2018.10.10
(1)コンピテンシーの和訳
コンピテンシーをインターネットで検索すると、最もよく出てくるのが、
「高業績者に共通して観察される行動特性」
といった説明です。
この説明の中で、コンピテンシーをわかりにくくさせたり、誤解させたりする原因となっているのが、
「高業績者」
「行動特性」
という言葉でしょう。
コンピテンシーを、実用を前提として理解しようとするときは、まず、これらの言葉を忘れてしまったほうがいいと思います。
決してこれらの説明が悪いとか、間違っているという意味ではありません。
実用前提でコンピテンシーという概念を整理していくと、高業績者とか行動特性という言葉は、応用部分で出てくる概念です。だから、『コンピテンシーとは』というそもそも論の部分では、いったん取り外していただき、あとで再度付け加えていただいたほうが、すっきりする。そういう意味だと思ってください。
では、コンピテンシーをどんな言葉で定義すべきか。もう少し単純に言うと、コンピテンシーという外来語には、どんな和訳を充てるべきでしょうか。
この質問をいただくと、私は最もシンプルな、
「力(ちから)」
と、いう言葉でお答えしています。
「能力」という和訳でももちろん構いません。ですが、能力という和訳を充てると、少し範囲を限定してイメージしてしまう人が多いようです。
たとえば、能力というとまず思いつきやすいのが、知識。英語力や国語力のような語学、それから商品知識や法律知識など。記憶力がものをいう能力。
それから、スキル。論理的思考力、プレゼンテーション、コミュニケーション、マネジメント、チームワークなどなど。訓練を通じて身に着け、運用を主体とする能力。
だいたい『能力』と言われてイメージするのは、この二つではないでしょうか?
もし、これ以外に思いつくとしたら、積極性、協調性など、その人の仕事に対する取り組み姿勢が挙げられるかもしれません。
たいていの場合、昔から日本の企業で導入されている『能力評価制度』で評価されたアイテムが、そのままイメージされるのだと思います。
コンピテンシーでも、もちろんこうした『能力』も評価対象としますが、もう少し幅を広げて捉えたほうがよさそうです。
たとえば、採用などでは、多くの人事の方が、
『ストレス耐性』
というのを、求めています。これも力の一つ。あとは仕事によっては、
『さわやかな身だしなみ』
『自然な笑顔』
なんていうのが、大切な力になることもあります。そういえば、研修講師をしていると、
『声(の質や量)』
というのも、意外と侮れない重要な力だったりします。
このように、私たちが仕事をするときに武器となる、あらゆる『力(ちから)』がコンピテンシーなのです。
さて、さきほど、『力(ちから)』の例を挙げながら、さりげなく使った表現があります。
「仕事によっては」
「仕事をするときに」
「武器となる」
という言葉。実は、これらがコンピテンシーを理解する上ではとても大切な要素となります。
実はここに、コンピテンシーの和訳として『能力』をお勧めしない理由の二つ目が隠されているのです。
私たちが『能力』という言葉を使うとき、自動的にと言ってもよいくらい、暗黙の了解が付いてきます。それは、
「高い能力を有していれば、どんな時でも発揮される」
「能力は、単体で価値を持つ」
と、いうものです。
たとえば、『論理的思考力』は、多くの企業で重視されている力です。この、論理的思考力を、その人がどのくらい有しているかを評価するために、採用や評価に携わる人事担当者は日夜、頭を悩ませています。最近では、理系=論理的という考え方で、理系の学生を優遇するという会社も出てきています。
その是非はともかくとして、ある人、たとえば坂本さんという人が、非常に高い論理的思考力を有していることが確認できたとしましょう。採用面接でどんな質問をしても、非常に論理的に回答をする。すばらしい!と。
コンピテンシーを『能力』と和訳したときに、多くの人が、こうやって論理的思考力が高いという坂本さんは、
「常時、論理的に仕事をするはずだ。」
と考え、期待します。また、それ故に、論理的思考力を評価するときも、
「論理的思考力があるか、ないか。」
と、いうように、論理的思考力を単体で評価しようとします。
だから、コンピテンシーを人事評価の仕組みとして実用するときにも、コンピテンシーの一項目として、
『論理的思考力』
と、いう項目を設け、その項目に単体で点数をつけさせようとします。言い換えれば、論理的思考力という能力について、他の能力から切り離し、単体で価値を持つと認識しているのです。だから、論理的思考力という一要素に点数をつけようとします。
コンピテンシーをこのように捉えてしまうと、なかなかうまく実用できません。だから、コンピテンシーの和訳に『能力』という言葉をお勧めしないのです。
では、コンピテンシーとは、どのような考え方なのか?
次回は、『コンピテンシーとは』というそもそもの部分について、話を進めていきたいと思います。