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今日の一言

手段の指示に気を付けろ;

 業務上の指示命令には、大別して二通りある。「手段」の指示と「成果・目的」の指示だ。たとえば、「両手でしっかりとつかんで持て」という指示。これは手段の指示。これを成果・目的の指示に直すと「落とさないように持て」となる。手段というのは目的を達成し、成果を生み出すための方法論だ。当然のことながら大事なのは成果・目的のはずである。
 ややこしい話をする。一つの成果・目的を達成する「手段」は幾通りもある。だから、まず「成果・目的」を明確にして、それから複数の手段を検討し、組み合わせ、もっとも成果・目的を達成できる確率の高い「手段」を選び取っていくのが、妥当な思考プロセスということになる。大抵の問題解決や経営の教科書にもそう書いてあるはずだ。
 ところが最近、どうも逆のケースによく出会う。たった一つの「手段」が先に決められて、そこに多様な「成果・目的」が追加されていく。それによって、「手段」と「成果・目的」の因果関係がぐちゃぐちゃになってしまう。その結果、どうなるかというと、「成果・目的」よりも、とにかく「手段」を実現して形にしてしまうことが優先されるのである。決してその手段が取り下げられない。本末転倒という結果になる。
 この現象が最近とみに気になるのが「複線化人事」である。専門管理職を設定したい。地域限定社員の制度を作りたい。複数の職種コースに分けたい・・・私のお客様の多くが、なぜか同じようなことで悩まされている。しかも大抵がトップダウンの指示だ。これらはすべて「手段の指示」である。その成果や目的を確認すると、「多様性」や「女性の活性化」というキーワードが出てくる。それだけでも「?」と感じるのだが、さらに人件費を抑制したいとか、採用をしやすくしたいとか、中高年の社員のモチベーションを高めたいとか・・・いろいろ出てくる。この段階で、ゼロからもう一度考え直したほうがいい。
 おそらく、最初に指示したトップは、どれか一つの目的で「手段」を指示したのだろう。ところが、検討の途中で様々なステークホルダーが自分の事情に合わせた「目的」を追加してくるのである。立場が違えば、目指すものが違うから、目的同士がトレードオフの関係にもなる。そういうまったく見当違いの成果・目的が呉越同舟といった形で一つの「手段」の上に乗っかってくるのだから、その手段が機能するわけがない。どちらかといえば、問題や弊害の原因となってしまうことの方が多いのだ。
 こういう時には、ホワイトボードでも模造紙でもいいので、左側に「目的」「成果」を列挙して書き出し、右側に「手段」を書いて、関係者全員で俯瞰したほうがいい。で、捨てるべき目的を捨てるか、もしくはすべての目的を達成するために、手段を一から考え直す。そうやって、「手段」と「成果・目的」の因果関係を繰り返し確認しないと、私たちは手段におぼれていくのである。
 特に、トップが特定の手段を指示するのは危険だ。トップは成果・目的を示し、方法は部下が考える。その方が健全だろう。もしどうしても手段を指示するのであれば、念入りに成果・目的をセットで示し、余計な成果・目的を後付けしないように管理すべきだ。
 「手段の指示に気を付けろ。」
 指示をする側、される側、両方が肝に銘じておいたほうがいい。