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コンピテンシー実用講座

(8)コンピテンシーインタビューの技術 ⑤指標と水準

指標と水準という表現は、よく目標設定の研修で紹介されます。このとき、多くの方が、

「定量化しろと言っているんだな。」

と、誤解しがちです。

指標と水準で言語化しろと言ったからといって、必ずしも定量的に表現する必要があるわけではありません。

そこで、指標と水準という言葉を、以下のように定義し直してお伝えしています。

 

指標とは、『成果の確認方法(何を見れば、成果が出たかでないかが確認できるのか)』です。たとえば、売上高という指標は、売上高を見れば成果が確認できるよ、ということを示しているわけです。

 

水準とは、『達成状態(どうなっていることが、成果なのか)』です。

売上高という指標を確認したときに、それが1千万円という状態だった。それが成果だ、ということになります。

 

この定義で指標と水準を運用するならば、必ずしも定量的な成果である必要はありません。

たとえば、『部下育成』のような取り組みの成果は、なかなか定量化しにくいものです。その時は、指標と水準を定性的に言語化すればよいのです。

 

たとえば、私が、研修講師を養成したとしましょう。そして、その件について、コンピテンシーインタビューを受けているとします。

復習もかねて、取り組みを聴くところから会話形式で再現してみましょう。

「あなたが、過去一、二年の中で、一番力を入れて取り組み、成果を出した事例を一つ教えてください。」

「はい。部下の育成に取り組みました。特に、最近お客様からのご相談が多い、研修に対応できる人財が不足していたので、研修講師の養成に力を入れました。」

「どのような成果が出ましたか?」

「はい。おかげさまで、部下の一人を、研修講師に仕立て上げることができました。」

 

コンピテンシーインタビューに初めて取り組む方は、このくらいの内容で、

「よし、これで取り組みと成果を聴くことができたぞ!」

と、満足して、次のステップに進もうとします。だけど、この具体性では、まだ十分とは言えません。

「研修講師を養成できたというのは、具体的にどういう状態になったとイメージすればよいでしょうか?」

「うちには、いくつものプログラムがあるのですが、そのうち一番ニーズの多いプログラムが3つあります。それらのプログラムを、マスターさせることができました。」

「マスターしたというのは、具体的にはどうやって確認したのですか?」

「実際に、料金が発生するお客さまの研修に講師として登壇させて、私がアシスタントとして同席して確認しました。それで問題なくうまくいったらマスターしたとみなして、そこからは単独で登壇させています。」

「なるほど、本番でやらせて、うまくいったら卒業というイメージですね。ところで、そのうまくいったというのは、もう少し具体的に言うと、何をもってうまくいったと判断したのでしょうか?」

「一つは、受講者アンケートですね。高い満足度まではいかなくても、著しく悪い評価、つまり5段階で1と2を付ける受講者の方が一人もいないこと。それから、事務局の方が特に問題意識を持たず、次回もお願いしますというように、リピートにつながること。この二つをクリアしたら、うまくいったと判断しました。」

 

この内容を、指標と水準という観点で整理すると、以下のようになります。

 

指標(成果の確認方法)= 本番で実際にやらせてみて、

水準(成果の達成状態)= 受講者から悪い評価が付かず、事務局からリピートを獲得できる

 

と、いうことになります。突き詰めれば定量化されるのかもしれませんが、このように、多少定性的であっても、成果が客観的、かつ具体的に確認できていることが聴き取れれば、それで十分ということになります。

 

逆に言えば、客観的に確認できていない成果は、成果と認めないということでもあります。日本の大企業では、意外と成果を意識せずに仕事をしている人が多いものです。そういう会社で評価制度や昇格審査の手段としてコンピテンシーを導入すると、まず最初に出てくる効果が、この『成果を意識しながら仕事をするようになる』という変化です。

自分のやったことがどのような成果につながったのかを確認するようになる。それから、仕事をするときに、どんな成果を出したいのか、しっかりと成果を考え、ゴールを設定して取り組むようになる。

漫然と仕事をするよりも、明らかに意図的に、かつ効果的な工夫や行動をとるようになっていきます。それによって、成果の再現性が高まっていく。

 

確認できない成果は、成果ではない。

コンピテンシーインタビューの第一歩は、指標と水準という切り口から、成果が客観的に確認できているかどうかをチェックすること。

成果の再現性を分析するわけですから、このステップで妥協してはいけないのです。