2017.04.11
意図の偏り
仕事の向き不向きというのは、人事関係のコンサルティングをしていると、頻繁に出てくるテーマだ。採用や評価、それに配置や育成など、どんな時でも「仕事と人のマッチング」を考える上で、向いているかどうかは、どうしても気になる。
その仕事の向き不向きを語るときに、「できる、できない」というように、能力という側面から見ることが多い。しかし、コンピテンシーアセスメントをしていると、その人の能力、スキルよりも、『意図の持ち方』のほうが影響が大きいように感じる。
意図の持ち方には、個人ごとの偏りが出る。動機付けのあり方、興味関心の持ち方がその要因であろう。同じ状況に出会っても、目指す方向性が異なるのである。たとえば、お店にお客さんが入ってきた。そういう状況において、「このお客さまに笑顔で帰っていただこう!」という意図を無意識に持つ人がいる。一方で「このお客さまに1万円以上をお買い上げいただいて、客単価を引き上げよう!」という意図を持つ人もいるだろう。どんな方向性であれ、こうした積極的な意図を持つ人ばかりではない。「何か一品でも買ってくれるといいな」くらいの意図を持つ人もいれば、もっと消極的に「何事もなく、帰ってくれればいいな」とか「うわ、入ってきた! 早く帰ってくれないかな。余計な仕事を増やさないでよ!」といった、非常にネガティブな意図を持つ人もいるだろう。
こうした意図の持ち方は、もちろん同じ人でも状況によって異なるだろう。だが、長期的に見てみると、意外と似たような意図を形成していることが多いのだ。場面や状況が違っても、お客さんに喜んでもらいたい!と思う人、稼ぎたい!と思う人、逃げたい!と思う人。同じ人間だから、同じような傾向が出てくる。
意図の持ち方、動機付けの方向性に沿って、その人のアプローチや方法論など、行動や能力発揮の方向性も自ずと偏ってくる。同じ提案力でも、お客様に笑顔を!という意図を持つ人は、その目的に沿った方法論を考える。稼ごうという意図を持つ人は、そっちに向けた頭の使い方をする。
意図の持ち方が「稼ごう!」というタイプの人に、顧客を満足させるための手法論を教えても、あまり実りが出てこない。同様に、「顧客の笑顔!」という動機付けの人に、稼ぎ方のノウハウを伝授しても、あまり実を結ばない。
こう考えると、仕事と人のマッチングで最も重要なのは、その仕事で求められる成果イメージを具体的に定義することと、その成果イメージにより近い意図を持てる人、またはその成果イメージに興味や共感を持てる人を組み合わせることが最も重要ということになる。
好きこそ物の上手なれというが、意図が一致すれば、自ずと能力も身についていく。
意図の偏りをしっかりと自覚し、把握することが、適職・適性を評価する上では欠かせないのである。