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コンピテンシー実用講座

(6)コンピテンシーレベルに関わるよくある質問 ①レベル判定はマックスをとる

ここから何回かに分けて、コンピテンシーのレベル尺度について、よくいただく質問とその回答をご紹介していきます。
その一つ目は、以下のような質問です。
「ある時はレベル3、ある時はレベル2のように、発揮されているコンピテンシーのレベルにばらつきがある場合、その人のコンピテンシーレベルはどのように判定されるのか?」

 

コンピテンシーレベルは、日々の具体的な実績を根拠として判定されます。
「これまでにこの人はこんな行動をとり、それが今日、こんな結果につながったんだな。」
と、いうように、行動とその結果がセットになった時、
「この人のこの事実関係は、レベル3.0だな。」
と、判定するわけです。
すると、当然のことながら、上述の質問のように、事例によってばらつきが生じることがあり得ます。
「この間の事例はレベル3.0だった。」
「その前は、レベル4.0だった。」
「だけど、今回はレベル2.0だな。」
こんな風に、ばらつくイメージです。

 

このように、『日々の事実』を判定するわけですが、では、『その人』はいったいレベルいくつに相当するのか? ということに悩むわけです。
『事実のコンピテンシーレベル』を『人財のコンピテンシーレベル』の判定につなげたい。人財の採用や評価、登用など、あくまでコンピテンシーは人財の分析を目的として使われるわけですから、当然、人財のコンピテンシーレベル判定につなげる必要があります。

 

さて、このご質問に対する回答ですが、一言でこうだ、とお答えすることができません。バラツキにはいくつかのパターンがあるからです。順を追ってご紹介しましょう。
まず、原理原則を思い出す必要があります。事実ごとのコンピテンシーレベルがばらついた時、人財のコンピテンシーレベルを検討するときには、
「その人の成果の再現性を考える。」
と、いうのがコンピテンシーの原理原則です。
もともとコンピテンシーとは、
「こんな働き方をして、このような成果を出してきた人であれば、今後も同じように働いてくれれば、同じような成果を期待できるぞ。」
と、いうストーリーで、その人の成果の再現性を予測しようというアプローチです。その予測精度を高めようとして、事実関係を根拠にしようとしています。

 

複数の事実関係において、レベルがバラついている時も、基本的にはこの成果の再現性という観点に立って、
「今後、この人の成果の再現性はどの程度だろうか?」
と、いう観点からその人のコンピテンシーレベルを判定します。
ただし、この時、私たちが注意しなければいけないのは、
「平均値や最頻値など、数学的に処理してはいけない。」
と、いう点です。

 

たとえば、こんな例題を想定してみてください。
ある人について、3つの事実関係があります。それぞれについてコンピテンシーレベルを判定したところ、以下のようになりました。

 

レベル2.0
レベル3.0
レベル2.0

 

さて、この情報を根拠にして、この人の人財としてのコンピテンシーレベルを判定するとしたら、レベルいくつになるでしょうか?
算数的に、平均で考えたら、この人はレベル2.333…となります。また、最頻値をとるならレベル2.0となるでしょう。

だけど、このような判定をしてはいけないのです。理由は二つあります。

 

一つ目の理由は、
「私たちは日常の大半を、レベル2.5以下で過ごしているから。」
と、いうものです。
レベル2.0というのは、平常時、つまり、
「いつものように取り組んでいれば成果が出る」
と、いうときに、いつも通りに取り組んで成果を出すというレベルです。
レベル2.5は、経験済みの問題や課題に、経験を適用しながら対応するレベル。マニュアルなどない、定型的な業務でない場合は、まさにレベル2.5が発揮されるのが平常時、日常といっても良いでしょう。
レベル3.0というのは、平常ではない、なんらかの波風が立った時に、初めて必要となるレベルです。問題が起きた、またはいつもよりも高い成果を出そう、という時。
ですが、そんな波風は、日常業務の中ではなかなか発生しません。それをやろうとすると、むしろ効率が悪くて、迷惑になることもあります。

たとえば、
「よし、この経費精算で、独自の工夫を加えて、もっとたくさん経費を使ってやろう。」
などと考えて実行したら、経理の人に叱られてしまうでしょう(場合によっては懲戒処分されてしまうかもしれません)。
経費処理や契約の履行など、手続き通りにきちんと進めるときは、むしろレベル2.0で良いのです。

 

このように考えると、日常業務の大半は、そもそもレベル2.0や2.5で良いし、それで済んでいるはずです。
ですから、複数の事実関係を束ねて、人財のレベル判定を行うときは、基本は平均値でも最頻値でもなく、
「マックスをとる」
と、いうのが原則になります。

平均や最頻値をとってしまえば、ほぼ全員がレベル2.0-2.5になります。それでは人財分析をしている意味がありません。

日々の取り組みの中で、平常時には2.0-2.5でしっかり実務をこなし、その中でなんらかの波風が立った、レベル3.0の発揮機会が訪れた時に、しっかりとレベル3.0で対応できる。ならば、その人は、

「レベル3.0の成果の再現性がある。」

と、考えて良いのです。

 

ただし、この原則が通用しないケースがあります。それが、平均値や最頻値をとってはいけない二つ目の理由になります。
長くなりましたので、この二つ目の理由について、次回ご紹介したいと思います。