2019.08.07
(8)コンピテンシーインタビューの技術 ③取り組みの聴き方(応用)
前回の『取り組みの聴き方』に関連して一つ、応用編をご紹介します。
『取り組み』や『成果』と言うと、
「完結した一つの取り組み、成果」
と、いうイメージを持ちがちです。
しかし、コンピテンシーインタビューでは、取り組みの一部、つまり一部のプロセスや一場面レベルに着目してインタビューを行う場合があります。
たとえば採用面接で、『コミュニケーション力の高い人財』を求める会社を、よく見かけます。
すべてとは言いませんが、あるひとまとまりの取り組みで、完結した成果を、コミュニケーション力だけで生み出すというのは、まず不可能でしょう。
念入りに計画を立てたというプロセスもあれば、粘り強く作業を繰り返したというプロセスもあるでしょう。
そうした数多くのプロセスの一つに、関係者に働きかけて協力を取り付けたというような、コミュニケーション力を発揮したプロセスが含まれるはずです。
相手のコミュニケーション力をコンピテンシーインタビューで確認したいとき、しかも、そのためにすべてのプロセスを聴き取るような時間がないとき。そういう時は、みなさんが聴きたい場面、聴きたい部分のみに絞り込んで、インタビューを実施する必要が出てきます。
その時は、『取り組みを聴く』という、最初のステップで、そうした場面、プロセスに絞り込んで、相手に問いかけます。
絞り込むというのは、コミュニケーション力で言えば、こんな聴き方になります。
「どのような取り組みでもよいのですが、その過程で、コミュニケーション力を発揮して、うまく相手の納得や行為を得ることができたという事例があれば、教えてください。」
このようなインタビューです。だけど、この聴き方では十分ではないケースもあります。
ここで気を付けなければいけないのは、『コミュニケーション力』という抽象的な概念では、コンピテンシーインタビューは難しい、ということです。
コミュニケーション力にもいろいろあります。論理的にわかりやすく説明する力。相手の心情を踏まえて働きかけ、人間関係を構築する力。多くの人にプレゼンテーションを行い、巻き込む力。細かく言えば切りがないでしょう。
大切なのは、そのコミュニケーション力に、どのような『成果』を期待しているのか、という点です。上述のように、『合意を得る』という成果なのか、それとも『関係を構築する』という成果なのか。関係構築でも、『全くゼロから関係を作り出す』という成果なのか、『既存の関係性を高める』という成果なのか。
私たちはハイコンテクストのワナに陥ると、こうしたことを具体的に考えず、漠然と『コミュニケーション力の高い人』といったレベルの抽象度で採用活動を展開します。当然、的が絞れず、「何となく印象がいい人」「人当たりのよさそうな人」を、『コミュニケーション力の高い人』として採用してしまいます。
なので、インタビューにおいて『取り組み』を絞り込み、短時間でこちらが期待する特定の能力を確認したい場合は、その『求める要件』を明確に定義する必要があります。
こうした特定の力を確認するインタビューの基本形としては、
「こんな力を発揮して、こんな成果をあげる人」
というように、力と成果をセットで考えるとよいでしょう。たとえば、
「論理的にわかりやすく説明し、相手の理解や納得を得るという成果につなげられる人」
と、いう具合。
このように要件定義をしたら、それをそのまま質問に使います。
「交渉や折衝という場面で、あなた自身が論理的にわかりやすく説明し、それによって相手に納得してもらうことができた、という事例は何かありませんか?」
と、いう質問になります。
もちろん、能力の多様性を重視して、
「どんな形のコミュニケーション力でもいいんだ。結果として、相手に納得してもらったり、合意を得るという成果を生み出せればいいんだ。」
と、いうケースもあるでしょう。
その場合は、
「交渉や折衝という場面で、あなた自身が相手に働きかけ、工夫して、合意や納得を得ることができたという事例があれば、教えてください。」
というように、プロセスを限定せず、期待する成果の種類だけをはっきりさせて、確認すればいいでしょう。
このように、コンピテンシーインタビューでは、まず確認したい力(コンピテンシー)をしっかり要件定義して、それを確認することのできる『ネタ(=事例)』を取り出す。これが、『取り組みを聴く』というステップです。
こうして、首尾よく取り組みを取り出すことに成功したら、次のステップ、『成果を確認する』という段階に進んでいきます。それを次回、ご紹介していきたいと思います。