2018.05.22
新規事業がうまくいかない理由;
私はビジネスコンサルタントではないので、どんなビジネスが売れるとか売れないとか、そういうマーケティング的なことに口を出すつもりはない。しかし、マネジメントコンサルタントとして、業務分析やコンピテンシーアセスメントを繰り返していると、新規事業がうまく行く場合の「開発プロセス」とうまくいかない場合のそれとでは、明確な違いがあることに気づく。新規事業開発も業務プロセスという着眼点で考えれば、通常の生産や営業、管理、事務などと同じように、改善すべき点が見えてくるのである。
新規事業がうまく行くか行かないかを分ける、大きなプロセス上の差異が三つある。
一つ目は、そもそもの発想の起点である。新規事業が成功した場合のプロセス分析をすると、多くの場合、最初に『売れる商品・サービス』を発想している。これが大きい。失敗しているケースは、これができていない。
そう言うと、多くの方が「なんだ、当たり前じゃないか」と呆れる。売れる商品やサービスが考え付いたら、誰も苦労しないよ、と。だけど、私が言いたいのはそこではない。手順の問題なのである。新規事業に失敗しているケースの多くが、そもそも考えつくかどうか以前に「売れるか、売れないか」から考え始めることすらしていないのである。どういうことか。
「売れるか売れないか」や「売れる商品やサービスとは何か」より先に、「うちのどんな技術を使って新規事業を行うか」「自社のどんな強みを活かして新規事業を行うか」というように、プロセスの定義から先に始めるのである。逆に、どんなに売れる商品やサービスを思いついたとしても、「そういう技術はうちにないから無理だ」「そういうノウハウはうちにはないから無理だ」「そのビジネスを、ノウハウのないうちがやる意味はない」など、プロセスを理由に頭から否定して、検討をしようともしない。
プロセス・ファースト、プロセス・オリエンテッドとでも言おうか。常にプロセスありきからスタートするのである。売れるかどうかという一番大事なゴール、目的よりも、プロセスを開発是非の判断基準にする。先ほどの「売れる商品・サービスから発想する」という言葉に対して、当たり前じゃないかと言っている人でも、多くの場合、先に「我が社の強みが活かせる領域で」売れる商品、サービスはないかというように、無意識のうちに制約をかけていることが多い。
そもそも新規事業を開発する必要性が生まれるのは、「我が社の既存の技術、強み」が活かせる商品、サービスに限界がきたり、世の中の進化が「我が社の既存の技術、強み」を超えたところに向かったりすることで発生する。だから、「我が社の既存の技術や強み」を前提に新たな事業を開発しようとするアプローチ自体に矛盾が内包されるのである。
では、成功している人や組織は、全く制約をかけていないかと言うと、そんなこともない。ただ、かけている制約がプロセスではないのだ。「こういうビジネスはやらない」という制約は設けている。たとえば、営業利益率が30%を下回る商売はやらない、とか。あとは、公序良俗に反するビジネスはやらない、とか。会社の価値観、理念に反する条件をあげて、縛りをかける。だから、「こういうのをやろう」という条件ではなく、「こういうのはやらない」という制約になっているケースが多い。ただし、「できないことはやらない」という、プロセスや能力で縛りをかけるようなことはしない。むしろ、やったことがないとか、能力的にできないということを理由にすると、「はじめから簡単にできる商売は、後発が入ってきてすぐに食われるに決まっている」という価値観があるから、むしろそういう、やったことがない、できないという理由は積極的に排除して、「難しいかもしれないが、売れる可能性があるならやろう」と考える。
新規事業の開発をすすめるときは、プロセスではなく「これから売れる商品、サービスは何か」から考える。その商品、サービスが、自社の理念や価値観に反しないかを検証し、問題なければ、どんなに既存のビジネスとかけ離れていても、どんなに自社の能力やノウハウがなくても、「売れる」ならやらない理由はないのである。
最初に考えるべきは、プロセスではなくゴールから。新規事業開発も、営業や生産となんら変わらない基本原則が当てはまる。
思ったよりも長くなってしまった。なので、残り二つは次回以降につづく、ということで、あしからず。