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コンピテンシー実用講座

(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ⑦ハイコンテクストの弊害

さて、このようなハイコンテクスト思考の私たちが、ビジネスシーンで陥る無意識のワナとは、どのようなものでしょうか。

もっとも典型的で危険な罠が、「精神論のワナ」と、その結果として生じる「やった気になるワナ」です。

 

現場で業務分析をしていて、よく見かける最悪の動作と言われるものがあります。この動作を見つけると、私たちはいったんやめていただくように働きかける。そのくらいよろしくない動作です。
その最悪の動作とは、『朝礼で唱和する』という動作です。

 

壁に貼った二字熟語。たとえば『安全対策の強化』といった言葉。
前回お伝えしたように、私たちはそこで思考停止に陥ります。課題を考え切った気になり、自分なりに明確に打ち出したつもりになります。

一方、それを受け取る方も、ハイコンテクスト思考の日本文化に染まっていますから、そのくらいの言葉でわかった気になる。
課題を明確にしたつもりですから、次は何か行動に移さなければなりません。だけど、いかんせん、中身は何も考えてませんから、何をやっていいのかわからない。そして、中身を考えていないということが問題だということにも気づかない。すると、
「とりあえず、できることは何か?」
と考えたときに、
「意識を高めるために、朝礼で唱和しよう!」
という発想が出てきます。

 

この、『意識づけ』という発想が要注意です。
朝礼で唱和していると何が起きるか?
言語化=思考ですから、毎朝、唱和という形で言葉に出していると、どこかで脳みそが錯覚を起こし始めます。
「これだけ毎日言語化しているのだから、何も考えていないわけがない。」
「何か考えていれば、考えついたことを行動に移しているはずだ。」
「行動に移していれば、それによって何かが変わってくるだろう。」
俗にいうところの、意識が変われば、行動が変わるという錯覚です。

そして、何も行動が変わっていないのに、なにかをやっているという錯覚に陥る。これが『やった気になる』というワナです。
ここで行動発生過程を思い出してみてください。『意識(意図)』と『行動』の間には、何があったでしょうか?

そう、『思考』です。
具体的に、実行可能な方法論が思いついていなければ、人は行動を起こすことはできないのです。
ところが、私たちは、「意識が変われば、行動が変わる」という何の根拠もない迷信を信じます。逆に言えば、「行動しないのは、意識が低いからだ」と、意識のせいにします。肝心の『思考』をおろそかにする傾向がある。
これが、『精神論』と『やった気になる』ワナと呼んでいるものです。

 

さて、このハイコンテクストの罠が、コンピテンシーインタビュー、またはコンピテンシーに基づく人材分析にどのように関係してくるのでしょうか?
二つあります。

 

一つ目は、インタビューにおいて。
ハイコンテクスト思考の私たちは、具体的に考え、具体的に話すことがとても苦手です。
ところが、コンピテンシー分析では、スキーマの弊害がありますから、「いつも」のような抽象的な情報では根拠とすることができません。

いつ、どこで、誰に、どのようにして・・・というように、具体的な情報を獲得する必要があるのです。

 

ですから、この後ご紹介するコンピテンシーインタビューの技術とは、その9割がたが「具体化するための技術」です。逆に言えば、相手が具体的に思い出し、しゃべってくれるとしたら、コンピテンシーインタビューのスキルなど、ほとんど必要ないと言ってよいでしょう。
コンピテンシーインタビューの技術とは、具体化する技術。
ここを押さえたうえで、この後の技術論をお読みください。

 

二つ目は、コンピテンシー開発、人財開発という側面において。

スキーマの弊害と、ハイコンテクストの弊害が、ハイブリッドで組み合わさると、「人財の成長や変化を阻むメカニズム」となっていきます。

この点について、次回詳しくご紹介していきたいと思います。