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コンピテンシー実用講座

(2)コンピテンシーとは ①分析の視点

コンピテンシーの和訳は「力(ちから)」です。その「力(ちから)」を評価するときに、従来の能力評価とはちがう見方をしよう。それが、コンピテンシー。

わかりやすくするために、コンピテンシー以前の従来の能力の見方と対比しながら説明しましょう。

違いは大きく二つあります。今回は、その一つ目、分析の視点からご紹介します。

 

従来の能力は、『保有』という視点で評価されていました。

「その人が、どのような能力を、どのくらい保有しているか?」

と、いう視点です。

 

たとえば、『論理的思考力』という能力を評価するとしましょう。従来の能力評価では、これをどのくらい保有しているか、どのくらいの高さかを見ようとします。

保有能力を見ようとするときの、基本的な評価方法は、『テスト』です。

だから、企業の採用面接でも、高校や大学の入学試験でも、論理的思考力を評価しようとするために、

「日本にゴキブリは何匹いるか?」

というような、様々なケーススタディや設問を用意します。

 

ほかに、保有能力の評価のしかたとしてイメージしやすいのは、『英語力』でしょう。

その人がどのくらい英語力を保有しているか。それをできるだけ正確に把握するために、英検や、TOEIC、TOEFLなどのテストが開発されています。これらのテストで高い点数を取れば、

「この人は、高い英語力を保有している。」

と、いう証明になるわけです。

 

これに対して、コンピテンシーは、保有ではなく、

「必要な場面において、どれだけ発揮(活用)されているか?」

「それによって、どれだけの成果につながっているか?」

と、いう視点から能力を評価します。言い換えれば、

「どれだけ、仕事で役立っているか?」

という見かたをするわけです。

 

たとえば、英語力で言えば、

「TOEICで何点とれるか?」

ではなく、

「仕事でどれだけ使えていて、どのくらいの成果に結びついているか?」

という視点から、評価します。

 

「なんだ、理屈っぽいけど、大して変わらないじゃないか。」

と、感じる方も多いと思いますが、意外とこの違いは大きいものです。

 

たとえば英語力。以前、私が勤めていた会社での同僚に、TOEICで860点をとった男性がいました。仮にこの人をAさんとしましょう。

この人は、財閥系大手商社の出身で、見た目もとてもスマートでいかにも商社マン、という感じの方です。私たちが勤めていたのは外資系のコンサルティング会社ですから、お客さまの経営者には外国人も多く、そうしたクライアント先での活躍が期待されていました。

ちなみに、私は当時も今も500点前後。それなりに勉強は続けているのですが、まったくと言ってよいほど成長しません。私も若いころ、商社に勤めていましたが、いつも一つ下の後輩から、

「坂本さんの英語はひでぇな。」

と、馬鹿にされていたものでした。

保有能力という視点から、私とAさんの英語力を比較すれば、どちらが高く評価されるかと言えば、当然、Aさんでしょう。比べるまでもありません。

 

ところが、コンピテンシーの視点、つまり、

「仕事で発揮され、成果につながっているかどうか?」

「仕事で役に立っているかどうか?」

と、いう視点で評価すると、まったく違う評価でした。

なぜかというと、Aさん、英語力は高いのですが、情報をきちんと整理したり、論理的にわかりやすいストーリーに落とし込むといった、いわゆる、『プレゼンテーション力』が、壊滅的に弱かったのです。

資料を作らせても支離滅裂で、そのままお客さまの前に出すわけにいかない。結局、周りが支援しながら完成させるしかありませんでした。

せっかくの英語力も、他の能力が伴わないために、まともに役に立たない。この方の英語力にかかわるコンピテンシー評価は低いものとならざるを得ませんでした。

 

私は逆に、英語力が不足しているのを、その他の力で補ってしまっている。自分のコンピテンシーを分析すると、そういう結論になります。

本番に自信がありませんから、事前の資料作りで辞書をひきながらできるだけわかりやすくまとめ、その過程で、最低限必要な単語を覚える。本番では、極めて少ない言葉で、短い時間のプレゼンテーションで済まそうとします。

質疑応答では、何度も、

「SORRY?」

を、繰り返しますから、相手がゆっくり、わかりやすい英語で話してくれる。もちろん、その質問に答えるときも、最低限の短いワード数でこたえます。

意外と、これで仕事ができてしまうものです。逆に、できてしまうから、英語を身に着けようという切迫感に欠け、英語力が伸びないのかもしれません。

商社時代も、後輩に馬鹿にされながらも2,3隻の船を売り、海外出張もそれなりにこなして、そこそこの成果を上げていました。

 

こう考えると、Aさんと私が英語力の評価で競う場合、保有能力ならAさん、コンピテンシーなら私。こんな逆転現象が起きるのです。

 

保有している英語力がどんなに高くても、それだけで役立つとは限りません。

仕事で役立つためには、論理的思考力や、プレゼンテーション力、または人間関係構築力など、様々な能力との組み合わせで発揮され、成果につながるのです。

 

また、一つや二つ、保有能力が低いものがあったとしても、そのほかの高い能力で補完することができるということでもあります。

たとえば、論理的思考がすごく苦手な人でも、人を巻き込む力が強く、他人の論理的思考力をうまく活用しながら成果を上げられるのであれば、結果は同じ。そういう仕事のしかただってあるのです。

 

「持っているかどうかではなく、どれだけ発揮し、成果につながっているか。」

「持っているかどうかではなく、どれだけ仕事で役に立っているか。」

このように、コンピテンシーとは、その人の『力(ちから)』を評価するときに、その見方を変えよう。そういう概念です。

 

同時に、評価の見方を変えるということは、

「どんな人に育てていけばいいか?」

と、いう育成の方向性や育て方、または、

「自分が今後、どのような人材になっていけばよいのか?」

といった、自己開発の方向性、はたまた、

「自分の強みを生かせるのは、どのような仕事か?」

といった、キャリアプランニングや採用、活用にいたるまで、考え方やアプローチが変わっていくということでもあります。

 

まずは、従来の能力評価とコンピテンシー評価の違いを、評価の視点、分析の視点という観点から紹介しました。

二つ目の違いは、『評価尺度の違い』です。それを次回、ご紹介したいと思います。