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コンピテンシー実用講座

(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ④スキーマの二つ目の弊害

さて、二つ目の弊害、「スキーマに合わせて無理やり解釈しようとする」というのは、どういうことでしょうか?

 

前回のAさんの事例で言えば、たとえば私のようなコンサルタントが、Aさんの上司に対して、

「今回は、みんながミスをしたのに、Aさんはミスをしませんでしたよね。Aさんって、実はそんなにミスをしていないのではないですか?」

と、事実関係をフィードバックしたとしましょう。

上司は「Aさんはミスをする人だ」というスキーマを持っていて、それと異なることを言われたわけです。

すると、なんとか自分のスキーマのほうが正しいという「理屈」を作り出そうとします。これがスキーマに合わせて無理やり解釈しようとするという弊害です。

 

「いや、今回は、最初にBとCがミスをして、それを見ていたからAはミスを避けられたんですよ。」

などと言い出します。なんとか「Aさんはミスをする人だ」というスキーマが正しいという理屈を作り出すわけです。しかし、そこで私が、

「BさんとCさんのミスを、Aさんが見ていた。それでAさんだけがミスを避けられたというのは、事実として確認できているのですか?」

と、質問すると、

「いや、はっきりとは確認できてはいないけど、多分そういうことです。」

などと、あやふやなことを、なぜか確信を持って言い切るのです。

これがスキーマの罠なのです。

 

Aさんはミスをする人だ。これが思考の前提となる枠組みになってしまう。それによって、その人の見方が偏り、固定化してしまう。

スキーマという思考の枠組みに合わせて、物事を理解しようとするあまり、事実関係を適正に認識、評価できなくなってしまう。これが無意識のワナになります。

 

前回と今回でスキーマの弊害についてご紹介しましたが、必ずしも「人を見る」というコンピテンシー分析の場面だけでなく、日常の様々な場面でこのスキーマの弊害を観察することができます。

 

よく研修で紹介するのは、「遅刻をした部下を、理由も聞かずにいきなりしかりつける上司」の例です。

朝礼も終わろうかという時に、部下があわてて出社してくる。それを見て、いきなり上司が、

「おい坂本! オマエ最近たるんでるぞ! この前も遅刻してきたじゃないか!」

と、理由も聞かずに怒鳴りつけます。

 

この段階で、この上司はスキーマの弊害に陥っている可能性があります。この上司のスキーマは、「遅刻=たるんでる」というものでしょう。スキーマに合わない他の可能性など、軽視したり、無視し続けているので、考えつかなくなっているのです。

だからいきなり、今回もたるんでるだけだ、寝坊に違いない、などと決めつける。理由も聞きません。

一つ目の弊害である、『スキーマに合うことしか重視しない』が強くなると、こうした思い込みにつながります。

 

そこで、部下が事実関係を提示します。

「すみません。でも、今日は電車が止まってしまって。」

すると、上司は、ハッと我に返った顔で、

「あ、そうか、ごめんごめん。理由も聞かずに怒ってしまったな。」

と、謝る。言われて初めて、その可能性に気が付くわけです。

一つ目の弊害は、こんな感じで日常のちょっとしたシーンで見かけることでしょう。

 

さて、ここで二つ目の弊害、『スキーマに合わせて解釈する』という弊害が生じていると、部下が事情を説明したあとの上司の反応が変わってきます。

部下が提示した事実関係を、スキーマである「遅刻=たるんでる」に合わせて解釈するので、あやまりません。むしろ、説教がヒートアップします。

 

「すみません。でも、今日は電車が止まってしまって。」

「いや、電車が止まったり遅れたりするのは日常茶飯事なわけで、それを想定して早めに家を出てこなかった、オマエはやっぱりたるんでる。」

 

みなさんも、多かれ少なかれ、身に覚えがあるシーンではないでしょうか?

こうなると、何を言っても、「オマエはやっぱりたるんでる」に結び付けられてしまいますから、無駄な抵抗。下手に逆らうより、右耳から左耳に聞き流そう。そんな風に、あきらめ切った顔で説教を聞くしかない。こんな情景は、日常生活のいろいろな場面で観察できるのではないでしょうか。

 

さて、長々とスキーマというメカニズムについてご紹介してきました。

最後に、ここまで読んでいただいた皆さんに気をつけていただきたいことがあります。

それは、ここまでの文章は、

「スキーマを持たないように気をつけてください。」

というメッセージを伝えたいわけでないという点です。

 

スキーマを持たないというのは、不可能なのです。スキーマは脳の認知プロセス、メカニズムですから、今この瞬間も、みなさんがこの文章を理解しようとすると、スキーマのデータベースに照らし合わせて理解しようとしていることでしょう。

ですから、スキーマを持たないように、と言いたいわけではないのです。

 

スキーマという言葉を紹介した狙いは、持たないように、ではなく、むしろ、

「常に自分はスキーマで物事を偏った、固定化した見方で認識している可能性が高い。」

という、自覚を促したいのです。

そして、採用や部下の評価、それ以外の時でも、大事な判断や決断を行うときに、

「いま、スキーマの罠にはまってはいけないぞ!」

と、立ち止まってほしいのです。つまり、ブレーキのためのキーワードとして、ぜひ心にとどめておいてください。

 

では、このスキーマという言葉で、自分にブレーキをかけることに成功したら、どうすればスキーマの弊害から逃れられるのか。

次回は、この『スキーマ対策』についてご紹介していきます。