2017.01.10
不安定な状態に耐える;
私たちの脳みそは、あいまいな状態を維持するのが苦手だという。できるだけ速やかに、白か黒かをはっきりさせたい。グレーなままで結論を出さずに維持し続けることは、それだけで脳みそにとってストレスになる。だから、どんなことでもサクッと結論を出そうとするし、いいか悪いかという両極端な二元論での議論にも陥りやすい。どちらでもない、どちらでもある、わからない、などという不安定な状態は脳みそのお気に召さないようだ。
コンサルティング業界に入って最初にぶつかった壁が、この「不安定な状態」の壁だった。インタビューをして、情報収集をしたら、とっとと分析をして結論を出してしまいたい。そうすると、先輩コンサルタントが「まだ早い」と言う。もっといろんな可能性や、まだ見えていない問題があるかもしれない。軽々に結論を出すな、と。正直言って、最初のころはこういう姿勢が鬱陶しく感じたものだ。
それから20年近くたって、ようやくこの「不安定な状態に耐える」ことの重要性が理解できてきたように思う。と、いうのも、一緒に働いているコンサルタントやお客様が「早く結論を出そう」とするのを、止める側にまわっている自分にふと気が付いたからである。十分な情報や根拠がないのに、いろいろなことを仮説で決めつけて先へ進もうとするのを見て、結局あとで「全部やり直し」になることが予測できてしまうのである。だから、焦らずに、もう少しじっと腰を据えて「まだわからない」という状態のままでいるべきだ、と説得している。自分の若いころを思い出すにつけ、「きっと、鬱陶しいと思われているんだろうなぁ」と、忸怩たる思いもあるが、こればかりは仕方がない。だけど、なかなか伝わらないので、焦ったり自己嫌悪に陥ることもある。
結論も出さず、仮説も持たず、「まだなにもわからない」「決めつけてはいけない」「ほかに考えるべきことは何か」「状況はどう変わっていくのか」というような、曖昧で不透明な状態に、一カ月でも二カ月でも耐えることができなければ、中長期的な問題解決やキャリア形成は難しい。例えばあなたが「自分の専門はこの分野で、今後もこれで食っていく!」と、決めつけているとしたら、それは脳みその欲望にやられてしまっていると思った方がいい。「それは、たまたま出来上がってきた専門分野であって、これが自分のすべてではない。まだ自分は成長過程で、これからもいろいろな仕事をしていく中で、変わっていくはずだ」と、自分を不確定な状態だと言い聞かせないと、どんどんキャリアが狭まっていく。
不安定な状態に耐えるのは、それ自体がストレスだ。だが、それができる人だけが生き残っていけると言っても過言ではない。世界がこれだけ不安定な状態なのだから。