トップへ戻る

コンピテンシー実用講座

(9)コンピテンシーインタビュー の基礎 ⑨思考、行動を聴く(その4)

前回までお伝えした、『固有名詞、日付、場所が特定される具体性』と、『単語で分かった気になってはいけない』という留意点は、いずれもハイコンテクストとスキーマの罠への対抗策です。このくらい具体的に確認しないと、私たちは抽象的で、どうとでも取れる情報を自分のスキーマで捻じ曲げて解釈してしまうということです。

その結果、客観的な評価から遠ざかっていく。

 

では、このレベルの具体性をキープしていくためのインタビュー技法とは、どのようなものでしょうか?

実は、これまでにご紹介した例文の中でも、何度も出てきています。

キーワードは、『まず、いちばん、さいしょに』。

 

日付、場所が特定されるレベルの具体性に落とし込むところでもご紹介したように、時系列というのはコンピテンシーインタビューにおいては最強のフレームワークです。これを、思考、行動を聴くところでも活用するのです。

 

1)時系列の最初の『時点』を押さえる

前回の例文を振り返ってみましょう。

「6月28日に、会社の会議室で模擬実演会を開きました。」

と、場所、日付が特定されるレベルの具体性になったら、その時系列の最初の『時点』を押さえます。

「模擬実演会は、何時からスタートしたのですか?」

「始業後すぐに始めたので、午前9時からです。」

こんな形で、時系列のスタートをつかみます。もし、このようにはっきりと時間が特定されるような話でなければ、

「その時に、あなたが行動を起こすきっかけとなったのは、どのようなことですか?」

と、いうように『きっかけ』を聴くというアプローチもあります。それによって、

「現場の担当者から電話で連絡が入ったことがきっかけです。」

「上司から指示されたことがきっかけです。」

「計器の数値が異常値を示していることに気づいたのがきっかけです。」

など、その行動の、『時系列におけるゼロ地点』がはっきりすれば、次のステップに進むことができます。

 

2)時系列のさいしょの行動を押さえる

時系列の最初を押さえることができたら、そのいちばん最初のところでとった行動を聴きます。

「9時に開始して、まず、いちばん、さいしょに、どのような行動をとりましたか?」

と、ここで『まず、いちばん、さいしょに』を使います。

もし、前段で『きっかけ』を聴いたのであれば、

「上司からの指示を受けて、あなたは、まず、いちばん、さいしょに、どのような行動をとりましたか?」

と、いう聴き方になるでしょう。すると、相手から、時系列の最初の行動(と、本人が思っていること)が出てきます。

「まず、冒頭講話の部分、30分ほどのパートだけをやらせてみました。」

こんな感じです。

 

3)行動を掘り下げる

ここで、『単語で分かった気になるワナ』への対策を取り入れます。単語で分かった気になる罠に気づくためのコツは、相手のセリフにいちいち心の中で、

「○○にも、いろいろあるけれど」

と、あてはめながら聴いていくのです。特に動詞。

いまは相手の行動を聴いているところですから、その人が行動したという動詞を発するたびに、それにもいろいろあるけれど、とあてはめてみるのです。すると、

「“やらせてみる”にもいろいろあるけれど。」

の、ように、その単語に様々な意味合い、可能性の広がりがあることに気づけます。

 

こうやって言葉の広がりに気づいたら、

「具体的にはどうやったのですか?」

と、具体的な内容を質問します。今の例文で言えば、

「やらせてみたというのは、具体的に、あなた自身はどのような行動をとったのですか?」

と、いう質問になるでしょう。

 

これで相手が応えてくれることもありますが、相手もハイコンテクストの罠にはまっていて、抽象化して記憶がぼけてしまっていると、

「いや、まずは、やらせてみようと思ったので、私自身は特に何も……」

というように、自分の行動を自覚しておらず、何も答えられないケースもあります。

 

