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今日の一言

目的のない仕事

すべての仕事には、目的がある。そんなことは当たり前じゃないかと、多くのビジネスパーソンが言う。しかし、業務改善の現場では、『目的のない仕事』が驚くほどたくさん見つかる。なぜ、そんなことが起こるのか。私は『自己責任』と『主体性』という感覚の欠如が原因だと考えている。この二つの言葉、多くの会社において、新入社員に求める要素として挙げられる。しかし、新入社員だけでなく、すべての社会人が再認識すべき事項だ。
多くの人が「すべての仕事には目的がある」という点について同意するのに、一方で目的を持たない仕事が日々量産されるのは、一言で言えば確認不足によるものだ、
たとえば、朝礼という日本の会社にありがちな「儀式」。これについて、「朝礼の目的はなんですか? 朝礼で得られる成果は?」と質問すると、たいていの人が答えられない。「では、目的も成果もないのだから、やめてしまいましょう。」と提案すると、「いや、自分がわかっていないだけで、目的はあるはずだ。だから、やめるわけにはいかない。」と、抵抗される。自己責任と主体性の欠如とは、こういうことだ。目的を確認もせず、そもそも自分で考えたこともない。なのに、「目的があるはずだ」と盲目的に確信している。目的を考える部分を他人に依存している。この他人というのも、誰とも特定されない「誰か」だ。
私がこれまでに見てきた限りでは、朝礼の目的は、おそらく点呼と情報共有だ。全員そろっているかどうかを確認し、それから全員が知っておかなければならないことを伝えるために、昔は全員が集まる必要があった。あくまで昔は、である。いまは全員が集まらなくても、出欠も情報もITで展開できる。集まる必要などない。ついでに言えば、仕事によっては会社に来る必要すらない。つまり、以前あった目的は、すでに失われているのである。なのに、無理に朝礼を続けようとするから、社員による3分間スピーチやスローガンの唱和など意味のないコンテンツを拡充し、誰もが無駄だと思いつつ「明日は何を話そうか?」と内容を充実させようとする。
同じ朝礼でも、自己責任と主体性を持って運営している人たちもいる。私のお客様の、ある現場リーダーの方もその一人だ。その部署は高所作業を伴うが、彼は「朝礼の目的は健康管理のためだ」と言い切った。高所作業を伴うので体調不良は事故の原因となる。だから、始業時の健康管理は欠かせない。そこで彼は更衣室に体温計と血圧計を置き、出社時に測定することを部下に義務付けた。その結果を上長である自分に申告させる。それから、自分の前で目を閉じて15秒間直立させる(これは、貧血や平衡感覚の異常を確認する方法として有効なのだそうだ)。一回の朝礼に要する時間は20秒ほどだ。
ちなみに、この会社の他の人たちは「朝礼の目的は?」という質問に答えることができなかった。そして毎朝10分ほどかけて、だらだらと誰もが知っている今日の予定確認や、誰もメモを取らないスピーチを行うなど、他社でもありがちな朝礼になっていた。
なお、同じような仕事をしている他の部署では「一斉に朝礼を行い、一斉に作業を開始する」ために、事務系部門では導入しているフレックスタイムを導入していない。「あつまる」ためだ。だが、このリーダーのチームはフレックスタイムを活用している。なぜなら、この朝礼は集まってやる必要がないからだ。体温や血圧の申告、15秒間の直立を他のメンバーの眼前で行う必要は無い。リーダーである自分か、自分がいない時に対応するサブリーダーが1対1で行えばいい。実施の有無とその結果をイントラ上のリストに記入すれば、リーダーの自分がどこにいても確認できる。
仕事の目的を責任をもって確認する。その目的を達成するために創意工夫を凝らす。それが主体性。もし、目的がわからないなら、道は二つ。自らの判断でやめるか、または自らの責任で明確かつ有益な目的を設定する。それが自己責任。
目的を失ったまま仕事をするほど無駄なことはない。管理職が目的も知らずに部下に作業を指示したとしたら、部下にとってこれほど迷惑な話はない。
あなたは一つ一つの作業やルールについて、目的と成果を具体的に説明できるだろうか? ビジネスパーソンの試金石と思って、検証してみてはいかがだろうか。