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今日の一言

違うと低いはちがう; 

 人材の育成や活用に初めて取り組むときに、陥りやすい罠がある。それが『違うと低いを混同する』という事象である。どういうことか。
 たとえば、「あの人は戦略的ではないから、管理職には向いていない」という発言があったとする。この時、この発言の主の前提条件は「管理職は戦略的でなければつとまらない」という認識である。では、その根拠は?というと、(1)自分が戦略的である(またはそう思い込んでいる)、(2)自分が認めている人が戦略的である、(3)誰かがそう言っていた(または、何かにそう書いてあった)のどれかであることが圧倒的に多い。今回ご紹介するのは、(1)のケース。発生頻度という意味では非常に多いし、根深い問題につながりやすい。
 報告や連絡を受けているときに、自分と同じような思考プロセス、自分と同じような仕事の進め方をしている人の話は、理解しやすい。その先も予測しやすいので、安心できる。それで「この人は仕事ができる!」と、評価し、重用する。逆に言えば、自分と違う思考プロセスや仕事の進め方をする人を見ると、理解しにくいし、その先が予測しにくい。そうすると不安になる。それで、「この人はレベルが低い」と決めつけてしまう。これが、「違うと低いを混同する」という現象である。この罠に陥ると、その人は十中八九、相手の仕事の仕方に介入し始める。自分が計画をしっかり立てるタイプで、相手が走りながら考えるタイプだと、「まずはしっかり計画を立てなさい」と介入する。逆に、自分が走りながら考えるタイプで、相手がしっかり計画を立てるタイプだと、「ぐずぐず考えてないで、早く動け」と。
 だけど、そもそも、走りながら考える人は、自分の得意不得意があってそういう仕事の仕方になっているのである。計画的に仕事を進める人もしかり。だから、それを否定して矯正しようとしてもうまくいかない。強みをつぶし、弱みを育てきれないまま、「あいつは使えない」と身勝手に烙印を押す結果になる。
 仕事のしかたが「違う」のか、それとも「低い」のかを見極めるには、レベルの高低を見極める基準や尺度をしっかりと持つことだ。ビジネスの世界では「どのくらいの成果につながるかどうか」が仕事の仕方を評価する上での共通の基準である。だから、計画的に仕事をする人と、走りながら考える人がいて、その二人が全く同じ成果を生み出すとしたら、それは「同じ」となる。誰かを育成、活用するときに、まずは適切にその人の仕事の仕方がどういうタイプで、どのくらいの成果につながるのかを見極める必要がある。そのうえで、その人の仕事の仕方の『原型』を活かしながら、どこをどう伸ばせば「より高い成果を生み出せるようになるか」を考えて、育成のアプローチを決めると、成長の立ち上がりが全然違う。合わない型を押し付けず、相手の原型を基にして、その人に合った仕事の仕方をデザインしてあげられるかどうか。人材の育成や活用に取り組むには、評価眼とテーラーメードのデザイン力が不可欠なのである。