2019.06.12
(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ⑤スキーマ対策
さて、今回はスキーマの罠に引っかからないようにするための対策編です。
スキーマというのは、過去の経験に照らし合わせて、目の前の『事実』を『誤認』するメカニズムです。
ですから、スキーマの弊害にはまらないようにするためには、『事実』と『認識』を並べて、そのつながりを精査することが、一番の対策になります。
たとえば、「慎重さ」という評価項目があったとしましょう。
そして、あなたの部下にAさんという人がいるとしましょう。
あなたは、期末の評価の時に、このAさんについて、
「Aさんはミスをする人だからな。」
と、考えて、低い評価をつけようとしているとします。
このとき、スキーマの罠を避けるために、『事実と認識を並べる』のです。
イメージとしては、白紙を目の前に置いて、向かって左側に『事実』、右側に『認識』という欄を作ります。
そして、その右側の認識欄に、自分の評価を書きます。つまり、
「Aさんはミスをする人だから、最低点(たとえば1点)」
と、書きます。
この時点で、左側の『事実』欄は空欄なわけです。
これだけでも、効果や気づきにつながるケースもよくあります。
人は、言葉で考える生物です。言語化しないでただ『感じる』ですませるのと、言語化して『考える』のとでは、頭の使い方が全然ちがいます。
ですから、右側に、
「Aさんはミスをする人だから、最低点の1点である。」
と、書いて、それを自分で目にすると、
「なんだか、違和感があるな。そこまでひどいかな?」
と、スキーマで偏っている自分に気づくことも多いのです。
さて、違和感が出ようが出なかろうが、次のステップは左側、つまり『事実』欄です。
違和感があれば、
「本当にそんなにひどかったっけ?何かそういう事例があったかな?」
と、自問自答しながら思い出せばいいし、違和感もなく、
「そう。Aさんはミスをする人だ!」
と、強く思い込んでいるなら、
「その根拠なんていくらでもあるさ!」
と、いう気持ちで臨めばいいでしょう。
なお、左側に根拠となる事実を記載するときは、「いつも」とか「常に」といった、一般化した記載にならないように気をつけます。そのような一般化した根拠こそ、スキーマに陥っている証拠ですから。
スキーマの弊害に陥っている可能性をチェックしているわけですから、「いつも」ではなく、
「あの日、あのとき、あの場所で」
と、いうように、日付と場所くらいは、手帳でもなんでも引っ張り出して、具体的に記載してみましょう。
「日付までは覚えてないよ!」
と、いう方は、「あの件で」とか「あの人に」という、その事例が特定されるような固有名詞を入れてみます。
(この後、インタビュー技術のところでも出てきますが、この、日付、場所、固有名詞を特定するというのは、「いつも」というスキーマの弊害に陥らないための、歯止めになる大事なキーワードです。ぜひ、覚えておいてください。)
そうやって、日付、場所、固有名詞を具体化したら、あとは、ミスの内容をできるだけ具体的に記載してみましょう。
左側の事実欄と、右側の認識欄が両方書けたら、それをみくらべてみます。
「このとき、Aさんはこんなミスをした。それを私は1点と評価しようとしている。」
こんな風にチェックしたときに、
「いや、こうやって書いてみると、1点をつけるほどのミスじゃないよな。」
と、思ったら、点数を修正するか、または、
「もっとひどいミスなんてあったかな?」
と、他の事例を探してみればいいでしょう。
もし、そんな事実がなく、
「やっぱり、ほんのちょっとしたミスで、しかもそんなに回数もないのに1点というひどく低い点数をつけようとしていたな。」
と、そんな風に気付いたら、
「自分は、スキーマで偏った評価をしようとしていたんだな。」
と、考えて、評価を見直せばいいのです。
細かいインタビューの技術は置いておいて、まずはこのように、
『事実と認識をセットで捉える』
と、いうアプローチを意識的に取りいれるだけで、随分と評価の妥当性が高まります。
次回から、インタビューの際に気を付けたい、もう一つのワナである『ハイコンテクスト思考』について、ご紹介していくことになります。
ちょっと回りくどいな、と思われているかもしれませんが、気長にお付き合いください。