2019.11.27
実用編(1)業務分析 ②高業績者インタビューの進め方(つづき)
成果や高業績者を定義するもう一つのアプローチが、実績から定義するというアプローチです。
前回までに紹介してきた論理的なアプローチは、どちらかと言えば『本来のあるべき姿』を描くアプローチです。
「うちの会社には問題があるな。」
と、考えている状態で、
「そこでうまく仕事をしている人をモデルにしたって、意味がないよな。」
と、思っているなら、『現状』を前提にして仕組みや基準を作るわけにはいきません。
だから、論理的に理想の状態を定義して、それを実現できる人をモデルにしていこうというアプローチが論理的なアプローチです。
しかし、
「うちの会社の現状には問題がない。この状態で底上げを図っていきたい。」
と、いうことであれば、現状をきちんと確認するだけで十分です。
では、実績をベースに成果を定義するというのは、具体的にはどうするのかというと、きわめて単純です。
人事的なアプローチでは、各職場で上司と部下が設定している『目標』をすべて確認していきます。期初の目標設定というのは、まさしくその組織で求められている成果ですから、簡単に言えば、高いレベルで目標を達成している人が、『高業績者』ということになります。
そこに、現場の実務で使用しているプロセス指標を組み合わせていくのが、現場の実務からのアプローチです。
まず、業務プロセスを分解して、指標化していきます。
たとえば、ある企業の営業プロセスが以下のような形であったとしましょう。
・セミナー、展示会出展による、顧客の興味喚起
・来訪時に入手した連絡先への電話、メールによる面会依頼
・顧客訪問(ニーズヒアリング)
・顧客訪問(商品提案)
・顧客訪問(見積もり提示、条件交渉)
・社内承認取得手続き
・顧客訪問(契約締結)
・発注手続き
・納品手続き
・請求書発行
・入金確認
このように、業務プロセスを分解した上で、それぞれのプロセスの遂行状況を管理するための指標を設定します。
管理するということは、言い換えると、
「このプロセスがうまく回っているか否かを何で評価するのか?」
と、いう評価指標を設定するということでもあります。
たとえば、上記営業の例で言えば、
・セミナー、展示会出店時の、連絡先獲得数
・連絡先獲得数のうち、ニーズヒアリング実施件数
・商品提案件数(軒数)
・見積もり提示件数(軒数)
・契約締結件数(軒数)
・契約締結までののべ訪問回数
・発注手続きから入金確認までの工数(所要時間)
・顧客からのクレーム数
・それぞれのプロセスの工数と全プロセスの総工数
このような指標を設定して、人事的アプローチで目標達成度の高い高業績者について、その内訳となるプロセス管理指標を組み合わせます。そうすることで、『色々なタイプの高業績者』をピックアップしていくわけです。
たとえば、上記の例で言えば、売り上げ目標を大幅に達成している人にも、以下のようなタイプが想定されるでしょう。
・セミナーや展示会出展の際の企画力が高く、他者よりも高い集客を可能にすることで、その先の売上高につながっているタイプ
・ニーズヒアリング後の提案の的確さで顧客の興味や信頼を獲得し、売り上げにつなげていくタイプ
・提案後の訪問回数や頻度で勝負して、粘り強さやきめ細かい対応で顧客の興味や信頼を獲得していくタイプ
・全てのプロセスを標準化、自動化して、工数を圧縮することで、手数を増やして売り上げを上げていく効率化タイプ
・売れ筋や単価の高い商品に絞り込み、数少ない件数で高い売り上げを達成していく、戦略的絞り込みタイプ
このように、人事と業務の両面のデータから高業績者を定義していくアプローチが、実績からアプローチする方法です。
この方法のメリットは、実績からアプローチすることで、『現実的な高業績者』の抽出が可能になるという点です。
論理的なアプローチでは、組織としてのあるべき姿や問題点を踏まえた『必要な高業績者』の定義は可能になりますが、一方で『絵に描いた餅』となり、「そんな人、いないよ!」ということになるリスクもあります。
そういう点では、あくまで実績ですから、間違いなく存在する高業績者をピックアップできるわけです。
いっぽうで、実績からアプローチする高業績者の定義のデメリットは何かというと、既存の業務プロセスや仕事のしかたが、本来あるべき姿から外れている場合、その高業績者を参考にしてコンピテンシーモデルを作っていいのか?という問題が残ってしまうことです。
高業績者インタビューというのは、あくまで高業績者の共通点をモデルに落としこんで、その後の評価や育成に活用するために行うわけです。もし、企業が転換点にあり、仕事のしかたを大きく変えていかなければならないというステージにある場合、従来の高業績者、言い換えると過去のやり方をベースにしたコンピテンシーモデルは、一歩間違えれば、今後の人材開発をミスリードする可能性があるわけです。
したがって、高業績者インタビューの準備作業として行う、成果の定義、高業績者の定義は、現在の企業のステージや、そもそも何のためにコンピテンシーを導入しようとしているのかによって、アプローチを使い分け、場合によっては組み合わせて実施する必要があるのです。