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コンピテンシー実用講座

(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ⑤スキーマ対策

さて、今回はスキーマの罠に引っかからないようにするための対策編です。

 

スキーマというのは、過去の経験に照らし合わせて、目の前の『事実』を『誤認』するメカニズムです。

ですから、スキーマの弊害にはまらないようにするためには、『事実』と『認識』を並べて、そのつながりを精査することが、一番の対策になります。

 

たとえば、「慎重さ」という評価項目があったとしましょう。

そして、あなたの部下にAさんという人がいるとしましょう。

あなたは、期末の評価の時に、このAさんについて、

Aさんはミスをする人だからな。」

と、考えて、低い評価をつけようとしているとします。

 

このとき、スキーマの罠を避けるために、『事実と認識を並べる』のです。

イメージとしては、白紙を目の前に置いて、向かって左側に『事実』、右側に『認識』という欄を作ります。

そして、その右側の認識欄に、自分の評価を書きます。つまり、

Aさんはミスをする人だから、最低点(たとえば1点)」

と、書きます。

 

この時点で、左側の『事実』欄は空欄なわけです。

これだけでも、効果や気づきにつながるケースもよくあります。

人は、言葉で考える生物です。言語化しないでただ『感じる』ですませるのと、言語化して『考える』のとでは、頭の使い方が全然ちがいます。

ですから、右側に、

Aさんはミスをする人だから、最低点の1点である。」

と、書いて、それを自分で目にすると、

「なんだか、違和感があるな。そこまでひどいかな?」

と、スキーマで偏っている自分に気づくことも多いのです。

 

さて、違和感が出ようが出なかろうが、次のステップは左側、つまり『事実』欄です。

違和感があれば、

「本当にそんなにひどかったっけ?何かそういう事例があったかな?」

と、自問自答しながら思い出せばいいし、違和感もなく、

「そう。Aさんはミスをする人だ!」

と、強く思い込んでいるなら、

「その根拠なんていくらでもあるさ!」

と、いう気持ちで臨めばいいでしょう。

 

なお、左側に根拠となる事実を記載するときは、「いつも」とか「常に」といった、一般化した記載にならないように気をつけます。そのような一般化した根拠こそ、スキーマに陥っている証拠ですから。

スキーマの弊害に陥っている可能性をチェックしているわけですから、「いつも」ではなく、

「あの日、あのとき、あの場所で」

と、いうように、日付と場所くらいは、手帳でもなんでも引っ張り出して、具体的に記載してみましょう。

「日付までは覚えてないよ!」

と、いう方は、「あの件で」とか「あの人に」という、その事例が特定されるような固有名詞を入れてみます。

(この後、インタビュー技術のところでも出てきますが、この、日付、場所、固有名詞を特定するというのは、「いつも」というスキーマの弊害に陥らないための、歯止めになる大事なキーワードです。ぜひ、覚えておいてください。)

 

そうやって、日付、場所、固有名詞を具体化したら、あとは、ミスの内容をできるだけ具体的に記載してみましょう。

 

左側の事実欄と、右側の認識欄が両方書けたら、それをみくらべてみます。

「このとき、Aさんはこんなミスをした。それを私は1点と評価しようとしている。」

こんな風にチェックしたときに、

「いや、こうやって書いてみると、1点をつけるほどのミスじゃないよな。」

と、思ったら、点数を修正するか、または、

「もっとひどいミスなんてあったかな?」

と、他の事例を探してみればいいでしょう。

もし、そんな事実がなく、

「やっぱり、ほんのちょっとしたミスで、しかもそんなに回数もないのに1点というひどく低い点数をつけようとしていたな。」

と、そんな風に気付いたら、

「自分は、スキーマで偏った評価をしようとしていたんだな。」

と、考えて、評価を見直せばいいのです。

 

細かいインタビューの技術は置いておいて、まずはこのように、

『事実と認識をセットで捉える』

と、いうアプローチを意識的に取りいれるだけで、随分と評価の妥当性が高まります。

 

次回から、インタビューの際に気を付けたい、もう一つのワナである『ハイコンテクスト思考』について、ご紹介していくことになります。

ちょっと回りくどいな、と思われているかもしれませんが、気長にお付き合いください。