2019.09.18
(9)コンピテンシーインタビュー の基礎 ⑧思考、行動を聴く(その3)
固有名詞、日付、場所。
この三つをしっかり押さえて『事実』としての具体性を確保したら、いよいよ、その人の強み弱みを評価分析するための情報、つまり思考と行動を聴いていきます。
ここで気をつけたいのも、やはり具体性。
ポイントは、『単語でわかった気にならない』という点です。
たとえば、前回からの事例で、
「6月の下旬、たしか28日だったと思いますが、本社の会議室で、模擬実演会を開きました。」
と、いうところからスタートするとしましょう。よく見かけるインタビューでは、こんな感じで進んでいきます。
「その模擬実演会を実施する上で、あなたが特に工夫したことはどんなことでしたか?」
「はい。とにかく本人の自由にやらせてみて、その中で、特にどうしても直さなければならない、最低限必要な修正だけを指示するようにしました。」
「なるほど。なぜ、そうしようと思ったのですか?」
「やはり、一人一人の個性があるので、私のやり方をそのまま真似させるのも難しいと思ったからです。
できるだけ、その人の個性にあった形で仕上げたほうが、結果的に自然で、プロらしい雰囲気が作れると考えたのです。」
こんな感じのインタビューで、十分な情報が採れたと思って、この部分を終えてしまいがちです。
これが、『単語でわかった気になる』という現象です。
この事例では単語ではないのですが、
「本人の自由にやらせてみて」
「最低限必要な修正」
と、いう、この程度の簡潔な表現で、
「なるほど、そういう行動をとったのか。」
と、理解できた気になってしまうという現象を指して『単語でわかった気になる』と、表現しているのです。
このように申し上げても、
「この内容で十分なんじゃないの?」
と、思われている方も多いのではないでしょうか?
そこで、この「本人の自由にやらせてみて」という部分を掘り下げるとどうなるか、というインタビューの展開をご紹介してみます。
そうすると、今の内容では不十分だ、ということがご理解いただけるかと思います。
「その模擬実演会は、6月28日の何時くらいからスタートしたのですか?」
「始業後すぐにはじめたので、9時からです。」
「9時の開始後、まずいちばんはじめにどのようなことから始めましたか?」
「まず、冒頭講話の部分、30分ほどのパートだけを、やらせてみました。」
「やらせてみるにあたって、特に指示したことや、あなた自身が工夫したことは、何かありましたか?」
「はい。上司や先輩が見ていると、どうしても緊張しますし、本物の受講者を相手にしている時と言動が変わってくるので、実演中、私は席を外すことにしました。それで、彼の視界に入らないところからビデオカメラで撮影して、別室でモニターするようにしました。」
「なぜ、そのようなアプローチをとろうと思ったのですか?」
「以前、同様に研修講師を養成しようとした時に、模擬実演で全然うまくできない人が、試しに本番でやらせてみたら、驚くほど上手にできたことがあったのです。お客さんの評価も非常に高かった。
その時に、どうして模擬でうまくできなかったのに、本番でうまくいったのかを、本人に聞いたんです。
そうしたら、講師役の自分よりも、このコンテンツのことを深く、よく知っている私に対して、自信を持って話すことなんてできなかった、と言われたんです。
この内容を理解して欲しいとか、なんとかわかってもらおうという姿勢を持ちづらいとも言ってましたね。
緊張するばっかりだった、と。
彼曰く、本物の受講者のみなさんは、少なくともこのコンテンツについて、自分よりも詳しく知っていることはないので、拙くても、なんとかきちんと説明してわかってもらおうって気持ちになれたので、無心で話せたのだそうです。
そんな経験があったので、今回は、私がみえないところで、受講者に対して話しかけている環境にできるだけ近い状況を作ってあげたらいいのではないかと思ったんです。」
「なるほど、他には、この段階でやっておいたこと、工夫したことはありましたか?」
「いまの話の続きでもありますが、模擬実演をする佐藤さんの前にスクリーンを張って、受講者の画像を投影しました。」
「どういうことですか?」
「いまお話した以前の講師養成の時の経験があったので、いつか使おうと思って、社内研修のときに受講者の様子を講師席から撮影しておいたんです。
講師から見て、受講者がどう見えるかを撮影してあって、それを繰り返しループ再生できるように準備してありました。
それを、佐藤さんの模擬実演の時に、目の前で投影して、スクリーンに映った受講者相手に話しているという雰囲気を作ってみたんです。」
「なるほど。そうやって意図的に作り上げた環境で、最初の30分をやらせてみたわけですね。実演中は、何か工夫したこと、意図して行ったことはありましたか?」
「いえ。むしろ、できるだけ私の気配が消えるように、隣の部屋で物音一つ立てず、身じろぎひとつせずに、モニターを見てました(笑)。」
いかがでしょうか?
私たちは、「本人の自由にやらせてみて」という断片的な情報だけで、「ただやらせただけなんだな」と推測し、わかった気になって、その部分の聴き取りを省略してしまいます。
その結果、その人の重要な能力発揮、強み情報を取り逃がしてしまうことがあるのです。
もちろん、
「何か工夫したことは?」
と、聞いても、
「いえ、別に。」
と、何もない可能性だってあります。
ですが、そうやって確認して、
「事実として、何もなかった。」
と、確認することが、人財分析の精度を確保する上で欠かせないのです。
今回は、『単語でわかった気になってはいけない』という、行動や思考の掘り下げの重要性についてご紹介しました。次回は、その掘り下げ方についてご紹介していきたいと思います。