2016.03.15
成長スピード:
ある企業の若手研修で、非常にピカピカな若手社員のみなさんに出会った。2年目である。日々の業務における問題意識や課題認識のレベルが高い。その課題に対して講じる打ち手の多様性が広い。その上で、他者がどのような課題を持ち、それに対してどのように対応しているのか、興味を持って聞き、貪欲に吸収しようとする。例えば、顧客の値引き要求を想定して自分たちの作業工数を客観的に測定し、労働原価を算出する。その結果を見て、業務をもう少し簡素化できることに気づき、改善を提案する。結果的にそれで単価を下げられたら、顧客に言われる前にこちらから値引きを提案して、確固たる信頼を勝ち取る。そうした努力をきちんと成果に結びつけていくところまで振り返り、分析までできている。そもそも、自分の業務の成果を具体的に言語化し、確認できている点が普通の若手ではない。無論、本人たちは自分たちが若手としては稀有なレベルで仕事をしているという自覚はない。他社の若手と比較する機会などないからだ。人事の方に聞くと、例年このレベルなのだという。
人事のコンサルタントとしては、非常に興味深い。なので、研修講師という役割は果たしつつも、彼らがどのような2年間を過ごしてきたのかをそれとなく確認してみた。同時に人事の方にも、どうやって育てているのかを聞いた。
よくわかったのは、新入社員時代からキチンと仕事を与えていること、それから上司が彼らを野放しにしていないこと。このふたつである。通常の企業では、「こんなレベルの仕事は新入社員には無理だ」と考えそうなことを、どんどんやらせている。仕事の与え方という意味で、新入社員に対する限界値の認識が非常に高い。仕事の与え方はある意味で厳しいが、与えた上司はそこからキチンと責任を果たしている。自分で計画を立てさせ、方法を考えさせ、最低限のことさえ押さえていたら余計な手直しをせずにやらせてみて、うまくいかないところをどうしたら良いかを一緒に考え……作業内容を指示するのではなく、仕事の進め方を教えているのである。初めてやる仕事でも、自分で調べたり考えたりして、模索していく方法を教える。
多くの場合、企業や職場ごとに「新入社員ならこのくらい、中堅社員になったらこのくらい」というように年次に合わせた仕事のものさしのようなものが決まっている。このものさしが新入社員の可能性を著しく抑制してしまっているのではないか。それは同時に、管理職の能力をも減退させている可能性がある。
この会社の場合、採用にかける負荷と、その目利きの妥当性が高いことが、優秀な人材の選抜に寄与していることももちろんある。だが、決して放っておいてもいい人材が集まるような人気企業ではないし、いい人材がとれていてもその可能性を潰してしまう企業もたくさんある。
欧米企業並みにとは言わないが、もっと即戦力として扱っていくべきなのだろう。新入社員を子供扱いしすぎることが、社員の成長スピードを鈍化させているのかもしれない。