2018.06.05
新規事業がうまくいかない理由(その3)
新規事業がうまく立ち上がらない理由の最後は「いきなり大きく成功しようとすること」である。
大きな企業で、資金が潤沢にある会社では、事業を立ち上げようとするときに、最初から巨額の資金を投入する。投入資金が大きければ大きいほど、失敗できなくなる。最初から成功するために、事業の完成度を高めようとする。
しかし、その事業の新規性が高ければ高いほど、最初から完璧な滑り出しなど期待できない。誰もやったことがない事業であれば、当然のことながら「やってみなければわからないこと」がたくさんある。リスクをとるしかないのである。
そうすると、前回書いた「事業審査」の欠点がここでも出てくる。つまり、事業審査をする側としては、「これだけの資金を投入するからには、失敗など許されない」という観点で審査をするから、不透明な点やリスクが多ければ、その担保を求める。リスクばかりが重視されていくようになる。新規事業の事業性は、本来はリスクよりもリターン、つまり将来的な収益力が重視されるべきだ。なのに、なまじ巨額の資金があり、それを投入するものだから、リターンよりもリスクにばかり目がいってしまうのである。
この段階で、かなり失敗の確率が高くなる。理由は2つ。1つはリスクを軽減するために、リターンを捨てるような施策を盛り込まざるを得なくなるからだ。たとえば、自社の持分比率を減らして、ノウハウを持った他社を巻き込むとか。そんなことをすれば、イニシアティブを奪われ、権益を失ってしまうとわかっていても、そういうコメントがつく。2つ目は気軽にやめられなくなる。巨額の出資が決まっていると、スケジュールが遅れたり、うまく初期段階で立ち上がらなくなると「後のフェースの資金」を使ってしまう。使ってしまうと、その事業をやめた段階で損失となるから、やめられなくなる。または、軌道修正がしにくくなる。
成功している新規事業を見てみると、結果的に大きな事業となったものでも、事業の開始当初はスモールスケールであるケースが多い。グーグルも、フェイスブックも。本田やソニー、ユニクロやソフトバンクも。理由は簡単。お金がそのくらいしかないからだ。どんなに有望なビジネスだって、新規性が高ければ上記のようにリスクがあるから、普通は簡単にお金を出してくれない。調達できた範囲で事業を開始して、それで実績を積み上げて見せることで、「もっと出してくれ」という交渉を繰り返していく。その過程では、様々な失敗や軌道修正もあるが、それはあくまで「今回はこれで失敗したが、その原因はこうだとわかっていて、こういう対策を打つから次はうまくいく。だから追加で資金を出してくれ」というPDCAの一環だ。逆に言えば、そういうPDCAを伴わず、単にうまくいかない事業があれば、容赦なく退場を勧告される。傷が小さいうちで済む。すっぱり諦めて、あらたなチャレンジに取り組めばいい。それを繰り返していく中で、成功が生まれてくる。
小さいところからPDCAを繰り返して、スケールアップしてきた会社は、その過程で他者が持ち得ないノウハウを獲得していく。新しいことを立ち上げていく、ビジネスを育てていくノウハウ。既存のビジネスモデルが流行っているからと真似をして、最初から巨額の資金を投入していくような企業にはそれがない。(問題は、そのビジネスを育てていくノウハウが、創業世代から次世代に引き継がれないことか。大企業になってから入社した社員に、創業時からのビジネスを育てていくノウハウをどう継承していくかが、大きくなってしまった会社の最大の課題とも言えよう。)
新規性が高ければ高いほど、スモールスケールでスピーディーに立ち上げる。リスクはあるものとして、それを一定期間で克服できなければ、どんどんビジネスのあり方を変えていく。短期間でPDCAを高回転で回して一気に実績を作り、ボリュームを出していく。それが新規事業開発の成功イメージだ。
「うちのような大きい会社が、こんな小さなビジネスに手を出しても意味がない」というセリフを、大きな企業の社員や役員から発せられるケースがよくある。最初の大きさにこだわると、新規事業はうまくいかない。新規事業はやってみなければわからないのだ。小さなチャレンジをたくさん積み上げて、それを大きくしていく。たくさんお金があるなら、そういう使い方をしたほうがいい。これまで拝見してきた新規事業のサクセスストーリーを振り返ると、そう思うのである。