただ生きているだけで無条件に蓄積されていきますから、生きている時間、つまり年齢に比例してその総量が決まります。
こうやって、
「基本給は減るわけがない。」
「同じ仕事をしていても、基本給は年々あがっていくべきだ。」
と、いう、年功序列の前提条件が能力評価に組み込まれているのです。
この後の報酬制度や、後段の設計のところでも述べますが、能力評価をやめて、コンピテンシー評価を導入すると、この前提のところが崩れますから、報酬制度のありかたを大きく変えていかなければなりません。
なお、等級制度が職務給を前提としたものになっていると、そもそも人ではなく『仕事』と基本給が連動しますから、年度考課というものは存在せず、業績評価のみとなっていきます。なぜなら、基本給が上下動するとしたら、二つの可能性しかないからです。
一つは、その人の仕事内容が変わる場合。
もう一つは、同じ仕事でも、その仕事の価値が見直された場合。
基本給の見直しのために評価するのは、『人』ではなく『仕事』ですから、そもそも能力を評価する必要がないのです。
では、職務給を導入したら、そもそもコンピテンシー評価はいらないかというと、そうでもありません。年度ごとの昇給や降給ではなく、『任命』や『解任』、『異動』や『配置』に必要だからです。
その仕事で成果の再現性を維持できない人がいたら、いつまでも放置しておくわけにはいきません。外国なら解雇して別の人を雇えばいいのですが、日本では法律上それはできない。ですから、
「いま、やってもらっている仕事で、成果を出せないとしたら、どのような仕事なら成果を出せそうか?」
と、いった形で、できないなら、できる仕事に落とす。それに相当する報酬に落とす。逆に、
「キャリアアップを図るために、より高い仕事をさせてみよう。」
と、いうように、相手の給与額やキャリアを上げていきたければ、『仕事の与え方』を意図的に変えていかなければなりません。
職務給であっても、『職務の与え方』の判断材料として、コンピテンシーの視点からの分析は欠かせないのです。
一方、業績評価は、人財が創出した『成果』を評価するもので、一般的には賞与の金額算定に反映されます。前の章でもご紹介したように、業績評価は『過去』の評価であり、かつ『人』の評価ではなく、あくまで『結果』という無機物への評価です。
業績評価を捉えるうえで、大切なのは、その目的です。よく、研修や制度説明会でも強調するのは、
「業績評価を、モチベーションを高めるために使ってはいけない。」
と、いう点です。たとえば、
「これだけの成果を出したら、これだけのボーナスを払ってやる。」
みたいに、馬の目の前にニンジンをぶら下げて走らせようとするようなことをしてはいけません。また、
「これだけがんばったのに、アンラッキーが重なったせいで低い業績しか出なかった。この人に、低い評価を与えたら、来期がんばろうと思えなくなってしまうだろう。だから、その“がんばり”に報いてあげなければ!」
などというように、モチベーションを落とさないために、という考えで評価を調整してはいけません。
業績評価を、社員のモチベーションを高めるために、という目的で運用すると、結果的に、全体のモチベーションが落ちていきます。ニンジンのように使えば、会社や上司は、
「ボーナスを払うんだから、もっと高い成果を!」
と、欲張るようになっていきます。実現不可能な目標や、想定賞与額に見合わない高い目標を求めるようになっていく。社員からしたら、馬鹿馬鹿しいことこの上ありません。結果的に、
「どうせ、達成しても達成しなくても、たいした差はない。」
と、評価者も被評価者も、醒めた目でこの仕組みを見始めます。それを続けていくと、
「評価は評価、仕事は仕事。」
と、いうように、業績評価と実際の業務を分離させて考えるようになっていきます。
また、モチベーションに配慮して評価に手心を加えるようになると、結果的に、
「みんなに低い評価を付けられなくなる。」
と、いう現象に陥り、みんなに標準評価をつけるようになっていきます。結果的に、
「やっても、やらなくても、あまり変わらない。」
となって、結果は同じです。
「評価は面倒なだけの手続き。仕事は仕事。」
と、いう形で、形骸化していきます。
コンピテンシーだけで人財の処遇を網羅することはできません。年度考課と業績評価。この二つをうまく使い分け、組み合わせていくのが、評価制度の設計のポイントだという点を押さえておいてください。