2016.08.09
食わずグルメ;
仕事でもプライベートでもそうだが、最近はどうも「食わずグルメ」が増えているような気がする。おそらくはネットや口コミなどで事前に情報を入手できる現在の環境にその一因があるのではないかと思う。たとえば誰かと食事の約束をする。店を手配しようと思えば、食べログで高得点の店を探す。突然ランチをというときでも、スマホに「ランチ」と話かければ、グーグルマップで評価の高いお店がパパッと出てくる。友人の、「旅行に行こうと思ってサイトで調べているうちに、行った気になれたので、行くのをやめた」という発言を聞くと、事ここに極まれりという感すら抱く。食べたこともないお店の評価を、あたかも専門家のように語る人を、私は勝手に「食わずグルメ」と呼んでいる。そういう人に、様々な分野、場面で出会う。
プライベートならそれでいいだろう。バーチャルリアリティなどが発達すると、ますます疑似体験で物事をすます人が多くなっていくのかもしれない。それはそれで幸せだ。しかし、仕事でそれをやられると、成長も進化もなくなっていく。
仕事は基本的には「やってみなければわからない」ものだ。やる前からわかっている仕事というのは、企業や組織の競争力を左右しない。言ってみれば「価値の低い仕事」だ。人より高い成果を出そうと思えば、今までとは違う方法を試してみる必要がある。それがどのくらい効果が出るかは、仮説や予測は立つが、実際のところやってみなければわからない。やってみると、事前には想定できなかったメリットや効果が得られることも多い(むろん、その逆も多い)。
ところが最近は、ネットで調べると色々な情報が手に入るので、やる前から「やっても意味がない」とか「大した効果はない」と言って、やる前からわかった気になってしまう人をよく見かける。また、効率重視で回り道を恐れるあまり、「やるまえから確実であるとお墨付きをもらえる」道しか選ばない組織や人材も多い。いちばん怖いのは、ネットで得た情報を鵜呑みにして、しかもまるで自分が実際に体験した事実であるかのように語る人である。ネット上にはデマが多い。ものすごく専門的なページを立ち上げて、嘘としか言えないような暴論を、既定の事実であるかのように語る人もいる。
思うに、これだけ情報環境が充実すると、むしろ「自身の体験」を多く持ち合わせていることの価値が高まってくるのではないか。みんながバーチャルに「知った気になっている」。その中で、「自分は実際にやってみたことがある」ということを語れることの価値は、むしろ以前よりも高い。数多くの名店や料理について語ることのできるグルメより、数少ないが、行ったことのある店、食べたことのある料理について、一から十まで実体験として語ることができることの優位性。
自分が手掛けた仕事、リアルな経験を丁寧に言語化・知識化することがとても重要になってくる。
同時に、やる前からがたがた言わず、あえてやってみることで実績を積み上げていくことも大切だ。
結局は、ビジネスでは「リアル」しか通用しないし、「リアル」な人が勝つのである。