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今日の一言

新規事業がうまくいかない理由(その2);

 業務分析やコンピテンシーアセスメントを通じて見えてくる、新規事業がうまくいかない理由の二つ目は「資金が潤沢にある」ことだ。これを言うと、「資金が潤沢にあったら、失敗するわけないだろう」と反論されることも多い。あくまで私が実績ベースで話を聞いてきた『実例』においては、という限定条件付きである。逆のケースとして、うまくいった新規事業の開発プロセスを確認していくと「資金がない(または足りない)」というケースも結構よくある。この「資金量」と新規事業開発の「成功」の関係が今回のテーマだ。
 資金が潤沢にあるとなぜ、新規事業開発が失敗するのか。逆に、資金が不足しているとなぜ、新規事業開発が成功するのか。整理すると二つにまとめられる。一つ目は事業審査、フィージビリティスタディの妥当性。二つ目はPDCAの実効性である。
 自己資金が潤沢にあり、それを使って新規事業を開発する場合、基本的には事業審査が社内で完結する。経理が利益率の審査をし、審査部がカントリーリスクや事業に関係する取引先の与信を審査する。法務部が契約面の妥当性を審査する。それに加えて、その事業開発に関わるラインの管理職が、役員・社長に至るまでそれぞれの立場で「総合的に」事業をやる価値を審査する。大抵の場合、こんな感じだろう。ここでの最大の問題点は、このすべての審査が「新規事業開発の素人」または「その事業分野に関わる素人」によって行われるということだ。経理、審査、法務などの管理部門は、その道のプロであってもその事業のプロではない。ラインの管理職も「これまでの事業」のプロではあっても「新規事業」のプロではない。そして、「新規事業をいくつも立ち上げ、その成功例を多数見てきて、新規事業審査の勘所」を理解した事業審査のプロでもない(ことが多い)。
 素人が審査するとどうなるか。単純に言えば、その事業を「やりたい人」に流される。資金が潤沢にあるような企業では、担当者が課長を説得し、課長が部長を説得し、部長が役員を……というように、下から上へと説得する。それから経理や審査、法務など、管理部門を説得する。その過程上ではあれこれと意見や追加情報要求などがつけられるが、はっきりと「絶対だめだ」とは誰も言わない。「絶対だめだ」というのは、そういう「権限」を持った人間だけである。すると、どうなるか。基本的には役員以上が「絶対だめだ」と言わない限り、その事業はつぶれない。コンピテンシーアセスメントをしているとよくわかるが、新規事業を通そうとする場合、普通は「上から根回し」をする。役員や社長が「だめだ」と言わないものを、管理部門や末端の管理職が「だめだ」とは言わない(だから、社長や役員のトップダウンで新規事業が発案された場合、ほとんど審査らしい審査が行われないケースも多い。社員がみんな反対していても、ゴーサインとなる)。
 管理職は上に行くほどその道の素人で、その事業のことをよく知らない。社長や役員は個別の分野のことなんてよくわからないから、「部下を信じる」しかないのである。そんな感じなので「やりたい人」は、都合の良い情報ばかりを出し、都合の悪い情報を出さなくなる。嘘はつかないけど、聴かれないことには都合が悪ければ応えない。結局、社長であれ、役員であれ、潤沢に資金があればあるほど、失敗しても取り返しがつくと思うから、よほど致命的な何かがないかぎり、ゴーサインを出してしまうのである。
 この点、「お金がない」企業はどうするか。自社にお金がないのだから、よそから調達してくるしかない。銀行か投資会社。「こういう新規事業を行うから、お金を出してください。」と、プレゼンして回る。相手は、ベンチャー企業の立ち上げも含めて、新規事業を審査するプロである。審査の評価基準も、評価のために必要な情報が何かも、きちんと整備されている。過去の審査事例もたくさん持っているから、経験値が審査の妥当性を高めてくれる。社内のようにごまかしがきかない。複数の金融機関を回って、複数から資金が獲得できるならば、少なくとも社内だけで審査した事業よりは成功確率が高いのは当然だ。また、お金がない会社である前提だから「会社保証」なんて意味がない。あくまでその事業のパワーだけを真剣に審査される。間接金融(融資)ではなく直接金融(出資)ならば、成功の利益も期待するから、審査だけでなく成功に向けたアドバイスや支援(優秀な経営者の調達など)も積極的に行ってくれるケースもある。
 このような外部資金を導入する場合、いきなり巨額の投資を行わない。普通は段階を踏む。小さなスケールで事業を立ち上げ、目先の小銭を稼ぎながらビジネスモデルを完成させていく。ある程度完成度が高まってきたら、一気に資金を投入し、スケールアップをしてキャピタルゲインを獲得する。そこからは自律運用で収益を次の投資に回し、成長軌道に乗せていく。もちろん、スモールスケール段階で、事業が何らかの事情でうまく立ち上がらないこともある。想定されたニーズが無かったり、必要な技術が完成しなかったり、他社が先に確立してしまって出遅れたり。お金がなくなり、追加資金を獲得しようと思えば、具体的な対策を立案し、新たなビジネスモデルへの転換も含めて「こうすれば、立ち上がる」という絵柄を書いて、金融機関を説得する。それでお金が出てくるということは、Check、Actionが認められ、事業性が確保されたということになる。それができなければ、資金が回収されるか打ち切りとなり、名もないまま消滅していく。まさにPDCAだ。資金調達のためには、生きるか死ぬかのPDCAを強制的に回し続けるしかないのである。
 ところが、資金が潤沢にある会社の新規事業立ち上げプロセスを見てみると、たいていの場合、一度も満足に立ち上がらないのに何度も何度も追加資金を入れ続けるのである。PlanどおりにDoができない。なのに、CheckもActionもない。理由としては「もう少しでうまくいくから」くらい。または「いまやめれば、これまでの資金が損失になるから」という理由で、追い銭が入る。こうやって、お金がある会社の新規事業は、PL上の損失を出さないために、BS上の「開発投資」を増やしていくのである。で、どうにもならなくなってから、巨額の「特別損失」を出すのである。

 新規事業を成功させるにはどうしたらいいか?
 以上のような観点からは、「会社保証なしで外部から資金調達させる」というのが、究極の業務改善策なのかもしれない。そうでなければ、「事業審査のしくみと体制」をしっかりと立ち上げることが大切だ。新規事業に成功している、「事業創造、輩出企業」は、総じてこの条件を満たしている。
 新規事業がうまくいかないのは、資金が潤沢にあるから。これが二つ目。三つ目の理由もすでに一部出てきているのだが、改めて来週に。