そこで、相手が思い出したり、なにをこたえればよいのかを少しわかりやすく質問してあげる必要が出てきます。そういう時は、

「やらせてみるに当たって、特にあなたが意識して行ったこと、工夫したこと、苦労したこと、気を付けたことなどはありましたか?」

と、いった質問のしかたを取り入れます。

ちなみに、この質問の意図するところがパッと理解できたとしたら、相当コンピテンシーについて理解が深まってきた証拠です。

この質問は、一言でいうと、

「なにか、レベル3を発揮しませんでしたか?」

と、聴いているのです。だけど、相手はそんな聴き方をしても当然わかりませんから、意識して行ったこと、工夫したこと・・・のように、何か思考力を要するような行動はなかったか?を探っているのです。

 

この質問に対して、

「はい、彼の視界に入らない別室からモニターするようにしました。」

と、いうように、「やらせてみた」の具体的な中身が出てきます。相手が話した内容が、それだけでわからない内容だったり、そこでも「いろいろあるけれど」と、あてはめてみて、あてはまるようなら、

「もう少し具体的に、教えていただけますか?」

と、掘り下げてみてください。

「ビデオカメラを設置しておいて、別室のモニターで見ることができるようにセットしておいたんです。それを通して、彼が実演しているところを見るようにしたんです。」

それにもいろいろあるけれど……と、あてはめてみて、ビデオで映して別室で見るというのは、いろいろないな、と思ったら、次のステップに進みます。

 

4)思考(意図と論理)を聴く

行動内容が理解できたら、その行動に至った思考を聴きます。質問のしかたは、

「なぜ、そういう行動をとろうと思ったのですか?」

と、いうように、なぜ?という質問になります。

なぜ?という質問をすると、相手の答えは3つのパターンに分かれてきます。

 

一つ目は、意図を答えるパターン。たとえば、

「上司や先輩が見ていると、どうしても緊張しますし、本物の受講者を相手にしている時と言動が変わってくるので、できるだけ彼が本番に近い環境で話が出来るように、と。」

このように、その行動の目的やねらいが出てきたらそれが意図です。

 

二つ目は、思考プロセス、その行動を編み出したロジックです。たとえば、

「以前、同様に研修講師を養成しようとした時に、模擬実演で全然うまくできない人が、試しに本番でやらせてみたら、驚くほど上手にできたことがあるんです。その経験があったので、今回は、わたしがみえないところで、受講者に対して話しかける環境を作ってあげたらいいのではないかと思ったんです。」

と、いうように、その行動、アプローチをどうやって考えだしたのか。ヒントや根拠、そこに至るまでの選択肢やその選択基準などが、思考プロセス、論理ということになります。

 

三つ目のパターンは、この両方をいっぺんに答えてくれるパターンです。

 

三つ目のパターンなら良いのですが、大抵は意図か論理のどちらかを答えてくるケースが多いので、相手の答えが意図なのか論理なのかを識別して、欠けているほうを質問して引き出すことが大切です。

意図を聞くならば、

「そのような行動をとったのは、どのような意図、ねらいからですか?」

と、いうように、なぜ?を少し具体的に質問する形でいいでしょう。

論理を聞くならば、

「そのような行動、方法は、どのように考え出したのですか?」

という聞き方が基本ですが、それで相手に質問の意図が伝わらなければ、

「そのような行動、方法を思いついたきっかけやヒントは なにかあったのですか?」

と、いうように、まずは『根拠』を聴き、それから、

「そこからどのように考えて、今の方法に辿り着いたのですか?」

と、いうように、思考プロセスを聞くなど、少し分解して、順を追って聞いていくという方法もあります。

この辺りは、相手の受け答えに応じて柔軟に対応していく必要があるので、慣れや経験が必要になってくる部分ではあります。

 

以上で、行動と思考を聴く部分が終了となります。

 

次回は、『行動の結果を聴く』をご紹介します。