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コンピテンシー実用講座

(8)コンピテンシーインタビューの技術 ②取り組みの聴き方

コンピテンシーインタビューでは、まずインタビューのテーマとなる『取り組み』を挙げてもらいます。コンピテンシーはその人の思考・行動と成果が結びついていなければいけませんから、ここで出してもらう『取り組み』は、成功した事例、成果が出た事例でなければいけません。

 

ここで気を付けなければいけないのは、『取り組みやその成果の大きさ』よりも『その人自身が、自ら考え、判断し、行動して出した成果』であることが大切だ、という点です。

 

コンピテンシーインタビューが行われる場面というのは、たいていの場合、評価を受ける場面です。期末の評価面談や採用面接。

そういう場面で、

「あなたが成果を出した取り組みを一つ、教えてください。」

と、質問すれば、人情としては、

「できるだけ大きくインパクトのありそうな成果を出した取り組みをアピールしよう。」

と、いう発想になります。

 

なので、そこは、しっかりとこちらの望む情報が相手に伝わるように、少し強調して質問する必要があります。

 

「あなた自身が、力を入れて取り組み、自ら考え判断して行動した。その結果、うまくいった、成果が出たという取り組みを一つ教えてください。」

こんな質問のしかたが、コンピテンシーインタビューのスタンダードな第一歩です。

 

こうして、相手から『取り組み』を取り出すわけですが、この『取り組み』の内容を聴いたとたんに、私たちが陥る罠があります。それは、

 

『取り組みの種類を評価する』と、いう罠です。

 

たとえば新卒の採用面接では、受験者は、

「普通とは違う、特殊な取り組み」

「社会的にインパクトや意義がある取り組み」

が、評価されると考えています。そこで入学直後から就職活動を見据えて、そういう取り組みを在学中から意図的に(就職活動のために)作り出します。

同級生と一緒にサークルを立ち上げたとか、被災地のボランティアで廃棄物の撤去に従事したとか。または、海外に留学した話とか。

それを、全力でアピールしようとするわけです。

 

多くの面接官が、そういう話が出てくると、

「おっ!」

と、食いついてしまうのです。それが、取り組みの種類を評価するという罠なのです。

 

また、そうやって、取り組みが評価されたということがネット上で拡散すると、多くの学生がそれをまねして、ボランティア活動に参加したり、適当なサークルを設立してみたりします。または、最近は会社なんて簡単に作れますから、

「私は、在学中に起業しました。」

などというアピールも頻繁に出てくる。

 

すると、面接官が、

「また、ボランティアの話か。」

「また、起業の話か。」

と、辟易とした顔で、他には?などと、せっかく出てきた取り組みの話を素通りしようとします。これも、『取り組みの種類を評価する』という罠の一種です。

 

どんなに素晴らしい取り組みをしていても、そこで自発的に何も考えず、行動も起こさず、ただ参加していただけでは、コンピテンシー的には高い評価、つまり強みを見出すことはできません。

一緒にサークルを立ち上げたけど、ほとんど同級生がイニシアティブをとっていて、自分はその同級生に言われるがまま動いていただけとか。

ボランティアに参加しても、ただ言われた通り、指示通りに作業をしただけとか。

留学にしても一緒です。ただ授業に参加して、出された宿題を一生懸命こなしただけだとか。

それを確認するためにも、しっかりプロセスを聴いてから評価しなければなりません。

 

一方で、

「テストで高い点数をとった。」

「アルバイトをがんばった。」

のように、学生としてありがちなテーマを相手が述べたからといって、

「なんだ、そんなことか。」

などと、切り捨ててはいけません。

「テストで高い点数をとるために、どんな工夫をしたのですか?」

「アルバイトで、どんな成果を出したのですか? そのために、どんな工夫をしたのですか?」

と、きけば、高いレベルのコンピテンシーが出てくるかもしれないのです。

 

繰り返しになりますが、『取り組みの種類を評価する』という罠に陥った人は、取り組みを聞いただけで、興味を失い、

「他には?」

と、話題を変えてしまう。なんてもったいない!と思うこともしばしばです。

 

コンピテンシーの視点では、取り組みの大きさや希少性、またはその成果の大きさや社会的影響力が評価基準ではないのです。

第一のステップである、取り組みを聴くというステップでは、このコンピテンシーの原点をしっかり押さえておく必要があります。

第一ステップでつまずいてしまえば、コンピテンシーインタビューは、そこで終わりなのですから。

 

そういう意味では、相手もこの『取り組みの種類のわな』に陥る可能性が高いので、インタビューの際にはきちんと誘導してあげる必要があります。

 

具体的には、

「あなた自身が自ら考え、判断し、行動することで成果を出した。そういう取り組みを一つ挙げてください。特殊なものでなくても構いませんし、学業以外でも、アルバイトやサークルなど、どのような取り組みでも大丈夫です。いちばん、あなたが苦労し、工夫して取り組

んだ、という取り組みを聞かせてください。」

 

このくらい、はっきりとこちらの意図を示したほうがいいでしょう。

 

次回は、この『取り組みを聴く』というステップについて、応用的なアプローチを一つご紹介します。