2019.10.08
(9)コンピテンシーインタビュー の基礎 ⑩行動の結果を聴く(その2)
行動の結果というのは、必ずしも定量化できるような具体性でないことが多いので、少しでもあいまいだったり、抽象的な内容が含まれていたら、素通りせず、『いろいろあるけれど』があてはまらないレベルまで確認しましょう。
例えば、前回の例でいえば、「内容面でいくつかアドバイスすれば」と、まさにいくつかあるといっているわけですから、それを具体的に確認する必要があります。
「その、内容面でいくつかアドバイスすれば、というのは、具体的にはいくつくらいあったのですか?」
「正確には覚えていませんが、たしか3点か4点だったと思います。」
「それぞれ、どのような点でしたか?具体的に内容を教えてください。」
これに対して、相手が具体的に一つ一つ答えてくれたら、それに越したことはありません。ただ、少し前の話だと、それをすべて覚えていない可能性もあります。
「本当に細かい話だったので、具体的な内容までは、ちょっと覚えていませんが。。。」
と、こんなこたえが返ってきたら、念のため、このように聴いてみてください。
「一つでもよいので、特に印象に残っているというか、記憶に残っているものがあったら、それだけでもお聴きできればと思うのですが、いかがですか?」
こうやって、覚えているものだけでも聴きだそうとしてみてください。
「そうですね。そういえば、研修の目的を話すところで、言いたいことがあいまいで、受講者にきちんと伝わらないな、と思ったので、そこを指導しました。」
こんな感じで答えが出てきたら、その中身を確認します。
「具体的には、その方の説明のどんなところがあいまいだったのですか?」
「その研修は、より少ない時間でより高い成果を出す、というのが研修のテーマだったのですが、そこで彼は、簡単に言えば、この研修を受けることで残業が減るんです!と、言ったんです。だけど、そんなわけないですよね? 仕事が増えることだってありうるわけで、無条件に残業が減るなんて言いきれるわけがないですから。」
「それで、その点については、どのように指導したのですか?」
こうやって、何か結果が出てきたら、かならずそれに対してさらなる行動があったかどうかを確認します。
「基本的には、こう話しなさいと言って押し付けるのではなく、問いかけて、自分で考えるように指導しました。」
あえてリアルに例示していますし、そろそろ「くどい!」とか「長い!」と思い始めている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、あえて繰り返すならば、コンピテンシーインタビューとは、『抽象的に話そうとする相手』と『具体的な情報を集めたい自分』との戦いです。ですから、行動を聴くと、相手はこうやって一般化した抽象的な答え方をしてくるのです。そこで、具体化を促します。
「具体的には、いまの残業が減るんです!と言った部下の方に対して、どのように問いかけたのですか?」
「今お話ししたように、無条件で残業が減るわけじゃないよな?と、話をしました。そうしたら、そうですね、と。じゃあ、どう話す?と、問いかけたところ、同じ仕事量なら、残業が減るという言い方でどうか、と答えてきましたので、それでいいよ、と。」
「なるほど。ほかには、この、1回目の30分の模擬実演が終わった段階でやっておいたことや、指導したことはありましたか?」
一つ聞き終えても、それだけで満足せず、かならず『ほかには?』という形で聞き漏らしがないように、気を付けます。それでも出てこなかったら、次に進みましょう。
「それでは、まずは30分の一回目の模擬実演が終わり、その内容についての指導も終わりました。次は、どんな行動をとりましたか?」
と、素直に、『次は?』という形で、行動を引き出します。万が一、次は?と尋ねた時に、
「次は、自分で資料を作らせました。」
と、いうように、明らかに時系列が飛んだな、と思ったら、必ず時間を引き戻します。
「あ、すみません。私の聴き方が悪かったですね。この初日の模擬実演で30分冒頭の部分だけをやらせて、指導しましたよね? この模擬実演会のつづきをお話しください。
30分の冒頭の部分の指導を終えて、模擬実演会において次はどのように進めたのですか?」
「次は、その30分のビデオを再生して、自分が話している姿を見せました。」
こうやって、時系列が飛ばないように。時間を全部、行動と結果でつないでいきます。
ここから先は、同じことの繰り返しです。時間を飛ばさないように、そしてちょっとでも抽象的な表現が出てきたら、具体化を促して、最後まで聴いていく。それだけです。
繰り返しになりますが、時系列の維持がコンピテンシーインタビューではとても大切です。
なぜか? 相手の強みがどこで発揮されたかがわからず、相手もスキーマで自覚していない場合、こうやって漏れなく聴きだし、見つけてあげることがコンピテンシーインタビューの目的だからです。
こんな形で聞いていくと、ちょっと大きな取り組みなら1時間や2時間かかることもよくあります。ですから、それなりに時間がかかるものだと考えておいたほうが良いでしょう。
ですが、実際に人事評価や採用面接、昇格審査などで活用しようとする場合、そこまで長時間かけることができないといった、時間的な制約も出てきます。
当然のことながら、費用対効果や優先順位を考えて、運用の仕方を調整する必要が出てきます。
一般的には、やはり管理職の採用や昇格、または経営者のヘッドハンティング、それからベンチャーキャピタルの方が投資対象の起業家、経営者の経営力、成長力を診断するときなどは、しっかり時間をかけて、丁寧にコンピテンシーインタビューを行うものです。
一方で、人事考課や新卒採用などでは、部下の数や採用数にもよりますが、あまり多くの時間をかけられないケースが多いようです。
こうした『現実的な運用』については、後日、コンピテンシーの制度設計や運用設計のパートでご紹介していきます。
まずは、コンピテンシーインタビューの基本形についての話をここまでで終えたいと思います。