2018.12.26
(5)コンピテンシー分析の基礎 ①行動発生過程
ここからの何回かは、組織や人財をコンピテンシーの視点からどのように評価分析していくのか、基本的な分析手法について紹介していきます。
コンピテンシーの評価分析は、基本的には、
① 情報収集
② レベル評価
③ 能力種別の判定
という、3つのステップから成り立ちます。そのすべてのステップを整理しやすくするために、まずは行動発生過程というモデルをご紹介します。
行動発生過程とは、簡単に言えば、私たちがそれぞれ保有する能力を発揮し、成果を生み出すまでのプロセスを整理したものです。
なんとなく難しそうに聞こえますが、言われてみれば、
「なんだ、当たり前じゃないか。」
と、感じるような内容です。
気負わず、私たちが日々、どのように能力を発揮し、成果を生み出しているのか、ご自身の事例を思い浮かべながら読んでいただくと、理解しやすいと思います。
1) 状況認識
あなたが行動を起こして、結果を出した時のことを、何か一つ思い出してみてください。
その時、何からスタートしているでしょうか?
普通は『状況を認識する』というステップから始まっています。
状況とは、たとえば上司から仕事を命じられるとか、お客さまから何か相談を受けるとか、そういうことです。
いいことばかりではなくて、たとえば問題が発生する、事故が発生するというような、トラブルの発生も『状況』です。
私たちが行動を起こす時、まずは状況を認識することが、行動の起点となります。
逆に言えば、状況を認識することができなければ、行動を起こすことができないはずです。
同じ状況でも、行動を起こす人と、行動を起こさない人がいます。その違いは、まずは、そこで目の前の状況をどのように認識したかというところから、発生しているのです。
2) 意図形成
もちろん、状況を認識しただけでは、行動にはつながりません。
状況を認識すると、私たちは何らかの意図を持ちます。この状況をこう変えたい。それが意図です。
と、いうことは、目の前の状況を認識しても、その状況に満足したり、諦めたりしていて、その状況を「変えたい」と思わなければ、なんの行動も起こさないということになります。
また、意図の持ち方にも高いものから、低いものまでいろいろありえます。
クレーム発生という状況がわかりやすいので、クレームという場面を使って説明してみましょう。
クレームを受けた時、意図の持ち方というのは、実に様々です。
「なんとかごまかして、とにかく帰ってもらおう。」
と、非常に低い意図を持つ人もいるでしょう。
逆に、同じ状況を認識しても、
「こういうお客さまこそ、うちの会社を使っていてよかった!と、言ってもらえるように、頑張って対応しよう!」
と、非常に高い意図を持つ人もいます。
低い意図を持てば低いなりに、高い意図を持てば高いなりに、この後の方法を考えたり、それを実行に移したりするレベルが変わってきます。
そう考えると、ここでの意図の形成の仕方が、その人の成果の再現性を大きく左右すると言っても、過言ではありません。
3) 方法思考
意図が形成されると、それを実現するための方法を考えるというプロセスに入ります。
上述のように、高い意図を持てば、当然それを実現するためには、それなりの方法論が必要になります。逆に、低い意図を実現するには、それなりの方法でいいでしょう。
4) 方法実行
方法が考えつけば、あとはそれを実行するのみ、ということになります。
5) 状況変化
どんな方法であれ、行動すれば状況が変わります。
先に挙げたクレームの例で言えば、
「こういうお客さまにこそ、うちの会社を使っていてよかった、と、言ってもらおう!」
と、高い意図を持ち、その方法を考え、それを実行できたとします。
しかし、物事が必ずしも意図通りになるとは限りません。実行した方法が逆効果となって、相手が烈火のごとく怒りだした。そんなことだって起こります。
これが、状況変化です。普通の表情でクレームを申し立てていたという状況が、烈火のごとく怒るという状況に変わる。
そこで、行動発生過程の最初に戻ります。つまり、『状況認識』に戻るわけです。
「うわ、怒らせてしまった。」
と、いう状況認識を持つ。
その新たな状況認識に対して、新たな意図を形成します。相手が怒っているのに、それでもなお、
「うちの会社を使っていてよかったと言わせてやる!」
と、高い意図を持ち続けることもあれば、さすがに妥協して、
「もういいよ。今回は勘弁してやるよ、と言っていただければいいか。」
と、意図を下方修正することもあるでしょう。
こうして、私たちは行動発生過程をサイクルのように回し続けていきます。
では、このサイクルはどこで終わるのか。
結論を言えば、状況に満足したところが終了地点です。
「この状況で、よしとしよう。」
そういう状況認識を持ち、新たな意図が形成されなくなる。
そこで、「成果」が確定するのです。
このように、行動が発生し、完結するまでの過程を、順を追って見ていくとよくわかるのは、行動発生過程の一箇所だけ高くても、どこかが足りていなければ、目指した成果を実現できないということです。
結果、私たちの行動は、行動発生過程の『低いところ』に合わせて調整されていきます。
たとえば、状況を認識したあと、高い意図を一度は形成したとしても、次のステップで方法を考え出す能力が不足していると、当然そこで意図を妥協したり、またはぐずぐず考えていて、いつまでたっても行動に移せないということになります。
また、方法が考えついたからといって、無条件に行動に移せるわけではありません。大変だなぁ、と、腰が引けたり、めんどくさいなぁと、後ろ向きになったり。
あとは、自分で考えついた方法でも、
「それができたら苦労しないよ。」
というように、自分のスキルや能力の限界を超えた方法だったら、実行に移すことはできないでしょう。
このように、一部がどんなに高くてもダメなのです。
状況認識だけ素晴らしくてもダメ。意図の形成だけが高くてもダメ。
方法を考える力だけが高くても、そもそも上流の状況認識や意図の形成が間違っていたり、低かったりしたら、下手するとすごく迷惑な人になりかねません。
行動する力だけが高くても、意図を形成したり、方法を考えることができなければ、結局は、
「誰かの手足になって動く人」
にしかなれず、その人自身が自らの力で成果を出すという状態には程遠い。
このように、行動発生過程を当てはめて分析してみると、その人の強みも、課題もかなりはっきりと見極めることができます。
コンピテンシーの実務について、今後、インタビューのしかたやレベル尺度、強み弱みの分析といった具体的なテクニックを紹介していきますが、いずれも、行動発生過程を踏まえて整理していくと、わかりやすく、また、実務に繋げやすくなります。
同時に、コンピテンシーの視点からの人材分析(評価)だけでなく、その後の人材活用や、コンピテンシー開発(育成)といった応用編にもつながっていきます。
まずは、ご自身の過去の事例を、この行動発生過程に照らし合わせて整理してみてください。
コンピテンシーという言葉をそれほど意識しなくても、自分自身の強みや課題を、具体的に言語化できるはずです。
弊社は今週いっぱいで年内の営業を終了いたします。
今年も多くの方々と出会い、多くの皆様にお世話になりました。改めて御礼申し上げます。
来年は、新たな時代の幕開けとなります。
みなさま、良いお年をお迎えください。