2019.01.15
(5)コンピテンシー分析の基礎 ②分析根拠となる情報
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
今回は、コンピテンシー分析の根拠となる『行動事実』について、ご紹介します。
コンピテンシーの視点から人材分析を行う時には、必ず二つのステップを踏みます。
第一ステップは情報収集。コンピテンシーは客観的、論理的に人材の強み弱みを分析しようというアプローチですから、当然のことながら根拠となる情報が必要です。この、コンピテンシー分析の根拠情報のことを、一般的には『行動事実』と呼びます。
二つ目のステップは、評価判定です。この評価判定というステップにも、実は細かく分ければ「レベルの判定」と「種類の判定」の二つがあるのですが、そのあたりは次回以降にしっかりお伝えしていこうと思います。
今回は、一つ目のステップ、分析の根拠となる『行動事実』についてご紹介していきましょう。
そうは言っても、ここまででかなりの文字数を費やしてコンピテンシーについてご紹介してきたので、大部分はここまでのおさらい、まとめという内容になります。
まず、コンピテンシー分析の根拠となる情報は、必ず、行動情報だけでなく、その効果、結果までを押さえる必要があります。
「こんな行動をとり、それがこんな結果、効果につながった。」
これが、コンピテンシー分析の根拠となる、情報の基本形です。
もちろん、あくまで基本形ですから、これだけで分析ができるわけではありません。これに枝葉をつけていく必要があります。
必要な枝葉について、二つに整理してお伝えしましょう。
枝葉の一つ目は、『行動』の内容について。
『行動と結果』と簡単に言ってしまうと、表面的な事象だけを押さえがちです。特に、コンピテンシーについて、書籍やウェブサイトで調べると、上述の通り『行動事実』という言葉が頻繁に出てきます。この言葉だけを見て、
「あれをやった、これをやった」
と、動作情報ばかりに目が行ってしまうと、コンピテンシーの捉え方を間違えてしまいます。
前回、行動発生過程というモデルを紹介しましたが、行動とは、状況認識→意図形成→方法思考というステップを脳内で行い、最後の最後で体現されるものです。ですから、『行動事実』という言葉には、これらのすべてが含まれていなければなりません。
つまり、コンピテンシー分析の根拠となる『行動事実』という情報の中には、
「その時の状況を、このように認識して、」
「その状況をこのように変えたいという意図を持ち、」
「このような情報に基づいて、このように考えて、このような方法がベストだと判断し、」
「それをこのような工夫を加えながら、こんなやり方で実行した。」
と、いうように、行動発生過程の上流部分からしっかりと確認する必要があるのです。
これが、『行動』にかかわる枝葉です。
枝葉の二つ目は、『結果』の内容について。
コンピテンシー分析で必要な『結果』とは、
「その人の、その行動によって、状況がどのように変化したか。」
です。
私たちは、『結果』というと、行動後(After)の状態ばかりに着目しがちです。ですが、その人の行動のインパクト、影響力を正確に把握するためには、その人が行動する前(Before)の状態を知っておかなければなりません。
たとえば、ある人が行動した結果、
「残業時間をゼロ時間にすることができた。」
と、いう情報を得ることができたとします。これだけで、
「すばらしい!」
と、認識してはいけません。
「あなたが取り組む前は、どのくらいの残業時間だったのですか?」
と、いうかたちで、行動前の情報を獲得する必要があります。
その結果、たとえば、
「もともとは、私も含めてメンバー4人全員が、毎月80時間から90時間の残業をしていて、あきらかに法違反の状態でした。」
と、いう答えが返ってくることもあれば、
「もともとは、他のメンバーは月に10時間前後、私は15時間くらいでした。」
と、いう答えが返ってくることもあるでしょう。
結果や成果の大きさというのは、行動後の状態ではなく、
「行動の前(Before)と後(After)のギャップ」
なのです。
コンピテンシーは、成果の再現性を予測するアプローチですから、成果の大きさを捉え間違えたら、そもそも評価を間違えてしまいます。
このように、枝葉を追加すると、コンピテンシー分析に必要な情報とは、簡単に言えば、
「行動発生過程のすべて」
と、いうことになります。具体的には、以下のようにまとめられます。
1)行動前、どのような状況だったか。(Beforeの状態)
2)その状況を、あなたはどのように認識したのか。(状況認識)
3)それで、その状況に対して、どのような意図を持ったのか。(意図形成)
4)その意図を実現する方法は、どのような根拠に基づき、どのように考えて、どんな結論に至ったのか。(方法思考)
5)その実行に当たっては、どのようなやり方で、どのような工夫をしたのか。(方法実行)
6)その結果、どのような状況になったのか。(Afterの状態)
コンピテンシーを採用や評価で使用する場合、相手にこのようなフォーマットを渡して、これに沿って答えてもらうという方法もありますし、このようなフレームワークを知らない相手から、インタビューという形で聞き出すというアプローチもあります。そのあたりは、今後、『コンピテンシーの運用』のところで、様々な用途、バリエーションに応じた情報収集方法をご紹介していきたいと思います。
まずは、コンピテンシーの世界でよく使われる『行動事実』という言葉の中には、これだけの情報が含まれるのだ、というところをしっかりとご理解ください。