2019.05.29
(7)コンピテンシーインタビューの基礎 ③スキーマの一つ目の弊害
スキーマのビジネスにおける二つの弊害は、以下のように表現されます。
(1)スキーマに合うことしか重視しない
(2)スキーマに合わせて無理やり解釈しようとする
今回は、一つ目の弊害についてご紹介します。
スキーマに合うことしか重視しないというのは、言い換えれば、他の可能性を軽視したり無視したりするということです。
人を見るというシーンで言えば、たとえば、Aさんという部下がいて、その人が配属直後に痛烈なミスをしたとしましょう。その記憶が強く上司の脳みそに残ります。その結果、上司には、
「Aさんは、ミスをする人だ!」
という、思考の枠組み、つまりスキーマができる。本当は一回しかミスしてないし、普段は慎重で、他の人よりもむしろミスが少ない人だったとしても。たった一回のミスで、「ミスをする」というスキーマができてしまいます。
すると、上記の一つ目の弊害が出てきます。
たまに、ほんのちょっとしたミスをしただけでも、
「ほーら! やっぱりAさんはミスをする!」
と、重視して、強く記憶に残す。本当にちょっとしたミスなのに。
一方、スキーマに合わない事実は軽視します。たとえば、みんながミスをした中で、Aさんだけがミスをしなかった。そんな時は、「Aさんはミスをする」というスキーマに合わないので軽視、または無視をします。
「たまたまだよ。」
とか。
そんなふうに軽んじているので、そんなことがあったということすら、すぐに忘れてしまいます。
これを繰り返していくと、ちょっとしたミスでも、「ミスをする」というスキーマに合うことだけは強化されて印象に残り、「慎重に、ミスをしないようにうまくやった」「みんながミスをする中で、ミスをしなかった」といった、スキーマに合わない記憶はどんどん水に流されていきます。
いつしかその人の脳みその中には、「ミスをした」という記憶ばかりが蓄積していくわけです。
すると、
「この人は、いつもミスをしている。」
と、いう印象だけが強まっていく。
この、「いつも」とか「常に」というのが、コンピテンシーインタビューでも要注意キーワードになってきます。
スキーマによって評価が固定化している人に、
「たとえば、Aさんがミスをしたという、具体的な事例はありますか?」
と、質問すると、
「特に、と言われるとすぐには思い出せないけど、あの人はいつもミスをするんですよ。」
と、いうように「いつも」という言葉で説明しようとするのです。
本人には悪気はなく、本当に忘れているだけだ、と思っています。だけど、本当は、印象が残っているだけで、実は、そういう事実がない。だから、
「時間がかかってもいいから、一つでいいから、具体的な事例を挙げてみてください。”いつも”というくらいですから、覚えている範囲の、最近の事例でいいですよ。」
と、粘り強く聞き出そうとすると、
「そういえば、6年前に!」
と、スキーマの基になった大失敗例を話し出したりします。
いつも、と言いながら、6年もさかのぼらなければ、記憶に残るような失敗がない。それを指摘しても、
「おかしい。思い出せないだけなんだ。こんな風に質問されるなら、次回からメモをしっかり残しておこう。」
というように、なかなか偏った認識から脱却できないことも多いものです。
コンピテンシーインタビューでは、よく、
「一つでもいいから、具体的な事例を」
と、言われます。これを評価者研修や採用面接の研修で話すと、
「他にもいろいろな活動をしているはずなのに、たった一つの事例で評価してよいのか?」
と、懸念を示す方が多くいらっしゃいます。
その通り。いろいろな活動をしているでしょうから、データはたくさんあればあるほどいい。
だけど、抽象的に「いつも」というレベルでたくさんの情報をカバーした気になっても、それは評価根拠となるデータにはならないのです。
たった一つでも、具体的な事例を確認できていれば、少なくとも、
「スキーマで、事実もないのに偏った評価に陥ってはいないよな。」
と、自分の評価の妥当性を検証できます。全く事実が思い浮かばないのと、たった一つでも事実が確認できているのとでは雲泥の差なのです。
コンピテンシーインタビューでは、まずは「一つの事実」にこだわります。
これはスキーマ対策なのです。まったく事実とかけ離れた、スキーマによる偏った、固定化した評価になっていないかどうか。
その確認をしっかりやるだけでも、だいぶ評価の妥当性が高まります。
そこから、「成果の再現性」の予測を高めていくには、データ数が多ければ多いほどいい。
このような2ステップでご理解いただくと、なぜ、コンピテンシーインタビューで、
「具体的な事実」
と、繰り返し言われるのかが、理解しやすくなると思います。
(この後、コンピテンシーインタビューの具体的なテクニックをご理解いただく際にも、このスキーマ対策という意味合いを意識しながら読んでいただくと、納得しやすくなるでしょう。)
次回は、二つ目の弊害についてご紹介します。